念願の異世界転移がようやく俺にも巡ってきたけど仲間ばっかり無双してて辛い

たねっこ

第12話 校庭バトル

最後に残したオレンジ(食いづらい上に酸っぱいからあんまり好きじゃない)を片付けて、俺はビンに残った水を飲み干した。
オレンジを食った直後の水ってなんでこんな美味しくないんだろうな。

一人で黙々と食ってたもんだから、俺だけ早々に食い終わってしまった。


「ごっそさぁん」


「えっ、おそ!」


…なに?遅いだと??

その声の主は…ウミ!?


「遅いよ〜。ボクなんかソッコーで食べ終わっちゃって、イオリからロールパンいっこ貰って、エリカの嫌いなコールスローも食べて、オトハのウサちゃんリンゴひとつもらったところだよ。遅いおそ〜い!」


チビの大食いというやつか。
いったい食ったものはどこに消えるんだろうな。
ほんの少しでも、その無乳ナイチチに栄養が行き渡ればいいのに。


「ボクもごちそ〜さまっ! う〜、元気100倍! 早く黒いの来っないっかな♫」


あいかわらずのノー天気っぷりだ。


「おいおい…黒いやつが来ても困るだけだろ? あんな恐ろしいやつ、出来れば二度と会いたくないよ」


「も〜だらしないな! いくら刻印がないからって、そんなんじゃ男が廃るぞっ! それに、ミッション覚えてる!?」


「あ…」


そうだった。
確か卵をたくさん納品しろとかって内容だったな。たくさんってのがどれくらいかはよくわからないが、竜仙の小太刀を一振り買えるほど、ってわけじゃあるまい。


