もう一度だけ、彼方に逢いたい

ゆん。

あやかしのみえる少女

優しい風が吹くと、自分の体が無意識に宙にふわりと浮いた
どうやらあやかしの体は自由に浮くこともできるようだ
謎の疲れを感じていた僕は、その力を使って先程まで寄りかかっていた木の上にのぼった
そして、朝の明るい光の中に包まれながら静かに眠りについた




あれからどのくらい経っただろうか
桜の甘い香りと同時に、瞼の隙間から微かに夕陽の光を感じ、ゆっくりと目を覚ます
上を見上げ、溜息をつく
半日くらい眠っていたようだ
すると、突然木の下から声が聞こえて、思わず下をみる
そこには、朝にみた少女の姿と、桜の木の形をした小さなあやかしがいた

「さくらくん、ただいま」

もい〜っっもいもいっおかえり〜 なんだか今日は嬉しそうだね

「そうかな? ふふっ」

その小さなあやかしと楽しそうに話す彼女の笑う姿は、やっぱりどこか懐かしい気がした

「朝も少し不思議に思っていたんだけど、君はあやかしをみることができるの?」

その姿をみた僕はつい彼女に話しかけてしまった
驚かせないようにゆっくりと木の下へ降りる
彼女は少しだけ僕のことを見上げたあと、独り言のように話しだした

「私には生まれた時から、世間でいう"あやかし"というものが見えていました でも、それは家族の誰かがみえるというわけでもなく、私にしかないものでした 私はそれを自然なものだと思って過ごしてきましたが、小学校1年生くらいになった頃から、周りの友達や近所の大人に気持ち悪いと言われるようになりました それから私は毎日1人で過ごし、周りの友達ではなく、あやかしと話をするようになりました」

そう言うと、彼女はさくらくんと呼ばれるあやかしとバイバイと手を振った

「では、そろそろ失礼します」

僕は、ここで彼女とさよならをしてしまえば、彼女ともう話すことはないような気がした

「待って、!
 それなら、僕と友達にならない?」

「えっと…あやかしであるあなたと、ですか?」

彼女は少し首を傾げながら、何度聞いても身に合わない丁寧な言葉遣いで、僕の質問に答えた
たしかに、あやかしでありながら、人間の少女に友達にならないかと聞くのは少し変だと、我ながら思った
でも……彼女ともう少し話をしてみたい
彼女のことをもう少し知りたい
だからーー

「あやかしといっても、僕には名前があるんだ
僕の名前は…僕の、名前は…えっと…
草汰! 桜井草汰っていうんだ
それで、もう一度聞くんだけど、僕と友達になりませんか?」

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