念願の異世界転移がようやく俺にも巡ってきたけど仲間ばっかり無双してて辛い

たねっこ

第11話 校庭メシ

「んっぬぅ〜…くあぁ…」


朝だ。
俺は伸びと欠伸を同時にこなし、せんべい布団から身を起こした。

昨日三発しちゃったから寝覚めが悪いかと思ったが、早寝のおかげかスッキリなお目覚めだ。

宿直室の洗面所で身支度を整える。
部屋には、もうリンゴとバラの匂いは無い。
というか、擦ってから十分程度で匂いは消失してしまった。密室でそんなものだから、屋外ならもっとすぐ消えてしまうだろう。
俺以外の人間がこの匂いを嗅いだあと、どれくらい効果が続くかは不明だが、一度擦ったら延々とフェロモン残り続ける、というような心配はしなくてよさそうだ。


俺は同じフロアの、階段に一番近い教室へと向かった。初日、みんなで自己紹介した教室だ。


「おはよーアッキー」


引き戸を開けるや否や、エリカの声。
いつの間にかアダ名をつけられている。


「おはようございます、アキトさん」


いいんちょ…
いや、オトハがそれに続いた。


「おっはよーアキトっ! 昨日は一人で寂しくなかった!? だからって、ヘンなことしちゃダメだぞっ!」


ギク。
ウミよ、君はエスパーか?
すまん、ヘンなことは三回した。許せ。


「…おはよう、アキトくん。昨日はよく眠れた?」


最後はイオリ。
だが、どこか少し元気が無さそうだ。
なんというか、申し訳なさそうな?
気まずいような?
そんな表情だ。
やっぱり、昨日の羊の刻印のせいで何かあったのだろうか…
だが、俺には知る術はない。


「ああ、おはよう。よく寝れたよ。いろいろあって疲れちゃってたみたいで…はは」


俺は自分を誤魔化すように、おどけてみせた。


「それから、イオリ、腕輪ありがとな。安心して眠れた」


「えっ!? あ、ああうん、どういたしまして!」


ちょっと、心ここに在らずといった様子だ。
うーむ…


「それよりさっ! 見てよ! 新しいミッションだよ!」


イオリとは対照的に元気よくウミが言った。

…本当だ。9番目のミッションが追加されてる。


9.全員の力で卵をたくさん納品しましょう


と、書かれている。
俺は、昨日の黒いやつのことを思い出していた。
そう、たしか、イオリが黒いやつを真っ二つに切断して、それで死体がどんどん溶けていって…

最後に、真っ黒の卵みたいなのが残ったんだ。

それで、イオリがその卵を拾い上げてポケットに入れていた。

確かそうだったと思う。


「なぁ、この卵って、昨日イオリが…?」


「うん、そう。『くろいひと』の死体から得られる黒い塊のことだね」


そう言って、イオリはスカートのポケットから黒い卵を取り出した。


「それって何に使うんだ?」


「百聞は一見にしかず、ですし、たった1つだけですが、納品に行きませんか? 今は『くろいひと』もいないようですから」


オトハがありがたい提案をしてくれた。

俺たちは、念のため黒い腕輪を装備し、五人で校庭へと向かった。





俺たちは校庭に描かれた魔法陣の前までやってきた。
昨日の思い出が蘇る。スキルノート。黒いやつ。そしてイオリが助けに来てくれたこと。
全ては、この魔法陣が始まりだ。

直径約4メートルのその魔法陣は、淡く薄紫色に明滅していた。
いかにも魔法陣然とした魔法陣だ。


「納品っていうのはね、こうして魔法陣の範囲内に黒い卵を置くことで達成されるの」


言いながら、イオリは卵をひょいと魔法陣に放り込んだ。
その瞬間、ぼう…と薄紫色の光がひときわ強くなる。
それと同時に、卵が魔法陣に飲み込まれ始めた。地面にズブズブと沈み込んでいく。

五秒程度で、卵は完全に消え失せた。


「これでおしまい」


「なるほど。……で、それだけ??」


「ううん、そしたらね…」


ヴン。


と、不思議な音がした。
あれだ、スターウォーズでライトセーバーを振ったときに出る音だ。
同時に、イオリの目の前に、iPad Airくらいの大きさの、緑色のモニターが出現した。


「これ操作して買い物とかできるんだ」


か、買い物だと…!?
今の卵と引き換えに、ってことか??


俺はイオリの代わりに、宙に浮かんだホログラムのように実体感のないiPadの前に立つ。


「ふつーにタップとスワイプで動かせっから、テキトーにさわってみ?」


エリカが操作を教えてくれたが、それってますますiPadだな。
俺は目線をモニターに落とした。

えーと…

食料と水 …1個
服    …2個


などと書いてある。
たぶんこの、1個とかってのが、卵1個と交換できますよ、ってことなんだろう。

しかしえらくザックリだ。
服ってなんだ。どんな服出てくるんだ。

画面を下にスワイプしていく。
すると、出るわ出るわ。
無限に続いてんのかというぐらい、延々と商品が並び続けている。
しかも、並び順に規則性がない。
日用雑貨が連続したかと思えば武器になり、武器が続くかと思えば薬。薬が終わるとまた武器。
このインターフェースを作ったやつは壊滅的に才能がない。


日本刀 …10個
三節棍 …10個


なるほど。武器の相場はこんなもんか。


竜仙の小太刀 …1000000個


なんか凄そうなの出て来た。
いきなりケタが違いすぎだろう。
ひのきのぼうのすぐ下にふぶきのつるぎが並んでいるみたいな違和感あるからやめてくれよ。

やばい、楽しい。これずっと見てられる。
俺結構amazonとかでウィンドウショッピングすんの好きなんだよ。
俺は暇そうにしている四人なぞ気にも留めずに夢中でツイー、ツイーとスワイプした。


