失くし上手

78ちゃん

28歳 春

時計の針は午後四時を指している。北向きの私の部屋は居るだけで気分が滅入ってしまうくらい、もう暗くなりかけていた。暗いのは私の部屋の中だけで、窓から見える四角い空は、まだ青くて眩しかった。呼び出してすぐに来てくれる友達なんていなかったし、暇を持て余した時は近所のペットショップによく行っていたのだが、今の私には日曜の人混みの中に出かけて行く元気はなかった。かと言って、このまま部屋の中でうだうだしているのは耐えられそうにない。
最近私は無職になった。同棲していた彼氏にも振られてしまった。バイオリズムというものがあるのなら、今は間違いなくその底をズリズリズリズリ這いずっているに違いない。冬はそろそろ終わる筈だったのに、季節が逆戻りしたように感じた。独りってこんなに寒いんだ、寒くて寒くて凍え死ぬかもしれない…。
そうだ川沿いのベンチまで散歩しよう。あそこならお金もかからないし、人も少ない。とても人恋しい気持ちとは裏腹に今は誰にも会いたくないし、何も考えたくない。いっそのこと何も感じなくなってしまえばいいのに。
川沿いのベンチは静かでとても暖かかった。傾きかけた西日が川面に反射して私の存在など消してしまいそうなくらい、キラキラキラキラ輝いていた。本当に消してもらえたらどんなに楽になれるんだろう。
お日様は誰にでも公平だ。
ぽかぽかのベンチで温まって少し元気が出た。
「あー気持ちいい。」
気持ちいいけど、拭い去れないこの虚無感。
「何で私こんな所に独りでいなきゃいけないんだろう。」

コメント

コメントを書く

「エッセイ」の人気作品

書籍化作品