お嬢様は軍師様!

葉月 飛鳥

第10話 お嬢様 討伐する

ボッと一気に火が灯され辺りが明るくなった。
相手の顔がはっきり見える。


(やっぱりか・・・。)


声からして小僧だと思ったら、予想した通り小僧だ。
今いる人数に対して、今目の前にいるのは小僧とその横にいる槍をもった兵士。
たったそれだけ。
それだけで、盗賊に挑もうとしているのだ。
正直言って馬鹿げている。


「おいおい、お前らだけで俺達を倒そうとしているのか?」
「ぎゃはは、無謀だぜ。よほどの馬鹿だなお前ら。」
「さっさと降参して、金と食料を全て渡せば、見逃してやるぞ。」


ちょっと剣で脅してやれば、ひびって泣きながら降参するだろう。
今までもそうだ。


『盗賊風情か何を言っている。このわしがお前らにやられるとでも・・・笑わせる』
『俺は商人だ。商人の誇りにかけて死んでもお前らには屈しない!』


どんなに偉そうにしていても、どんなに強がっていて結局最後には「荷物をやるから命だけは」と泣きながら両手を組んで懇願する。
涙と鼻水だらけの顔を見下しながらこう思う。
この快感だけはたまらない。


「なんだ・・・ひびっているのか??」


さっきから小僧が一言もしゃべってない。
顔はうついているから、わからない。
地面に剣を突き刺し、両手をのせている。
体の震えはない。


「動かざること山の如し。」
「なんだそれ?」
「例え敵の陽動や挑発があろうとも、山の如く動かず守りに徹する。」


言っている意味がわからない。
周りにいる手下達もその言葉は聞こえたようだが、誰一人としてその意味がわかるものはいなかった。
ただ、わかることは脅しは聞かないと言うことだけ。
それだけだ。


「ほぉ~。つまりお前らだけで俺達とやり合おうというわけだ。」
「僕達だけではないけどね・・・。」
「後から味方がくるってか?」
「徐しずかなること林の如く。」
「またそれか・・・。」
「それは静かな森の如く、ひっそりと森の一部となり潜む。」


背中に悪寒が走った。
思わずゴクリと喉を鳴らす。
森の空気が変わった。
いや・・・違う。
俺達の見方が変わっただけだ。
ただの森だと思っていた。
普通の何もないただの森。
だけど、あいつの一言でただの森が恐ろしく感じた。


「そして!侵略すること火の如く!攻撃は燃え広がる炎の如く。一気にかたをつけよう!」


******


(そろそろね・・・。)
「フェイ、射ちなさい。」
「了解!!」


アメリアが右手に持っていた羽毛扇を振り下ろした瞬間、フェイが矢を放つ。


バシュッーーーー


狙いは盗賊達・・・ではなく誰もいない方向へと飛んでいった。
この矢はわざと外したのではない。
この矢は作戦の1つなのだから。


ボッーーーー


火元も何もないはずなのに突然、燃え初めた。


「えっ。あれ、火?」
「なんでだ?でもこっちにこなくね?」


空に突如として赤い炎が見えて、盗賊達がその炎に気付き初めた。


「なんだあれは?もしかしてあれが火の如くってやつか?」
「じゃあ、あの火で俺達を倒そうってはらか?」
「ぎゃはは。やれるものなら、やってみろよってか?」


盗賊達がイーゼスを馬鹿にするように笑う。
ある者は、イーゼスに指をさしながら笑い、またある者は腹を抱えながら笑っている。
誰もが思うだろ。
こんな火で盗賊達を倒せるのかと。
こんな火で勝てると思っているイーゼス達を。
でも、その油断が後に自分達の命運を左右するとは誰もが思わなかった。


ゴォォーーー


火を纏った矢が地面に突き刺さった瞬間、炎が盗賊達を囲うように勢い良く走っていく。


「なっ・・・なんだ!!」
「あちぃっ!火が・・・火が・・!」
「オレ達、囲まれているのか!!」


炎で囲まれているのが気づいたのか、盗賊達が慌て初める。
中には、この場から逃げようとする者がいたのだか、出口が見当たらない。


(今頃気づいても遅いけどね・・・。)


