悪魔令嬢は婚約破棄を許さない

こうじ

令嬢、狩る

 クラウシアが飛びだった頃、

 森の中を一台の馬車が走っていた。

 馬車に乗っていたのはレナウド、そして浮気相手の『セイナ・ミゼル』である。

「嬉しいですわ。レナウド様とこうして愛の逃避行が出来るなんて。」

「俺もだよ、セイナ。セイナと一緒なら何処にでも行けるよ。」

 まぁ、お花畑満開の甘いやり取りをしていた。

 因みにセイラは教会の司祭の娘で、レナウドとクラウシアが結婚の打ち合わせで教会に来た時にレナウドを見て一目惚れ、アタックを開始、レナウドも積極的なセイラに負け、クラウシアには悪い、と想いながら交際をして、結局セイラをとってしまった。

「この先に別荘がありますから暫く滞在しましょう。ほとぼりが覚めたらお父様を説得して結婚しましょう。」

「あぁ、子供を作ったら僕達の交際を認めざるおえないだろうね。」

「きゃっ! 今夜は忘れられない夜になりそうですわ。」

 馬車の中から聞こえてくるそんな甘いやり取りを馬車の運転をしている男は辟易しながら聞いていた。

「ったく、なんで俺がこんな事しなきゃいけねぇんだよ。」

 男は30代でそれなりに人生の酸い甘いを経験してきた。

 そんな男にとって、馬車の中で甘いやり取りをしているカップルは甘ちゃんであり、世の中を舐めているとしか思えなかった。

 相手が国内でも大きな権力を持っている教会の司祭の娘なので言う事を聞くしか無かった。

「こんな厄介事に巻き込まれて・・・・・・、はぁ、逃げ出したい気分だ。」

「だったら逃げなさい。」

「・・・・・・は?」

 突然、聞こえた声に振り向くと馬車の屋根の上に黒い翼がついた少女、クラウシアが立っていた。

 その冷たい瞳に男は声を出せないでいた。

「今だったら引き返すチャンスを与えるわ。この馬車を置いて逃げるか、このまま巻き込まれるか。私としては無関係な人を巻き込みたくないんだけど。」

 男は焦りながら手綱から手を離して一目散に逃げ出した。

「ちょっと、どうしたの? まだ別荘にはついて・・・・・・。」

 突然、馬車が止まったのでセイラが窓から顔を覗かした。

そして、地面に降り立ったクラウシアの姿を見て言葉を失った。

「どうしたんだ? セイラ?」

「あ、あ、あ、悪魔が・・・・・・。」

「悪魔?」

 セイラはガタガタと震え汗が止まらなかった。

 一体、何事かと馬車から降りたレナウドは、クラウシアの姿を見て固まった。

「見つけましたわ、レナウド様。」

 クラウシアは冷たい笑みを浮かべる。

「お前、クラウシアなのかっ!? な、なんなんだ、その格好は!?」

 婚約者の変貌を見て驚愕するレナウド。

「この姿でお会いするのは初めてでしたね。まぁ最初で最後になると思いますが。」

 そう言ってニッコリ笑いクラウシアは告げた。

「私、魔王の娘なんです。」

 二人は呆然した。 

 クラウシアは魔王の娘?

 驚きで声が出なかった。

「それでは、狩りを始めさせて貰いますわ。」

 そう言ってクラウシアは尖った爪を舐めた。

「か、狩り、て・・・・・・。」

 ガタガタと震えるレナウドとセイラ。

「貴殿方を死なない程度に痛めつける事ですが? 命まではとりませんからご安心を。ただ感情が昂っていますので加減は出来ませんので。」

 二人にゆっくりと近づくクラウシア。

「僕達は恋人同士だったじゃないか!? 今でも君は僕を愛しているんだろ!?」

「お黙りください。」

 そう言ってクラウシアはレナウドの顔を引っ掻いた。

 レナウドは声に出せない悲鳴をあげた。

「わ、私は司祭の娘なのよっ!魔王の娘だがなんだか知らないけど教会に貴女の事をチクってやるからっ!貴女の家もお仕舞いよっ!」

「だから、なんなんです?」

 同じく、セイナの顔を引っ掻いたクラウシア。

 セイナも同じく声に出せない悲鳴をあげる。

「勘違いされてると思いますが、私、教会なんて怖くありませんわよ。自分達で勝手に作り上げた神を怖がる必要がどこにありますか? それからレナウド様、貴方が婚約破棄をした瞬間から関係は崩壊しましたし、私は貴方に対して何の感情もありませんわよ? 今はただの獲物として見てませんから。」

「さぁ、楽しませて下さいね?」

 クラウシアは冷たい笑みを浮かべながた。  

 


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