「たくさん、ってどんぐらいなんだろうな?」


「たくさん敵を倒しましょうっていうミッションがあったんだけど、その時は確か30匹くらい倒した段階で達成だったかなぁ」


イオリがロールパンをもぐもぐしながら答える。

なるほど。まぁ、イオリがいればすぐだろう。
その間、俺とエリカとオトハは後ろで応援だ。


「よーし! いっぱい倒すぞぉっ! 校門の方行ってくる!」


そう言い放ち、てけてけてけっと校門へ駆けて行くウミ。


「なんで校門?」


「『くろいひと』は、なぜか律儀に校門から入ってくるからだよ。この時間は、よく来るんだ。もう、来てるかも」


「そっか…なら、心配だから俺も行くよ」


えっ? と言わんばかりの仰天顔をするイオリ。

そりゃそうだ。刻印のない俺が行っても足手まといなだけだろう。
でも、さっきウミに言われたこと、実は結構、地味に心に響いたんだ。

刻印がないからって、そんなんじゃ男が廃る。

その通りだ。
俺は男だ。そんで、ウミもイオリも、強いって言ったって、女の子だ。
俺だけ安全なところにいちゃ、キンタマが退化しちゃうぜ。


「つーわけで、じゃ!」


「待ってアキトくん、危ないよ!」


「そーだぞぉ、アッキー。刻印使えねー組はここダラダラしてたほうがいいぞぉ」


「私もそう思います。いえ、悪気はないんですが…」


満場一致で止められる。
だが、そういうことじゃないんだ。


「大丈夫だって!」


俺は自分に言い聞かせるように声を張り上げ、そしてウミの後を追った。







はい無理。
来るんじゃなかった。
俺は光の速さで後悔した。

俺の目の前に広がる光景は絶望感で埋め尽くされている。

校門から、なんと、1、2、3、…
うん、もう数えるのもバカらしい、おそらく20〜30匹は居ようかという、黒いやつの大軍勢が押し寄せていたのだった。

しかもだ。やつらの手には、棍棒。モーニングスター。バトルアックス。人の脚。鉄の剣。六合槍。人の脚。
明らかに殺る気マンマンで得物を握っているのだ。

そいつらに対峙するのは、腕を組み、堂々と仁王立ちし、不敵な笑みを浮かべているウミ。

いくらなんでも黒いやつの数が多すぎる。
しかも、ちゃんとした武器を持ってるやつが多い。

こういう多勢に無勢ってのは、まさにイオリの能力のポテンシャルが最大に発揮される状況だ。


「おいウミ!! これやばいだろ! イオリんとこ戻ろうぜ!」


大声でウミに呼びかける。
だが、ウミは全く動じる様子はなかった。


「おおっと!? アキト、来てくれたの? やるじゃーん、ちょっと見直した!」


「そんなんはどうでもいいから、はやく戻ろう!」


「だーいじょー」


ウミはくるっと振り返り、思い切りVサインを俺に向けた。


「ぶいっ!!」







「どーすんよ? アッキー行っちゃったよ。いちお、追う?」


「追いましょう。念のためですが」


「うん、そうだね。行こっか」


三人は同じ事を考えていた。


まぁ…くろいひとが何匹いようと

たぶんもう・・・・・終わってるけど・・・・・・・







ウミが、一瞬、フッと俺の視界から消えた。

すぐにまた、現れる。

何が起こったかよくわからないが、一つだけ間違いなく言えることがある。

ウミは、今まで持っていなかったモーニングスターをその手に握っていた。


「う、ウミ? それ…」


「あ。アキトがこれ使う? ほい」


モーニングスターを無理やり渡された。


「じゃー、ボクはね…」


また、フッとウミの姿が消失した。

すぐにまた現れる。
今度は、その手には、鉄の剣が。

これ、もしかして…

黒いやつの軍勢をよく見ると、手には何も持たず、キョロキョロと不思議そうに首を振っている個体が二匹いる。

あいつらから奪ったのか!?
しかも、奴らに気付かれず!?

俺の考えを読み取ったかのように、ウミは言った。


「そうだよ。ちょっと向こうまで歩いて行って、ひったくってきた。…さぁ、バトル開始だぞっ!」


そのとき、黒いやつらの顔面が、ぱく、ぱく…ぱくぱくぱくぱくぱくぱく!

と一斉に縦に割れ始めた。白いニョロニョロが這い出す。
どうやらあれが、あの黒いやつらの戦闘態勢らしい。

ト、ト、ト…トトトトっ…

あんな重そうな身体なのに、驚くほど小さな足音で、黒いやつらはこちらへ向かって全軍突撃を開始した。

細い脚を俊敏に動かし、とんでもなく巨大なアレを壮絶にブランブランさせながら。


「ウミ! きた!! おいウミ!!」


もうウミの姿はそこにはなかった。


パァン!と先頭の一匹の右足が爆ぜた・・・。何もないところで、いきなりだ。

次いで、隣の個体の左腕が、同じようにパァン!と破裂音を上げて爆ぜる。

パァン!パン!パパパン!!

次々と、黒いやつらの足が、腕が。脇腹が。たまにチンコが。破裂音を発しながら爆発したように弾け飛んでいく。

パパパパパパン!
パパパパパパパパパパン!

しかも、破裂音と破裂音の間隔がどんどん短くなっていく。

脚をやられ、崩れ落ちた個体の頭が弾け飛んだ。

体勢を崩し、頭の位置が低くなったものから、次々と頭が爆発していく。

もはや何が起こっているのか全くわからなかった。

とにかくウミの姿は全く見えない。
見えないが、ウミの仕業なんだろう。
2.5メートルの高さにある頭部は、ちびっ子のウミには狙いづらい。だから、足から狙って、崩れたところで頭を叩いてるんだ。


…かくして、軍勢はあっけなく全滅した。
黒い死体が、次々とドロドロに溶けて、そして空に消えてゆく。
ウミが、バトル開始だと宣言してから、30秒も経っていない。

いつの間にか、ウミは俺の隣に立っていた。
かなり息が上がっている。

そうだ、ウミが力を使うときは、息を止めてなきゃいけないんだ。30秒とは言え、運動しながらの息止めってかなりキツイだろう。

しかし、はぁ、はぁ、と肩で息をしながら、ウミはこっちを振り向き、


「どーだっ! ぜーんぶ、剣の腹で引っ叩いてやったぜっ♫」


と元気一杯の勝利宣言。

息を切らせ、汗の玉をひたいに煌めかせ、キラキラの笑顔のウミは、とてもカッコよく、頼もしく、そして美しく見えた。

速さ、って、こんなにも圧倒的に強いものなのか。

ウミの強さを目の当たりにした30秒だった。






「おー! 案の定、もう終わってっし! てかすげー数!? 死体だらけじゃん!?」


エリカの声が背後から聞こえた。


「ウミー!アキトくん! 大丈夫だった!?」


イオリたちが俺たちのもとに駆け寄ってくる。


「あーったりまえでしょー! 楽勝っ! ね、アキトっ!」


「お、…おう! 楽勝!」


俺は見てただけだが。
見てただけ、どころか、見えもしなかったが。


「まぁ、ウミのことだから、正直心配はしてなかったけど。とにかく二人とも怪我がなくてよかった。おつかれさま」


イオリからの労いの言葉を受け取り、ウミはイオリの胸に飛び込んだ。


「どーよイオリっ! 惚れ直した!?」


「ぁはは…うん、直した直した」


昨日と同じように、イオリはウミの頭をヨシヨシする。


「さすが、圧巻ですねウミさん。さぁ、卵を回収しましょうか」


オトハが麻袋のようなものを持っている。
そうだ。卵を回収だ。iPadでの買い物の存在を知った今、黒卵はつまり福沢諭吉である。

正直何にもしていないが、それはそれ。
俺はウキウキで卵を回収しに走った。


一匹だけ、溶けかけながらも辛うじて生き残った奴がいることも知らずに。


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