アメリアは口元に羽毛扇を当てて、クスリと笑った。


******


今アメリアは森の中にいた。
森の中と言っても木の上。
盗賊達に遭遇しないようにと、この状況を見る為だ。


「すごいッスね。あっという間に囲まれているし、正に疾はやきこと風の如く」


フェイはこの光景に驚きを隠さなかった。
自分が放った矢が事前に油を撒いた場所に当突き刺さり、炎が瞬く間に燃え広がる様子をアメリアと同じく木の上から見ている。


「しかし、火で囲うだけじゃ盗賊達を諦めさせることって出来るッスか?オレだったら火を消そうとしたりして行動するけどな・・・。」


そう言ってチラッと隣にいるアメリアを見た。
実は今回の作戦について、フェイも良くは知らされてはない。
ただのアメリアから言われたのは、矢を射って火を起こさせろ。
それだけだった。
後は待機と言うだけで何も指示がない。


「私は盗賊達を囲う為だけに火を放った訳ではないわ。」
「じゃあ、オレは戦えるっすか??」
「違う。必要なのはこれよ、これ。」


アメリアは手に持っている羽毛扇をヒラヒラさせる。


「羽毛扇っておじょーがもっているやつじゃないですか?それが、何に役立つッスか。イテッ!」


アメリアがフェイの鼻にデコピンをした。
本当は額でもやりたかったのだが、身長差があるので鼻にしたのだ。
フェイもまさかアメリアがデコピンをしてくると思わなかったので、その攻撃を受けてしまった。


「痛いです。おじょー・・・。」
「いーい?なんで今回、弓矢部隊を出撃させなかったか?その目で特と見なさい?」


弓矢部隊を出撃させなかったのは理由がある。
盗賊達を生かしたまま討伐をするのは、簡単だ。
弓矢で狙いを定めれば、相手が余程の愚か者でなければ降参はするだろう。
ただセイント王国にとって弓矢は、農民や平民など弱い者が使う物と言われている。
王国騎士では、弓矢など使用しないのだ。
もし、このまま弓矢で盗賊達を拘束をすれば後に弓矢の事がセイント王国に漏れて、弓矢だけではなく軍隊の事まで調べられたら、非常に面倒くさい。
盗賊達だけではなく、教会の中で眠りこけている騎士達にも気を使わなければならない。
そして、もう1つ理由があるのだが、それは後に分かることだろう。


「軍師は兵士の力や武器の力を使うだけじゃないの。あらゆる力を利用するのが軍師なのよ。」


******
「リアの策通りに動いているな・・・。」
「そうですね。」


イーゼスは盗賊達を囲っている炎を見ていた。
最初は膝ぐらいまでの高さであった炎が時間が経つにつれて徐々に上がってきている。
しかし、その事に気付いているのば、イーゼスのみ。
盗賊達はこの炎を消そうと四苦八苦している。


「なんだっこれ!!火が消えねぇぞ!!」
「お頭!!俺ら完全に罠にはまったのですか!!」
「ばか野郎!!これが罠のはずがねぇだろ!!」
「くそっ!!なんでだ!!なぜ消えない!!たかが矢の火が燃え広がっただけだろう!!」


盗賊達は火を消そうと着ていたマントなどで扇うが、さらに炎が強くなる。
携帯で持っていた水をかける者もいるが、あまりにも火が強い為あまり効果がない。


「お・・・お頭。」
「なんだ!」


盗賊の1人が震えながら囲っている火に指を指す。


「この火・・・段々と俺達に近づいて来てませんか??」


盗賊達はこの結末を、何も出来ずにただ見ることしかできなかった。


(やっと、気付いたか・・・。でも、もう遅い。)


