勇者の肩書きを捨てて魔王に寝返り暗黒騎士はじめました
相棒へ
前日のドス黒スライムことアウラの一件以来、俺は魔王軍の奴らへの認識を改めた。
フィーネはまだよく分からないが、むっつりスケベのデュラハン、そして尻フェチスライムのアウラと来れば、ここの連中は中々に濃い奴の巣窟だと馬鹿でも分かるだろう。
あと仮面の骸骨司祭のカルロも油断できない。あの手のタイプは思考が読めない部類だし、俺が最も苦手とするタイプだ。
「後はあれか、あのでかいドラゴンがいるんだったな」
『大将の事か?』
俺のボヤきにデュラハンが答える。
デュハランはと言うと、なんでも座る(?)場所が欲しいとの事で、日曜大工が得意というトロールに剣を置く棚を作って貰い、外出しない時はそこに収まっている。中々に大層な刀置きであり、デュラハンが宿っているのを差し引いても神々しく見えるのが不思議だ。
〝大将〟と言うのがドラゴンの呼び名らしいが、とりあえずその素性を探らなければならない。とりあえず四天王なら、デュラハンも良く知っている筈だ。
「……で、どんなヤバイ奴なんだ、その大将ってのは」
『お前は偏見が過ぎるぞ、我々をなんだと思ってるのだ』
「言葉通りだよむっつりスケベ。鎧のエロ本なんてコアなもん、どっから買い付けたんだよ」
『まだ蒸し返すか貴様! じゃあ何か? お前はエロ本を読まないピュアボーイだったのか!?』
「いや、がっつり持ってたけどよ。流石にこれはねぇわなー」
俺は引き出しからデュラハン秘蔵のエロ本を摘み上げると、パラパラとページをめくった。R指定のマークは付いているが、鎧の状態でどこから18禁の線引きがされるのが謎ではある。
しかし、その本を見たデュラハンが、何やらおかしな声を上げた。
「あん? どうしたよ」
『お、おいユーリ……そ、その本をもっとよく見せてくれ!』
「何だよお前、むっつりスケベが嫌でオープンスケベに鞍替えしようってか? まぁいいやお前のだし、ほらよ」
『…………』
しばし無言で、食い入る(?)様に本を見つめるデュラハン。というか何処が目にあたるのか分からないが、多分凝視している筈だ。
『まさか……そんな事が』
「どうした?」
『……まったく、エロく感じない、のだ』
「ーーーーは?」
素っ頓狂な回答に、思わず素の声が出た。
『この本は! 我が中学の時に初めて購入したもので、そりゃあもうエロいのなんので定評のあった一品なのだ! もう何度もお世話になっているにも関わらず、剣になった途端に何も感じないのはどうゆう事なのだぁぁぁぁぁぁああああ!』
「うるせぇ。つか……え、なにそれ引くわー」
デュラハンと言うか魔物に中学生時代があったのも驚きだが、コイツはその時のオカズを後生大事にとってあるらしい。
しかし、相当落ち込んでいるらしく、飾られた魔剣が完全に萎びていた。ダラリとした曲線を描き、何処からともなくシクシクと聞こえてくる。
『こ、これがEDという奴なのか……』
「おい待て落ち着けよ」
『貴様には分かるまい! 我の尊厳とも言える魂の欠損を嘆かずにいられるか! こんな事が皆に知れたら、『魔剣の癖に、股間の魔剣は使い物にならないねwww』って馬鹿にされるのだぞ!? あぁ、何たる屈辱か!』
「……気にし過ぎだろうよ」
『もうほっといてくれ、一人にさせてくれ!』
「はいはい、暫くその辺フラついてきてやるって」
こうなってしまえば今は何を言っても無駄だと悟り、俺は魔王城の中を散歩する事にした。
◆
とりあえず、何故か城内に噴水を正面に据えたベンチがあったので、しばらくそこに座ってボーっとする事にした。
普通は庭先じゃね?と思ったが、そこらにいたゴブリンに聞いたら「城の中で噴水とかイン○タ映え間違い無しっスからね!」との事なので、俺は深く考えるのを辞めた。
「しっかし、難儀だなアイツも」
「何が難儀なのだ?」
「うぉあッ……ってビックリした、フィーネかよ」
突然後ろから話しかけられたかと思えば、何やら大きな荷物を持ったフィーネが立っていた。
しかしアレだ、城の中とは言え部屋着なのか、薄ピンクのジャージみたいな格好をしている。ここまで来ると、生活感が凄すぎて魔王要素ゼロである。
「それよりどうしたユーリ。何か悩み事か?」
「いやぁ、それは……」
流石に〝デュラハンの魔剣(下)が使い物にならなくなった〟なんて言える訳がない。
そもそも魔王と言えど女相手に言うものでも無い、言えるわけが無い。昨今のセクハラ問題は深刻だ、流石の俺でもそれくらいの節度はある。
適当にはぐらかす為、俺は適当な話題を振ってみた。
「それよからお前は何してんだ? 時期外れのサンタか?」
「あぁこれか。これは人間が捨てていったゴミを回収したものだ。今日は魔王城近隣の清掃活動をしていたのでな」
「清掃活動って……魔王直々にかよ」
「私はこうゆう雑務の方が好きなんだ。おっと……」
袋の端が破けていたのか、そこから中のゴミが漏れていた。俺は落ちたゴミを拾ってやろうとしたが、そこに転がっていたある物を見つける。
「ーーこれは!?」
「どうしたユーリ?」
「おいフィーネ、これ貰ってもいいか!?」
「別に構わんが、そんなものどうするんだ?」
「これならデュラハンを立ちなおせる……いや、〝勃ち〟直す事が出来る!!」
「?」
打開策を見つけた俺は、部屋で待つ相棒の元へ走った。
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