34歳気弱なサラリーマン、囚われの美少女お姫様始めました

丸めがね

第66話 ソニアとシルク(16)

「ミダさん!どうしてここにいるの!?」

「私はミダではない。」

とは言ったが、ミダほどの超美形がそうそういるとも思えない。
シルクは狐につままれた感じで魔女を呆然と見た。

(そもそも女の人じゃないし!)

しかし、確かに魔女の瞳をよくみると、緑と青のオッドアイ。城にいるミダは両方緑色だった気がする。

「ホントに、コナンの城の預言者ミダさんじゃないんだ…」

「ああ。オレは森の魔女シータ。さ、分かったらサッサと働け。
まずは掃除をしろ。
それがすんだら夜はお前のその体、たっぷり使ってやる。
ずっと森の中で1人で住んでるから久しぶりだ。」

「え…?」

シルクは無意識に掃除を始めつつ、今シータが言った言葉を考えた。

夜に体をたっぷり使う?

1人だったから久しぶり?


……


あまり、もう深く考えない事にした。
こうなったら成るように成る、だ。今までだってそうだった。
なんと言っても中身は34歳、サラリーマンのおっさんなのだ。今まで異世界で出てきた登場人物の誰よりも年上なら気がする。

気弱いながらもドンと構えよう。

とりあえず腹は満たされた、これ大事。

目の前の部屋の掃除をしなければならない、だからしよう。

坊さんのような気持ちでシルクは掃除に励む。

ゴミ袋がないのがちょっと不便だなぁとか、100均か無印で収納道具が欲しいなぁと考えながら。


一方、城周辺では、ソニアが鬼神のごとく馬を走らせてシルクを探していた。


「どうしてハンスの身元を誰も知らないんだ!!」
少し前、城の中で怒鳴るソニア。

シルクを探すにはハンスを調べなければならないだろうと思っていたが、誰も全くハンスの事を知らないのだ。

「庭師ハンス…!あいつは一体何者なんだ!」
最高潮にイライラするソニア。

シルクがどんな目にあっているのか想像するだけで胸が掻き乱される。

唯一、台所で働いてるサムが、

「ハンスは王様の紹介状を持ってたって聞いたことがある…。森で出会ったって」

と言った。しかしどの森かは分からない。


城の周りにはシルクたちがいる魔女の森のほか、大小様々な森が10近くあった。

ソニアはその森全て回ろうとしているのだ。

中でも、魔女の森は危険だし誰も住んでいないのでは?という理由で、捜索は最後に回されていた。

しかし3つの森を回った時点で、ソニアは魔女の森が怪しいと思い始めていた。

それは第六感にも近い確信で、残りの森を他の兵士に任せ、ソニアは1人魔女の森へ馬を走らせた。

(魔女の森にシルク様はいる!)
ソニアはなぜか強くそう思った。

もうすぐ、王がシルクの部屋に来る夜になる…


魔女の年季が入った家はすぐに片づくわけもなく、一部屋のほんの一角を整頓しただけで夕方になっていた。

シルクが水を汲むために外に出ると、小さな湖とその周りの木々がオレンジ色に光っている。

そのオレンジ色の輝きの中に、眩しい光が差した。


赤い光。


はあ、はあと荒い息づかいだけが静かな空間に響いている。


「ソニアさん…」

シルクは、夢を見ているような気分でボンヤリと馬上のシルクを見た。

「シルク様!」

ソニアは馬から降りると、シルクの元に駆け寄る。

「ご無事ですか…?」震える声。

「う、うん…」

「良かった…!」

ソニアは、シルクを抱きしめた。

オレンジ色に輝く森の中で。



(それは不思議な感覚だった。

目の前にキラキラした何かがあるんだ。

後で気付いたんだけど、きっと遺伝子が教えてくれていたんじゃないかと思う。

ボクは、運命よりもソニアさんを愛している事に気がついたんだ。)


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