イーゼスは商会での事を思い出す。


『で、今回はどんな策でいくのか?リア。』
『火攻めで行こうと思って・・・』
『火攻め??あの教会って夜、凄い風が吹くんだっけ?』
『まぁ、弓矢は使えないけど、まとめて捕まえるにはちょうどいいと思ってね。ただ足止め役をどうしよかと考えているのよねぇ。』
『あぁ、さっき言っていた問題?』
『敵の足止めと、もしも討伐になった場合も考えるとロンが適切だけど・・・。』
『騎士団とか出会ったら面倒になりそうだな。揉め事になる可能性もあるだろうし。』
『私が出る訳にも行かないのよね。余計にややこしくなるしね。』
『それ、俺がやるよ。何かあっても対応は出来るしな。』
『ありがとう、お兄様。』
『これで、あいつらにとってもいい薬になればいいけど・・・。』


イーゼスはフッと思い出し笑いをした。
アメリアの作戦で確かに怪我人をほとんど出さずに成功はするであろう。
それに、もしこの火攻めが失敗したとしても対策は考えてある。


「ロン。」
「はい。イーゼス様。」
「もう、そろそろ第一段階は終了する。直ちに第二段階に進ませろ。」
「かしこまりました。」


(さぁ、仕上げと進めようではないか・・・。)
******
「盗賊達よ!!これが最後の忠告だ!おとなしく降参をしろ!」
「はっ!誰がそんなことするかよ!!」


炎が徐々に中央へと迫って来る中、外側からイーゼスが盗賊達に向かって叫んだ。
しかし、盗賊達も諦めてはいない。
この切羽詰まった状況の中で盗賊のリーダーは顔がにやけている。
何か考えがあるだろうか。


(あの小僧は、まだ気付いていないな・・・)


きっと、無駄な悪足掻きをするだろうと思っている。
その油断を盗賊のリーダーは狙っていた。


(俺達が火を消しているなんて誰も思わないな。)


チラッと見ると炎の壁が徐々ではあるが低くなってきている。
これは、低くなっているのではなく内側から盗賊達が剣を使って草を刈り、燃焼量を抑えたのだ。
そして自分達は草を刈った所もしくは、元々草が生えていない地面に立ち、火傷をしないようにしていた。


(火が消え始めたら、一気にやってやらぁ)


盗賊達は剣を構え始めた。
狙いはもちろん教会。
相手は勝てると思って油断しているはず。


(やっぱり俺達はついているぜ)


しかし、盗賊達は気付いてはいない。
イーゼスがいる教会からのは内側の様子は見れないが、アメリアがいる木の上であれば見れる事を。
そして、それがアメリアが盗賊達の行動をよんでいる事も。


「フェイ、第二段階の合図を」
「了解・・・」


フェイは限界まで弓矢の弦を引いた。
向きは上向き。
盗賊達を狙う訳ではない。
これは合図なのだ。


「おじょー、いつでもいいですよ。」


アメリアは目を瞑り、深く深呼吸をする。


(大丈夫・・・。)


心を落ち着かせ、ゆっくりと目を開いた。
そして羽毛扇を左上まで上げ、もう一呼吸いれる。
指示の言葉など必要がない。
この羽毛扇を振り下ろすだけだ。


(全てはこの一手で終わる・・・。)


アメリアは、おもいっきり羽毛扇を振り下ろした。
******
ピイイィィーーー


甲高い音が鳴り響いた。
盗賊達はこの音にこの場には似つかわしくない音だと感じた。


(なんだこの音は・・・。)


