34歳気弱なサラリーマン、囚われの美少女お姫様始めました

丸めがね

第1話 34歳サラリーマン

川合正十(かわいしょうと)、34歳サラリーマン。

千葉県某市、駅のそばにある不動産会社で働いている。

小柄で童顔なのでぱっと見34歳には見えないが、ガッツリ34歳。そして独身。彼女なし。

ちよっと袖の長いスーツを着て、今日も何とか働いている。

「毎日平和に生きて、美味しいコーヒーが飲めれば幸せだなぁ」と思っている。


正十が勤める小さな不動産会社の事務所には、社員が基本3人。

イケメンリーダーの斎藤始37歳、ぽっちゃり事務の女の子の角田楓28歳、そして童顔正十34歳。忙しい時期にはヘルプが入る時もあるが、だいたいこの面子だ。

人気のエリアなので結構忙しい。8つあるお客さん用の椅子は、常に半分は埋まっている。


お昼時、珍しくお客さんが1人もいない時に、

「ハッロー!」

自動ドアが開くのも待てない勢いで女の人が入ってきた。

「正十ー!弁当差し入れだぞ!」

「ねぇちゃん…」

入ってきたのは正十の姉、サツキ。

正十とは正反対の陽キャラ派手美人である。

「ウチのおとーとがお世話になってます!」

奥からリーダー斎藤とぽっちゃり角田が出てきた。
どうもどうもと挨拶をかわす。


「ねぇちゃん、弁当なんていいのに…」

困惑顔の正十。職場に身内が来ることほど照れることはない。


「弁当はオマケ!ホントは仕事の話なのよ。私のお客さんに、弟が不動産屋に勤めてるって言ったら、ある別荘を売って欲しいって頼まれちゃってね…」

「そういうことでしたら、お姉様お掛けください。お話はウチの川合がお伺い致します」

イケメンリーダー斎藤はウィンクしながらサツキに席を勧めた。サツキも慣れた笑顔で返す。

「川合くん、お飲み物をお出しして」

「ねぇちゃん、コーヒーでいい?」
「もちろーん!あんた、なーんも出来ないけどコーヒーだけは美味しく入れるもんねぇ!」

隅っこでぽっちゃり角田がクックと笑った。
正十は黙ってコーヒーを4人分入れた。

コーヒーのたまらない香りが事務所に広がる中、サツキは茶封筒からガサガサと書類を取り出した。


「ここなんだけど。」

古い洋館風の建物の写真。某有名避暑地にあるらしい。

「お客さんの会社の、昔の社長の別荘だったんだけど、もう使わないんですって。で、固定資産税がかかるし、いくらでもいいから売っちゃいたいって」

リーダー斎藤が横から見て言った。
「ここ、だいぶ使ってないでしょ?どうして長年放置してたんですか?」

「さあ…そう言えば古そうねぇ。お金持ちだから忘れてたのかしら?
まあとにかく、いくらでもいいのなら直ぐに買い手がつくでしょ?
お客さん何だか急いでるみたいだったからなる早でよろしく!」

サツキはコーヒーをグッと飲み干すと、午後の仕事に間に合わすために足早に店を去って行った。彼女の会社はここから電車で20分くらいだ。

「いつもながらテキパキしたお姉さんだなぁ。正十、せっかく身内が持ってきてくれた仕事だから、お前ここ担当な。
早速明日、下見に行ってこい!」

リーダー斎藤はバンバン正十の肩を叩いた。

「別荘かぁ…暗い森の中…」

写真を見ながら正十はなんとなく嫌な予感がしていた。



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