「あ、あの…アキトさん、それぐらいにして… みんなで、朝ごはんにしませんか?」


いい加減オトハに突っ込まれた。
朝ごはんて…ああ、そういうことか。


「これか。水と食料。1個でいいんだな」


俺は、商品リストの一番上にあった水と食料をタップした。
その瞬間、ふたたび魔法陣の輝きが強くなる。
そして魔法陣の描かれた地面から、グモモモモモモ…と、何かが浮き出てきた。

おいちょっと待て。ほんとによろしいですか?みたいな確認とか無いんかい。
こういうズサンなシステム、本当に嫌いだ俺は。これを作ったやつとは一生友達になれないと思う。


出現したのは、ラベルの無い、透明なビンに入った水が五本。
それから、小学校の家庭科の授業で使った裁縫箱くらいの大きさの、これまたなんのラベルも貼っていない、サバ缶五個。
いや、ラベルがないので鯖が入ってるかどうかはわからないが、見た目は完全にドでかいサバ缶だ。


「あ、五人分出て来てるんですね。」


「うん、そうみたい。あたしとウミ二人だけのときは、二人分しか出てこなかったんだよ。こっちの人数に合わせて出てくるんだね」


オトハとイオリが経験者トークをしている。

俺はというと、正直驚きが隠せない。
地面から何か出てくるのも不思議な光景だ。
たぶん俺もこうやって、グモモモモモモって出てきたんだろう。
なんともシュールな光景だった。


「さー食お食お! 教室戻るのめんでーし、外で食おー!」


エリカがはしゃぐ。
外でのメシはちょっとしたピクニック気分を味わえて、俺も嫌いじゃない。
ましてや、女子四人のグループに男子一人。

高校で、陽キャグループの連中がそんな感じで男女分け隔てなく、昼メシを食っていたのを思い出す。

俺はなるべく視界に入れないようにしていたが、あいつら、こんな楽しかったんだな〜…

…あれ…ちょっと涙が…





校庭に面する体育館の入り口は、三段くらいの石階段があって、その微妙な高低差が腰をかけるのに丁度いい。朝メシのテーブルはここに決定だ。

俺たちは五人そろっていただきまーす!とコールし、バカでかい缶詰を開けた。

カッ

キョオオオオオオオ…!

あのサバ缶を開けるときの音を派手にしたやつが、五人分鳴り響く。


ロールパンが三つ。
そのわきにスクランブルエッグと、焼いたベーコン。同じく、よく焼けたウィンナー。
それと、コーンとキャベツ、刻んだパスタのコールスローサラダ。
仕切りを隔てて、半分に切ったオレンジと、ウサちゃんリンゴがふた切れ。
そして、金属製のフォークが入っている。


な、


なんなんだ、この完璧なブレックファストは!

突如、俺の腹がグゥ!!と鳴る。そういや昨日一日、なんも食ってないことを思い出した。


「わーっ、今日のすごくいいねっ!」


ウミが両手を肩のあたりで組みながら歓声を上げた。


「…ん?今日の? 日によっては良くないときもあるのか?」


「んー、まぁボクは嫌いじゃなかったけど、いつだったか、この缶詰になみなみと味噌ラーメンが入ってたときあったよ!」


ら、ラーメン…缶詰にラーメン…
うまいのか、それは。


「あー、あったあった! あと、スナギモとご飯だけがギッシリ詰まってたときもあったよね」


すかさずイオリが割り込んできた。
すぐにエリカとオトハも加わって、缶詰に入ってた驚きごはんトークが始まってしまった。

俺はこれしか知らないから会話に入れない。
少し寂しくなりながら、俺はバターロールを頬張った。

ざくぅ…と、軽い音がした。暖かい。
焼いてある。コレ軽く焼いてあるぞ!
しかも、これは…!


「ネオバターロール…!!」


真ん中にマーガリンが入っているやつだ。
軽く焼かれているため、中のマーガリンがとろけてパンの生地に黄色いシミを作っている。

うっま…! これ大好き…!!

すかさずウィンナーを一本まるごと口に叩き込む。
パキっ!と皮が弾けた。同時に肉汁と脂が口内に充満し、バターロールと絡み合う。

口の中で混ざり合ったそいつらをガシ!ガシと咀嚼する、その幸福感たるや、もう…

ごくん。


さて、二つ目のバターロールは、ベーコンを乗せてみる。

食いづらい。食いづらいがそれでいい。
ベーコンは、乗せることに意義があるのだ。

はぐ、と一口。
ロールパンは容易く陥落するが、ベーコンが厄介だ。前歯で、ギチチ…と切断しようと試みる。
うぬ、なかなか噛み切れない。
もたもたしていると、ロールパンからマーガリンが漏れ出してしまう!

ええい!しゃらくせぇ!

噛み切るのはヤメだ。
ロールパンとベーコンを丸ごと口の中に押し込む。
もむ!もむ!と、口いっぱいに広がったロールパンの体積を圧縮するように、力強く咀嚼する。

ごくん。
どうだ、参ったか。

水で口内をリセットしながら、最後のロールパンに手を伸ばす。

最後はスクランブルエッグとサラダを交互にいただきながら、ちびちびとネオバターロールを楽しんだ。

ウサちゃんリンゴを齧りながら、ペコペコの腹が美味いもので満たされたときの、あの至上の満足感をしばし楽しむ。

…女子四人は俺など眼中にないような様子で、いまだに驚きごはんトークで盛り上がっていた。

寂しくなんかないもんね。
俺は至福で満たされているんだ。

寂しくなんか…ないんだから!

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