風の音か・・・いや違う。
鳥の鳴き声か・・・それにしては、よく響く。
きっと、風が強いからよく響いたのだろう。
盗賊達は誰もがそう思った。


(来たな!!)
「盗賊達を捕縛せよ!」


イーゼスはアメリアからの合図を聞き、地面に刺してあった剣を振り上げ、盗賊達に向けて叫んだ。
そして、それと同時に森に潜んでいたロンの部隊が勢いよく出てくる。


「なっっなんだ!!こりゃあ!!」


盗賊達を取り囲んでいる左右から同時に大きな布のようなものを被せると一気に火が鎮火した。


「なんで、火が急に・・・。」
「おいっ!そんなことより・・・。」
「そこまでだ。おとなしくしろ。」


盗賊のリーダーの顔の前に槍の穂先がキラリと光る。
他の手下達をみたが全員、槍を突き付けられ何も出来ずにいた。


「こんな小僧にやられるとはな・・・俺も落ちたものだ。」


今まで捕らえる事が出来なかった盗賊達を、こうもあっさりと捕らえてしまった。
しかも、まだ学生であるイーゼスにだ


「嫌、違うな。」
「はぁ?」


イーゼスはハッキリと否定をした。
その顔は自信に満ちている顔をしている。
そんなイーゼスに盗賊は何故だという疑問の顔が出ていた。


「お前らは、ただ軍師の手の上で転がっていただけだ。」
「軍師だと・・・。」


軍師??策??
その様な言葉、今まで聞いた事がない。
もう、驚きを通り越して開き直りる事しか出来なかった。


「・・・・フフフッ・・・・ハーハッハッハッ!」


盗賊のリーダーはもう、笑うしかなかった。
手下達は自分達のリーダーが突然笑いだした為、驚いて目が点になっていた。


「ロン、後は頼む。」
「かしこまりました。」
「なぁ。小僧、最後に聞いていいか?」
「何だ。」
「俺らは、いつから手の上で転がっていたのだ・・・。」


次々と盗賊達が縄に縛られ、隠してある箱馬車へ移動をしようとしている時、盗賊のリーダーがすれ違い様にボソッとイーゼスに問いかける。


「最初からだ。」
「最初からだと?まさか、最初から俺達を狙って・・・。」
「別にお前達を狙って討伐をしたのではない。お前達が罠に嵌まっただけだ。」


それを聞いた盗賊のリーダーは、「そうか」と呟いた後、ひと言も話さずこの場から去った。


(もう、そろそろかな・・・。)


盗賊達を捕縛したが、イーゼスにはやらなければならないことがあった。


「なっ・・・なんだこれは・・・!!」
(やっと、気付いたか・・・。)


体を声がした教会へと向けると、教会内にいたハロルド達がぞろぞろと出てきた。


「焦げ臭い匂いがする。何か燃やしたのか?」
「何があったッスか??」


ハロルド達は黒焦げになった草原を見て驚いた。
それもそうだろう。
先程まで何もなかった普通の草原だったはずなのに、自分達が教会の中にいる間に変わってしまったのだから。


「殿下、アディジェ怪我はありませんか?」
「は・・・はい。」
「ヴィクトリア監督生がどうしてここに・・・。」
「監督生??アルト、学園のか・・・。」
「はい。ソラリア学園の監督生で・・・なんでここにいるのか・・・。」


しかも、騎士を連れて。
オーガスタはイーゼスと一緒にいる騎士に見覚えがある。
ハッキリとは覚えてはいないが何処かで見た気がした。


「初めてまして、私はロンと申します。先程まで起こった事の詳細をお伝えします。」
******
「な・・・なんと言うことか・・。」
「盗賊がここに来たのか。」
「しかも、俺達を襲うはずだったッスね・・・。」


ロンに事の詳細を聞いたハロルド達は、ショックを受けていた。
それもそうだろう。
ロン達が来なければ、ハロルド達はこの場所に立っていなかったのだから。


「ロンといったかな・・・。礼を言おう、ありがとう。」


ハロルドがロンの前に右手をスッと出した。
握手をするつもりだろう。
ハロルドは、にこりと笑い一歩踏み出す。


「何のつもりでしょうか・・・。」
「何って・・・握手ですよ。」


ロンはハロルドに笑顔を見せているが、目が笑っていない。
ハロルドは、このロンが放つ冷たい空気を感じているのだろうか。
いや、気付いてはいないだろう。
ハロルドはニコニコと笑顔でいるのだから。
だがハロルド以外は、この冷たい空気を感じていた。


