実録怪異譚

第5話 聞こえた気がする話



夏の寝苦しい中、西日の差し込む部屋でお昼寝をしておりました。寝てる間に陽が傾き、私はいつの間にか日差しを避けてベットで逆さまになって寝ていたようです。


すると何やら声が聞こえます。
「分かった、起きる、起きるから……」
そう自分が喋っているのです。
うわ〜自分寝言いってるわ〜でも眠、と私はしつこく寝続けます。
すると。
『起きて……ねぇ、起きて……』
そんなそんな声が聞こえたような気がします。でも自分の寝言とは違ってよく分かりません。
「起きる、起きるって」
私は再び、そう言っています。
あ〜起きなきゃという強迫観念の声だなぁと中学生の私は『強迫観念』という言葉は知らなかったと思いますがそんな風に思ったんだと思います。


しかし、今度は妙に息が苦しいのです。まるで体重をかけて首を押さえつけられているように思いました。私は感覚だけは首に乗っているナニかを退かそうとしますが、空を切ってパタパタと手を動かすだけです。
そして今度はか細い女性の声で『起きてってばぁ』などと聞こえてきます。
もういい加減起きようと私は思いますが、寝言はしつこく「起きる起きる」を繰り返すだけで起きません。


結局私はこの女性の声と何回も似たようなやり取りを繰り返し、本格に目覚めたのは女性の気配も声もなくなり、陽が沈んでからの事でした。


変な夢を見たなというのが私の感想でした。だいたい寝言を言っていたのが自分とは思えませんでしたし。でも、不思議と私はその夢を今でも覚えています。
夢の内容なんてすぐに忘れてしまうのにこの夢は十年以上経った今でも、こんなにはっきりと思い出せます。


あの時、声に従って起きていたら、私はナニか見る事ができたでしょうか?

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