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34歳気弱なサラリーマン、囚われの美少女お姫様始めました

丸めがね

第78話 ソニアとシルク(28)

「さて、そろそろ準備はいいか?」

ミダがシルクに言った。

「はい。」

「シルク、これを持っていけ。」

シータが手渡したのは、緑色の美しい、宝石のような石。

「これは時の石だ。お前が過去の世界に行った後、1度だけ自分の意思で願った時間に戻れる。

身の危険が迫った時に使うといいだろう。

ただし、元いた時間の元いた場所を願わないと、お前は2度と戻れなくなるから注意しろ。

そのに戻れないということは、お前がいたという異世界にも戻れないということだからな。」

「分かった!」

シルクは決心したように頷いた。

「では、いくぞ!」

ミダが何かの呪文を唱え始める。

シルクは体からフワフワして、回っているような感覚に襲われる。

何かがバラバラになってしまうような…

「シルク様!」
ソニアが手を伸ばそうとしたのを、デュラン王に止められた。

光に包まれ、薄くなっていくシルクの中から、黒い影のようなものが現れる。

それはどんどん形になり…

やがて、

川合正十になった。


しかし薄い膜のようなものに包まれているので、ソニアから見たら酷くボンヤリとしている。

膜の中から、正十はソニアを見た。


「ソニアさん、好きだったよ」
やっと言えた。

「シルク!」ソニアが叫ぶ。


「いまだ!シータ、シルクを過去に送れ!」

シータの手から魔方陣が放たれる。 

シルク…正十は、白い空間にほおりだされた。


*****


ドサリ。

正十は緑の草むらに転がり落ちる。

目の前にはレンガの壁があって、振り向くと建物があって、ここがどこかのお屋敷の裏庭あたりだということが分かった。

「きっとシルクが住んでいたところだ…本当に来ちゃったんだなぁ…!」

正十は人目につかないよう、隠れながらソロソロ歩いていく。

お城とまではいかないが、なかなか立派なお屋敷で、正十はシルクの父親の部屋を見つけられるか心配になった。

しかし、何となく間取りが分かる気がする。

「多分、さっきシルクの肉体から記憶を呼び出した時にインプットされたんだろうなぁ」

台所、応接間、中庭…懐かしいぐらいに頭が覚えている。

「それにしても。」

正十は久しぶりに自分の体を動かすのがとても不思議な感じがした。

「胸がないのがこんなに軽いとは!!」
それはちょっと感動ものだった。

身長が小さいくせに、あんなに重いものを2つもぶら下げるのはなかなか肩が凝ってしまうのだ。

男の体の方が単純に筋肉量が多いのも、動きやすさに関係するのかもしれないが。

正十は中庭の端で、10歳のシルクを見かけた。

可愛らしい大人しそうな女の子だが、召使と遊んで、幸せそうに笑っている。

正十は自分を奮い立たせた。

「絶対、幸せな未来にしてみせる!」


父親の部屋までは特に見張りなどいなくて、直ぐにたどり着くことが出来た。

中をそーっと覗くと、机に向かって本を読む男の人がいる。
記憶で見たから分かるが、シルクの父親だった。

(よかった!まだちゃんと生きてる!
ということは…きっとこの後、誰か来るんだ…)

正十は決死の思いでドアの後ろ辺りに隠れた。

なんといっても気弱な34歳サラリーマンなのである。
こんなスパイみたいなこと、普通じゃ出来るはずない。

カッカッ…

足音が近づいてきた。

この、音の主が犯人であることは間違いないだろう。

「兄上、お呼びですか」

入ってきたのはシルクの叔父ハイゼンだった。

(くそっ、やっぱり!)
正十はそんな予感がしていたのだ。
それはつまり、シルクの予感だったのかもしれないが。

シルクの父は、ゆっくり振り向きながら言った。
「ハイゼン、悪い噂を聞いたのだ。
お前が今の王に逆らっている勢力と繋がっているという…」

言い終わらないうちに、ハイゼンはナイフを振りかざした。


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