34歳気弱なサラリーマン、囚われの美少女お姫様始めました

丸めがね

第80話 ソニアとシルク(30)

正十がどのくらい白い空間を漂っていたのか分からない。

ただ、あまり長い間ではない気がした。



ふと、浮いていた体に重力が加わって、足が白い床に着地する。

すると前から青い何かが近づいてきた。

ブルーライオンの王、ソードである。

「ソードさん・・・」

「やはり、こんなところにいたのか。

シータの時の石を元の世界に帰る目的以外に使えば、帰れなくなると言われただろう?」

「う・・・ん。そうなんだけどね。」
正十は照れ笑いした。
「でもボク、あの瞬間が今までの人生で一番カッコよかったような気がするんだ。
だからいいんだ。」

ソードは愉快そうに笑った。
「そうか、そうだな。
カッコイイことはとても大事だ。

では、私もカッコよくなるとしようか。」

ブルーライオンの王は立派な雄たけびを上げる。

身体がブルル、と震えたかと思うと、少しずつ光に包まれていった。

「ソードさん!大丈夫!どうしたの?」

「案ずるな。
何と呼べばよいのか分からない小さき人間よ。

私はもうすぐ”時の石”になる。

それを使って帰るべき時に帰るがよい。」

「えっ・・・ちょっと待って!それじゃあソードさんが・・・!」

「良いのだ。私はもう十分生きた。

そして、お前を待ち、お前を救うのも私の最後の役割だと分かっていた。

お前が変えた小さな世界がどうなったのか、その目で確かめるがよい。」

「まっ・・ソードさん!!」

青いライオンはほとんど消えかかっている。

「私は・・・カッコいいか・・・?」

「・・・うん・・・!」

ソードは消え、コトンと小さな青い石が正十の足元に落ちてきた。

まだ暖かいそれをそっと拾い上げる。

「最高にカッコイイです・・・。ありがとうソードさん。」


正十は時の石を握りしめて願った。

「元の世界に戻りたい・・・元の世界・・・」

目を閉じると、目まぐるしく変わる世界が見えてくる。


「ああ・・・・」

シルクは両親と幸せに暮らし、やがてデュラン王のお妃候補になり、選ばれる。
”小さくて可愛いものが好きな王”
と言われるデュラン王。

4人姫と1人の王子(オウガ)に恵まれて、ブルーライオンたちと共に国を守る・・・

オウガ王子はミダとシータのもとで、のちに”魔法と獣の王”と呼ばれる逞しい青年になる。


ソニアは、戦場から戻ったゴートンと結婚し、兄弟たちと暮らす。

しばらくすると夫婦でその腕を買われて、城で騎士として務めるようになる。

ソニアはシルクの護衛に・・・2人はやはり、出会う運命だったようだ。

「ソニアさん」
正十が流れる空間の中でそっと呼びかけると、ソニアは確かにこちらを見た気がした。


聞こえるはずはないけれど。


ゴゴゴゴ、と急に滝が流れるような音がしたかと思うと、体がズンッと重くなった。

「・・・ぷはっ!はあはあ!」
ずっと息を止めていたかのように激しい呼吸をする。

大きな乳房が揺れる。

「ん・・・・あ・・・あれ?!」

目の前には綺麗な赤毛。

「ソニアさん?!」

ではなくて、

「・・・なんだロックか・・・」

若き騎士ロックが心配そうにのぞき込んでいるところだった。

「何だとはなんだ!」

「だって…ていうか、ここどこ?」

「どこって、お前大丈夫か?ココはカナンの城だろ?」

「カナン…」

正十、もしくはシルク、今はクロちゃんは、辺りをキョロキョロ見回した。

確かに、見覚えがあるカナンの城だ。

「うーん…状況が読めない…。えーとボクは、カナンのレオ王子に喰われそうになったっけ…??」

何言ってんだと訝りながらも、ロックはうなづく。

「地下にいたハーリーは、えーと、治ったっけ?」

「お前が治したんじゃないか!!」

「コナンの王子ハザードは来たっけ?」

「どうしてコナンの王子が来るんだよ!
お前、湯に浸かりすぎて頭が痛くバカになったんじゃないか?

お前は、メアリにお湯浴みさせられている時にぶっ倒れたんだろ!」

(あ、なるほどその時か…)

クロちゃんはやっと今の状況を理解した。

(レオ王子に喰われる前の時だな。
あの時はお湯浴みの前にハザードが現れて、戦いになって、レオとボクで過去に飛んで…

で、新しい今はお湯浴みを済ませたのか…)

ん?

クロちゃんはうーんと考えた。

「どうしてボクお湯浴みしたんだっけ?」

「レオ王子が寝所に呼んでるからだろ!ばか!」

「えーーっ!!」

まだクロちゃんの危機は脱していないようだった…。




*****


さて、これからもクロちゃんは異世界でさらに大変な目にあったりするのだが、それはまた、次のシリーズのお話で。



34歳気弱なサラリーマン、囚われの美少女お姫様始めました2

に続きます!

こちらもどうぞよろしくお願いします。



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