「共にセイント王国を守る騎士として、感謝の・・・」
「貴方達と一緒にしないで頂きたい。」
「なっ・・・なんだと!!」


ロンの言葉に反応をしたのはハロルドではない。
ジョンだ。
ハロルドとダリウスは、目を見開いたまま固まっていた。
イーゼスはロンの背中しか見えないが、雰囲気だけでわかる。


(ロンのやつ、本気で怒っているな・・・。)


イーゼスもロンの気持ちがわかる。
人々を守るのであるならば、学園の生徒をましてやオーガスタ殿下を守るのであれば、一番襲われやすい夜とかに何故、見張りをつけなかったのか。
アメリアの作戦や諜報部隊からの情報がなければ殺されていたかも知れないのに。
多分、ハロルド達は「今回は運が良かった。」それぐらいしか思わない。
セイント王国の騎士はそう言われてどう思うかわからないが、ヴィクトリア領の兵士達はこれを言われたら絶対に怒ると思う。
イーゼスもセイント王国の騎士ではないのだが今回の件について怒りがあった。
******
「お前!ハロルド隊長を侮辱するとは何事ッスカ!!ちょっと討伐が上手く出来ただけでお高くとまりやがって生意気ッス!!」
「ジョンさんのいう通りだよ!!お前達がいなくても僕達だけで倒せるよ!!」


ヒューデガルドはイーゼスに詰めより、顔に向けてビシッと指を突きつける。


「アルトやオーガスタだってそう思うだろう?」


絶対、2人はヒューデガルドと同じく、そうだと言ってくれるだろう。
そう思いながら顔を向けた。
でも、2人はヒューデガルドの予想とは違い険しい顔をしている。


「アルト?オーガスタ?どうしたの?」
「ヒューデガルド、言い過ぎだ。謝れ。」
「えっ?」
「助けてもらったのに、そんなこと言ってはダメだよ。」
「どうして?アルトやオーガスタは、そんなこと言うの?イーゼスの味方をするの?」
「味方とかそうじゃなくて・・・。」


オーガスタが言いたいのはそうではない。
ただ、イーゼス達に感謝をすべきではないのか、そう思って欲しかった。
イーゼス達が来なければ、盗賊達を捕まえていなければ、オーガスタ達は殺されていたかもしれないのだから。
オーガスタはそう伝えたかったのに、ヒューデガルドは頭がかっとなっていて、オーガスタの言葉を聞かなかった。


「ひどいよ!せっかく僕がオーガスタ達の為にやったのに!どうして、2人ともイーゼスの味方をするんだ!」
「やめろ!ヒューデガルド!」
「僕は悪いことなんてしてないのに!」
「聞いて!ヒューデガルド!」


オーガスタがヒューデガルドを止めようと手を伸ばした。


パンッーーーー


頬の打つ音が響く。
その後すぐに、ドサッとヒューデガルドが倒れた。
頬に走った痛みよりも、地面に倒れた痛みが響く。
でも、本人のどうして倒れたのか、わからない。
ただ、気がつけば地面に倒れていた。


「な・・・なんで・・・。」


ヒューデガルドは、左頬をおさえた。
自分の手で頬はひんやりとしたが、直ぐに痛みと熱さが広がってく。


(痛い・・・。)


あまりにも痛さに、目が潤んできた。


「痛いか・・・。」
(痛いに決まっている!)


叩いた本人が何を言っている。
ヒューデガルドは頬を抑えながらイーゼスを睨み付けた。


「お前達が招き起こしたのが原因で皆を危険にさせた。その痛みだと思え。」
******
「招き起こした・・?なに言ってるの?僕がそんなことするわけないじゃん。」
「そうッスよ。ヒューデガルド君は俺達を労いをしてくれたんすよ。感謝しているッス。ねぇ、隊長。」
「あ・・・あぁ。感謝をしている。」
「そうだよ。みんな、そう言っているんだ。どこが悪いんだよ。」


