最高でも、最悪でも。

不動ジュン

小雨と彼と

 嘘をつくのは嫌いだった。

 ちょうど、この霧雨のようで。



 目を覚ます。
 視界に飛び込んだのは、淡い灰色。
 鼻をつく空気の匂い。
 朝だ。

 雨の匂う、朝の空気だ。
 

 意識の端っこの方で音がする。
 たぶん、携帯だろう。断続的に震えているから、どこかの誰かさんからの生存確認の為の電話と見てまず間違いない。…ハズだ。
 ずるずるとベッドの上を這い、手を伸ばす。
 なかなか届かなくて、仕方なく布団を被ったままのろのろと膝立ちでベッドサイドの棚に置いた携帯に指をかけた。
 表示を見もしないで応答する。
「はぁい、もしも…」
『あ゛っ!やっと出たな!?生きてるなら返事くらいすぐしろこのバカ!!』
「……なぁんだー、たすくかぁ」
 男の勢い任せな罵声に怯む暇などなく、ほっと安堵に息をいた。
 むしろちょっと嬉しい。
 心配性は、相変わらずのようで。
『なぁんだー、じゃねえよ…連絡は?』
「した、と思う…母さんが。ハリセンが言ってなかった?」
 ハリセン、とはうちの高校の担任教師のあだ名である。播磨はりま先生と言うのだ。下の名前はいつしか忘れてしまった。
『あぁ、あの人昼から出張だったから俺は聞いてない。ってかクラス違ぇのにわざわざ聞かねえよ』
「そりゃそうかー、はははは」
『はぁ…心配して損したわ』
 後ろで響く雨音も、ため息混じりの声も、どこか優しくて。
「雨、大丈夫?」
『大丈夫じゃねえよ。いつもと同じだ』
 今も頭痛いんだろうな。
 早く切った方がいいかな。
「佑」
『…あぁ?』
 聴こえないように、ゆっくり息をする。
 それから短く発声した。
「ありがと」
『っ、』
  小さく、息を詰める音が聴こえた。

コメント

コメントを書く

「現代ドラマ」の人気作品

書籍化作品