アフ◎トリ(after trip)~廻るカルマの転生譚

アルト

第3章『律儀にグリーティング』

 灯夜の通う夢ノ丘高校。通称《ユメコー》はここら辺では珍しいキリスト教の学校。

 山の斜面に建てられており、そこから見渡す景色はなかなかにいいものだ。
 その分登下校時に必ず通らなくてはならない坂道が結構キツかったりする。

 最寄駅は歩いて40分と交通の便はあまりよろしくない。それにも関わらず、倍率が高いのは4つの理由がある。

 1つは進学率の高さ。これはかなり大事だ。

 2つめはセーラー服。制服で高校を選ぶ女子は多い。そのためユメコーのセーラー服は可愛いと人気がある。そして着こなしている女子もまた他校から高い評価を得る美人ばかり。

 それによって3つめの理由、美人さんとお近づきになりたい男共が競って入学志願する。

(3つめの動機は単純にして不純すぎるだろ。)

 そして4つめの理由は日本全土にいえる学校の少なさ。

 この日本では少子化が進んでいた。
 それは深刻なもので出生数が100万人を下回る年もあり、生徒数が激減した地域の学校は維持することができず次々と取壊された。

 しかし、西暦2000年
 ベビーブームが到来し子供の数が急増したため学校施設・教室等が足りず、大人数学級で授業を受けることとなった。

 灯夜の学年はそのベビーブームを起こした2000年生まれ。間に合わない高校の少なさに自然と倍率は高くなってしまう。
  
 因みに灯夜の志望動機は家近いのと、スポセンを勝ち取ったからだ。剣道でそこそこの結果を残してたのと、こう見えて成績は悪くない。

 しかし剣道は色々あって辞めてしまった。



「ふぅ…なんとか間に合った」

 もうほとんどの生徒がいる教室へ滑り込み、自分の席へと向かう。

 灯夜と飛鳥の席は隣なので手を引いて最後まで送り届ける。席は窓側列の最後尾。授業中でも気兼きがねなく眠ることができる。

 向かう道のりの中多くの生徒の前を通る。それなのに誰一人彼等かれらに声をかけない。

 というよりも避けられてる。

 飛鳥に至っては転校当日の挨拶でクラスメイトの質問を華麗にスルーし、勝手に灯夜の横の席に座ったことで誰も話しかけない。

 因みにその席はその日熱で休んだ生徒の席で、飛鳥に用意されていたわけではない。

 灯夜は小さい頃から母さんに挨拶はちゃんとするよう言われてる。なのでこの歳になっても律儀に義務を果たす。

 まずは前の席で会話に弾んでいる女子二人組にーー

灯夜「おはよ」

女A 「!? あ、えーと……行こ!」

女B 「うん……」

灯夜「…………」

 こういう時、灯夜は紳士だから追求なんてしない。多分お花を摘みトイレにいくのだろう。

 女というのは単独行動を嫌う。トイレに行くことでさえ集団行動が原則だ。……便器は個室だろうに。

 なんて現実逃避をしていると、周りの目線に灯夜は気付く。……居づらい

 最近分かったのだが、灯夜は相当嫌われており怖がられている。

 話しかけても無視され、質問しても答えてくれず、逃げられ……

「俺て嫌われるようなことしたか?」

「してない。とうやは優しい。そんなところが好き。」

 隣の席に座る飛鳥あすかに顔を近づけ周りに聞こえないように問うも、解決にはならなかった。
 
 さっき逃げてった女組が帰ってきたので、灯夜はいきなり挨拶してごめん。と悲しい謝罪を終え、思い切って訳を聞いてみる。

 すると女の一人が手鏡を向けてきた。
 
「…………自分の顔をよく見ろと?」

(なにそれ酷い)

 スマホを手に持ち、グーグル先生に「目つきが良くなる方法」と聞きたくなるほどには傷ついた。

「そうか、やっぱり目つきの悪い奴て怖くて嫌だよな…ハハっほんとごめんだった……」

 灯夜が悲観していると、その子は首をブンブンと横に振り手鏡の角度を変えてきた。

 鏡の中を見るとーーーー息を飲んだ。

 あの可愛らしくも美しい大きな瞳からは一切の光が消え、鋭利な刃物のように細められている。

 眉根を寄せこちらを睨むその表情からは殺意しか伝わってこない。

 急いで振り返るも、いつもと変わらぬ飛鳥が「ン?」と首をかしげてくる。

(それ可愛い//)

ーー原因はわかった。
 灯夜が誰かと話すと飛鳥はまるで人殺しの目つきになる。それに皆が怯えていたのだ。
 
 己惚うぬぼれてるかもだが、飛鳥は俺に惚れている。人に好意を持たれたことが少ないため確信には欠けるがきっとそうだ。

 なので、確認のためーーーー

「飛鳥、俺が彼女できたらどうする?」

ーー息を呑む音が聞こえた。それぐらい皆が黙り出してこちらを伺ってくる。 

 飛鳥は驚いたように立ち上がり、灯夜の頬に手を添え顔を近づける。

 対する灯夜は唇を湿らす。

(べ、べつにこの後の展開に期待してるわけじゃないんだからね!)

 スッと息を吐くように飛鳥は口を開いた

「その彼女ーーダレ?殺す

 凍てつくような冷めた口ぶりで。

Wウィングのパイロットかよ)

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