AI`s(アイズ)

小鳥 遊(ことり ゆう)

第五話:せめぎ合う生命(いのち)

 路地での惨劇から数週間、解放軍は息をひそめていた。というのもやはりリーダーの死というのが彼らの疲労感と不安感を上げていた。寄り不安にさせていたのは彼らが口論ばかりしているからだった。


「大丈夫だ。もっと武器を集めて報復するんだ。そうすればやつらも自分達が無能で何も考えてなかったことが理解できるさ。そうすればあいつの死も無駄では・・・」

「そういう問題じゃないんですよ。ヨハンさん。目先の敵じゃなくて、ぼくらが恨むべきはあのシステムなんです。あのAIをどうにかすればまた人間は自分の意見を、意志を持ち始めて人間らしくなってより対話的になってくれるはずです。だから同じ人間に牙をむけるのではなく・・・」


ヨハンはうるさいと言い放ち、手当たり次第に周りのものをシロ―へと投げつけて、挙句ただぼうぜんと立ち尽くしていたシロ―に対し、拳を振りかざそうとしていた。頼みの綱のケイイチは何もできずというよりか元より上の空でヨハンは周りのガタイの大きい男二人に羽交い絞めになった。とうとうこの状況に見切りをつけた住人は


「もういい加減にしてくれ。元はといえばシローとかいうガキが変な気を起こさなければ個々は平和なままだったんだ。もう世迷言は捨てて元の世界に帰ってくれないか。」


彼に続いて他の人も

「そうよ。彼のせいでヨハンもリーダーもおかしくなってここもこんな戦場みたいになったのよ。」


などといろんな非難を浴びせていった。シローは返す言葉もなくただうなだれて立っていた。
そこにヨハンの横やりが入り


「確かに、こいつが来てからというもの、俺たちに不利な状況ばかりで苛立つのはわかるし、一理ある・・・しかし、こいつが来る前から俺は、いや俺達がAIや警察の横暴に対して力づくでこの世界を変えようとしていた。
だからあいつだけ避難するのは的外れと違うんじゃあないか?」
 


彼の言葉に基地内全員が黙っていった。この静かな緊張感にシロ―は少し繊細に言葉を選びながら

「ヨハンさん、感謝します。こうやってあなたと少しわかり会えてよかったと思っています。そう、人は自分の意志で対話することでお互いにわかりあえるんです。あんな機械に頼りきりでは一生、真の平和というのは訪れない。憎むべきはAIによって創られた社会構造だと思うんです。その構造を壊すには本拠地のこの市の中央にある『セントラル・タワー』を壊すこととそこから自分達だけで何かをしていく勇気が必要なんです。その勇気をぼくたちが芽生えさせていきましょう。だれか賛同してくれませんか。」
 

 シロ―の長い演説にそこにいた全員がだまりきっていて、それからずっと沈黙が続いた。誰も彼の意見に賛同しようとしなかった。彼が全員の顔をずっと見渡していると目をそらす人や顔を打つ向かせたりする人ばかりであった。だが、やはりこの男は違った。


「そうだな。確かに、俺は自分で言っててなんだが的外れな行動をしていたのかもな。今回のことで少し俺は理解したよ。本当の敵がどこにいるのかって言うことを。だからこいつの言う作戦に賭けてやる。行きたくない奴は来なくていい。他にいないのか?」

彼の賛同はとても頼もしかったが今までのつけもあり共に闘うという人はだれも現れなかった。時間だけが過ぎていく中で、二人は決心して何も言わずこの秘密基地を去ろうとした。二人に駆け寄ってケイイチが悲しそうに、だが、気高く


「おいらも行くよ。みんなはあんなふうだけどおいら二人を尊敬してるし信頼したい。だから…」

そこにヨハンが彼との身長差を埋めるようにしゃがみこんで眼を合わせながら

「お前には特別任務がある。他の奴には絶対に頼めない大仕事だ。いいか、よく聞け。お前にここを任せる。けんかがあったり外に出たいってやつがいたら全力で止めろ。・・・それだけ、頼む。」

ケイイチはヨハンの決意を胸に元気よく二人を送った。
 







 ヨハンとシロ―がセントラルタワーに向かう頃、シロ―の友人ジョーは彼の今後の動向について秘密裏に会議していた。



「・・・エドも入れて大丈夫なんですか?彼は一様アンドロイドだし、AI'sに知れたら・・・”あれ”の判断は今、彼らを生死問わずの指名手配犯で、見つけ次第銃殺して構わないってなってるんですよ!」


『以前言ったように、私は機関がつくられる前のバージョンで、私のAIシステムはあれらの管轄下ではありません。ですので自由意志のあるアンドロイドとして活動可能です。』


「今の時代からすればこいつなんて骨董品同然なんだ。そんな昔の型にまで統治しようという気力がないのさ。しかも警察は基本自由意志を持つことのできる対象として認定されるから”耳あて”は必要ないのさ。たいていの奴が忠犬だからな。だから狂ってない俺たちが彼を逮捕し、罪を償わせるんだ。それでオッケー?」


サバラは二人に改めて状況を説明した。アイズの意志のもとに友人を射殺しようとする警官隊より先に自分達が彼を止めて逮捕することが先決だということであった。これは時間の猶予のない戦いだ。しかし、決定打となるシロ―の現在の居場所を特定できないままであった。


「サバラ上官、一刻を争う状況ですが、自分の仮説を発言してもよいでしょうか。」

「とりあえずなんでもいい、いや、お前なら彼の動向が分かるかもしれん。話してくれ。」


「彼は多分、こんな状況でも世界を変えようと考えてるはずです。だから彼はアイズの母体のあるセントラルタワーに向かおうという考えになるはずです。だかららそこに行けば、もしかしたら・・・」

『論理的にあり得ません。破たんしてます。普通に考えて手配犯である彼はそのような警備の手厚い所に行くはずがありませんよ。』


エドは論理的に彼の事を説明したが人間は、いや、彼の友人であるからこそジョーは満を持して


「人間は時として非論理的なことをするんだ。こういうピンチな時は特にね。」

「確かに。その線は当たってみる価値はある。本当なら早くしねえとあそこには”番犬”がうじゃうじゃしてるぞ。へたすりゃ、あいつらと鉢合わせするぞ。」


かくして、彼らもシロー達の向かうセントラルタワーへと向かうのであった。





コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品