ヒューデガルドがイーゼスにくってかかる。
さっきまで目が潤んでいたというのに、今では優越感で顔がにやけていた。


「ヒューデガルド・ブライト。」
「なんだよ、改まって・・・。」


イーゼスは今いる所から一歩進んだ。
一歩進むと、ヒューデガルドとの距離がゼロになり、相手を見下ろす形となった。
ヒューデガルドは、近づいてきたイーゼスに対して一歩後ろに進もうとしたが、イーゼスの威圧感で動けない。


「盗撮達はブライト商会の馬車を見つけ、襲おうとした。それでも自分は悪くはないと言い切れるのか?」
「え・・・?」
「あんな豪華でしかも商会の刻印が入った馬車で来たんだ。これでは狙って下さいとしか言えないぞ。」
「だって・・・その方が皆分かると思って言われて・・・。」


『ヒューデガルド君が来たと分りやすいようにしない?』
『じゃあ、僕の商会の刻印を出せば分りやすいよ!』


オーガスタ達に喜んで貰おうと、食べ物や飲み物を色々準備していた時に、マリアから提案をされた。
良い考えだと思った。
皆に認めて欲しかっただけなのに。


「マリアが、マリアが分りやすく商会の刻印をって言うから・・・。」
「ひどいよ、ヒューデガルド君。私はそんなこと・・・言ってないよ。」


声がした方に顔を向けるとマリアと、その後方にはクロームと女性が立っていた。


「マリア??」
「ヒューデガルド君があの馬車で持っていこうとしてて・・・私は止めようとしたけど・・・・でも、これで行こうって強く言われて・・・」


『でも、大丈夫かな?ケガしないかな・・』
『平気だよ!うちの馬車は頑丈だし、これで行こう!!』


確かに言った。
でも、そんな意味じゃない。
道中に馬車が壊れてケガをしないようにと思っていただけなのに。
盗賊を呼び寄せるような事なんて思いもしなかった。


「ヒューデガルド。」


イーゼスに名前を呼ばれ、ヒューデガルドはゆっくりと顔を向けた。
さっきの威勢とは違って、今は驚きとショックで顔が固まっている。


「イー・・・ゼス、僕は本当に・・・皆を。」
「それは俺に言うことではないだろう。」
「え??」


指を指された方向に顔を向けると、オーガスタとアルトが心配そうな顔をしているのが見えた。


「オーガスタ・・アルト?」
「ヒューデガルド、大丈夫?」
「頬、痛くないのか?」
(なんで・・・。)


なんで2人は、そんな顔をするのだ。
危険にさせたというのに。
心配をされる資格がないのに。


「ご・・め・・・。」


涙が流れて顔が見えない。
はっきりと伝えたいのに嗚咽しか声がでない。
多分、顔がひどい事になっているのに2人には隠したくはなかった。
ヒューデガルドは、オーガスタとアルトの所へ一気に走り出した。


「ご~め~ん~な~さ~い!!」


ガシッーー


「オーガスタ!アルト!ごめん、僕の・・・僕のせいで・・・」
「謝らなくて良いよ、ヒューデガルド。」
「全く、酷い顔だな・・お前は。」
「うあああぁぁぁーーーー!!」


ヒューデガルドはそのままオーガスタに抱きつくと、顔をうめて大声で泣き出した。
オーガスタやアルトも、つられて目が潤んでいる。
3人は暫く、そのままたたずんでいた。
******
(悔しい・・・。)


クロームは左手でギュッと剣の柄を握りしめながら、そう感じた。
いや、そうとしか思えない。
自分の力量はわかっている。
それでも、あの頃の自分よりも、あの人達に近づいているのではないか。
そう思っていた。
この光景を見るまでは。


隙のない奇襲。
目を見張るような戦略。
魅力される戦い。
一体あの人達は自分達とは何が違うと言うのだ。


「あ・・・あのセラさん・・・。」
「・・・どうしましたか?」
(名前はあっているんだ。)


