『梅雨』

深神鏡

第1話

雨の日。高校の教室。気怠い雰囲気の生徒が数人。
憂鬱な表情で他愛もない話をしている。


「雨の日って好き?嫌い?」


「服が濡れるから嫌だなぁ」
「涼しいから僕は結構好きだな」


友人達はそれぞれ理由を上げながら答えていく。


「時雨は?」


『……俺?……好きだよ』


……あいつが死んだのはこんな日だった……


「時雨〜!」
『……今何時だと思ってる……?』
「えーと朝の7時」
『早過ぎる……俺はまだ朝食前……』
「遅すぎるよー普通、6時ごろ朝食じゃないの?」
『それ、お前の家の常識。
万国世界共通の常識じゃないから
ちなみに今日は日曜日で俺はまだ寝ていたい』


近所に住んでいる唯一の同級生。
名前は梅雨。
よく二人一緒に遊んだ。


勉強が嫌いで外で
遊ぶのが大好きな明るい奴だった。
俺はその逆。


正反対のタイプだったけど相性は悪くなかった。
最初は色々辟易してたのに、
気がつくとあいつの存在はまるで
俺の一部みたいに感じるようになっていて
好きなんだと自覚した。


中学生になりしばらくした頃


想いを伝えたら 梅雨は
予想通りの反応をして面白かった。
可愛いかった。


俺があいつに抱いてる感情と
あいつの俺に対する好きという感情には
少し差異があったが受け入れられた。


春 夏 秋 冬、楽しかった。あっという間に過ぎた。


楽しい時間は何故あっという間に終わるのか。


誰かの悲鳴。集まってくる人々。


「救急車を呼べ!!早く!早く!」


誰かが連呼している。


立ち尽くす時雨、目を見開いて硬直している。
その足下には変な方向に手足を曲げ
転がっている梅雨が……


ある日彼女は死んだ。目の前で
車に跳ね飛ばされて。


学校帰り、「さよなら」と手を振って
道路を渡ろうとした一瞬の出来事だった。


倒れている幼なじみと血溜まり、
激しく降りそそぐ雨


……真っ白になっていく記憶……


俺は苦笑した。


本当に大切だと思うものがあるなら
いつも気をつけて油断しないことだ
簡単に壊れてしまうから
人も物も何でも……


雨の降り続ける窓の外。
生徒たちの話し声。高校の教室。


追憶に囚われている時雨。


「おーいおーい!」目の前で手を振る友人。
その呼び声で我に帰る。


タイミングよくチャイムが鳴り響き
先生が教卓の前に。
授業が始まる。


繰り返す日常、連続していく日々……
もう梅雨はいない、不思議だ……


不思議といえば、時々夢に彼女が出てきて
色々俺の心配をする。
がんばっているか、無理してないかと、
無邪気に楽しそうに。


返事をする前にいつも目が覚めてしまうけれど。


この夢を見るたびに考える……
彼女の魂は肉体から解放され
別の世界に行っただけで
夢を媒介に現実世界の俺に
会いにきているのかも……


だとすれば、
いずれ俺は彼女と同じ世界に行けるだろう。


……魂の再会……


窓の外では雨が降り続いている。


俺は雷鳴に耳をすませた。




題名『梅雨』END

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