AI`s(アイズ)

小鳥 遊(ことり ゆう)

第三話:人形と道化

 俺が世間から居なくなってから一週間以上経っても俺の事がニュースになってないという事は、余程逃げるのがうまかったからか、世間的に人間がAIを無視して違反する事は隠蔽されているか、それとも本当に興味がないかのいずれかだろう。俺はこの一週間ニュースになって一気にお尋ね者になるかと思ったらそうでもなくて拍子抜けした。


「おまえ、人気者になれなくて残念な顔してんな…。」


「違います、、友人がこんな状況見たら嫌だなって…それだけです。」

歯切れ悪くシローが答えた。それに合わせてケイドはどうだかというような顔をしながら彼を見つめていた。シローはさらに話を続けた。

「ここに来て一週間経って言うのもあれですが俺ってお尋ねものになったんですよね?後、この場所割れたりしないんですか?次のデモはいつやるんですか?人間は本当に解放できるんですか。」

「質問が多いねえ。だが、ここに来てまだひよっこのお前に特別に教えてやろう。まず、一つ。お前はフタを外した時点で人として管理されてないから情報がない。言ってしまえば、動物園の動物が逃げたようなもんだ。それが年に数十人と増加してるんだ。今さら逃げたって小型動物レベルなのさ。二つ、この場所が割れないのは内装がステルス戦闘機と同じ構造でレーダーに反応しない。だから安全なんだ。三つ目と四つ目はお前次第だ。」

「じゃあ、どうすれば---」

「それは俺が決めることか?」

 その言葉にシローは凍りついてしまった。彼自身が決めなければならない事を他人に決めてもらう事は結局、前の生活と同じになるのだ。戸惑う彼をよそにケイドは少しいじわるそうな顔つきで

「まぁ、最初はそんなもんよ。人と人は持ちつ持たれつだよ。一方的になったらそれはAIと同じようなもんさ。」

シローはケイドを睨み、ケイドはそれを面白がっていた。
 シローが来てからというものの何かしらでケイドと揉めていた。そんな相容れぬ二人に割って入って来たのはいつもケイイチだった。

「もう!二人ともよしなって!ここの雰囲気悪くなるから…。それより、大変なんだよリーダー!」

ケイイチは神妙な面持ちで続けた。

「また、ヨハン派が!」

さっきまでひょうきんだったケイドの表情は一気に殺伐とした。


「あいつら---行くぞ、シロー。」

「えっ?すいません。状況が...。」

「おいらが行きながら教えるから!取り敢えず、今は戦力が必要だから来て!!」

並々ならぬ状況に俺は従うしか無かった。ケイイチは走りながら説明を始めた。


「ヨハン・スミルコフ。おいらたちの仲間ではあるんだけど、どっちかというと武力派なんだけど結構テロとか起こしちゃうんだよね。アンドロイドとか壊したり、管理出来なくなった人たちを収容してる場所を襲撃してたりとかしてて、おいらたちは平和的に交渉したいんだけど、、、」


どうやら、ケイド率いる穏健派とヨハンの武力派に分かれているらしい。さらにケイイチは


「今回は要管理区域の第3地域の解放の為に武力行使してるらしい。それも結構激戦になってるらしいんだよ。それを止めないと!」

それに答えるようにケイドは

「多分流血は避けられんだろうねぇ。ボウズ、シロー、これを装備しとけ。」

渡されたのは拳銃だった。こんなにも発達した世界でも人を殺すのはやはりこんな原始的なものになるのだ。そうしてるうちに現場に到着した。警察部隊はまだ、到着してないようだ。管理用の警官達はそこに息をせずに転がっていた。いの一番に言葉を発したのはケイドだった。


「ヨハン!! 今すぐずらかるぞ!目標は達成したろ。」

「よぉ〜。ケイド。今から警察どもの目を覚まさせてやるから邪魔すんな。そんでそこのガキども、お前ら邪魔すんのか?しないならこっち手伝え!」

「ヨハンさん、やめましょう。とりあえず今は状況が悪いですよ。」

機動隊の足音がどんどんと大きくなっていく。

「もう、みんな帰ろうよ~。」

緊迫した中で泣き叫びながら言うケイイチを含む俺たちに対して警察機動隊は待ってくれるわけもなく

『人類解放軍 ヨハン・スミルコフ以下十三名、人類管理法第100条にのっとり実力を行使します。』

「大人しく投降しなさい。」


銃を突きつけられる。それも大勢の人から。こんな昼間、しかもみんなお昼を食べて落ち着いているって時間に…物騒な世の中なのは多分昔と変わらないのだろう。


「さっさと逃げるぞ!ヨハン!武器を下させて、退避行動に移れ!」

「誰が、お前をリーダーって言ったよ。一部がまつりあげてるだけだろ。命令を聞く義務は無い。自由ってそういうことだろ。」

ヨハンさんの言葉は少し自分に刺さった。でも、自由ってなんでもやっていいってことなのか?だが、今はそんなこと考えてる場合じゃない。

『“人類管理法第100条5節。人間が管理外に置かれており、その人間が武力行使している時、管理官及び警察官は武力を持って制圧し、統制を図るべし。”現時刻を持って法的処置によって武力行使します。』

「やむを得ないな。全員、配置につけ! いいか、相手を戦闘不能にさせるんだ。殺すなよ。」
四方から銃のコッキング音が鳴り止まない。こちらも防衛戦を貼るしか無いだろう。


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 一瞬の静寂からやがてその場は銃弾の雨にになり、家屋も仮に置いていたバリケードも蜂の巣のようになっていくのであった。銃声や手榴弾の爆発音でかき消されながら俺たちの生存を確認しあった。


「思ってたより野蛮な戦いだなって顔してんな。」

「ケイドさん、からかわないでください。っていうかそんな事思ってませんよ。」

「なあ、シローよぉ これが今の世界ってどう思う?」

そんな事、生まれる時代を間違えたというべきなのか、もっと進んでると思ってたとかなのか今は分からない。それでも…

「生きて、次生まれくる子たちに話さないとですね。僕たちの英談を」

「生きないとか…やはり、お前さんは面白い。お前の言う通りもっと俺たちを世に知らしめる必要があるのかもな。」






劣勢だった俺たちを奮起させてなんとか持ちこたえてきたが、取り敢えず撤退戦に持ち込めた。ケイドたちが前に出て、警官達を何人か殺したこともあったが、足止めすることができた。俺たちは少し安堵していた。疲弊しつつも何人かはアジトにたどり着けていた。だが、一人の便りのない警官のまぐれの一発で状況は変わってしまった。それは俺の目の前で起きた目を疑う光景だった。







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