フェイが、この人の事を「セラ」だと呼んでいたので恐る恐る聞いてみたけど、間違いではなかった事に少しホッとした。
セラは、顔だけをクロームに向けているのだが無表情で、それがある意味恐ろしく感じる。
しかし、どうしても聞きたい事があるのだ。
クロームは思いきって口を開いた。


「ぐ・・・軍師様に会いたいのですが・・あ・・会うことは可能でしょうか!」


絶対にいる。
クロームは確信をした。
こんな戦いかたをするのは、あの軍師様だけなのだから。
そして、この人は知っている。
だからこそ聞きたのだ。
軍師様は一体誰なのかと。


「・・・・サジタリア様が知る必要などありません。」
「し・・・しかし・・・」
「会ってどうするおつもりですか?」
「どうって・・・。」


セラの返事が冷たく感じた。
完全に一線を引いて・・・いや、違う世界にいる見たいな距離を感じる。
きっとクロームがどう答えようとも、軍師様と会わせるつもりなどないのだろう。
しかし、クロームとて引く気などない。
あの出会いからずっと探し追い求めきたのだから。


「今の貴方様に、あのお方を近づける訳にはいきません。それとも力ずくで向かいますか?」
「どうして会えないのですか!!」
「会う必要などありません。」
「何故ですか!どうして貴女方は軍師様を隠そうとするのですか!俺はあのお方の側にいたい!好きなんです!」


もう、最後の方は自棄ヤケになった。
遠回しに伝えても無理だ。
きっと、どんな言葉を伝えてもセラは聞き流すと思う。
けど今、自分が思っていることの全てを言おう。
無様でもいい。
カッコ悪くてもいい。
そうしなければ、軍師様には二度と会えない。
後悔はしたくないのだ。


「お願いです!会わせて下さい!」
「お断り致します。」
「お願いします!」
「無理です。」
「お願いします!」


「だったらオレが何とかしようか?」
******
『だったらオレが何とかしようか?』


暗い森の中から突然、声が聞こえてクロームは辺りを見回した。
しかし、姿は見えない。
でも、この声の主は分かる。
フェイだ。


「フェイ!また、持ち場を離れて・・・。」
「ま~待てよ、セラ。」
「それに貴方が何とかすると言っていましたが何をするつもりですか?」
「平和的に話し合いで・・・。」
「だったら私が話をつけますので大丈夫です。」


セラが森の方向に顔向けて話している。
多分、セラが向いている方向にフェイがいるのだろう。
けど、クロームにはどんなに目を凝らそうとしても、フェイの姿は見えなかった。


「さっきから見てたけど、この坊っちゃんは引く気はないみたいだからね。セラじゃ厳しいでしょ?」
「だから代わりに貴方が話すと・・・?」
「オレの方が、この坊っちゃんと何回か会っているし、セラよりも話やすいと思うよ。」
「まぁ・・・いいでしょう、後はお任せします。」


セラが、ちらりとクロームに目を向けて、スッとその場から去った。
今、この場にいるのはクロームとフェイだけとなる。
と、言ってもフェイは森の中にいてクロームの前に現れてもいない。


「姿を出す気にはならないからね。」


クロームは相手が何を考えているのかわからなかった。
フェイはセラの代わりにクロームを諦めさせようと、話をする為にここにいる。
しかし、その話はしない。
じっと、相手の言葉を待つしかなかった。


「騎士君、これを。」


クロームはフェイから大きく弧をえがいて投げられた物を受け取った。
手の中で微かではあったがチリンと音が聞こえた。
多分、鈴だと思う。
だが、何故フェイは鈴を投げたのか。


「イーゼス様に見せるといいよ。」


クロームは、そっと掌をあけると予想した通り鈴があった。
特に特徴もなく、ただの銀色で出来た鈴が2つ。
赤い紐で結ばれている。


「もしも、こちら側に来るのであれば歓迎するよ。クローム・サジタリア。」


クロームは手の中にある鈴をギュッと握りしめると、改めて顔をあげた。


「後悔などしません。絶対に」

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