それは秋の風のように

彩虹

後日

退院してから初めての登庁となった。
「西田、今回はよくやってくれた」
「いえ、ほとんど桜木さんが処理や報告をしてくださったので私は何も」
「こういう時は素直にお礼を言っておけばいいんだよ」
「は…、ありがとうございます」
久しぶりに警察庁の自室の椅子に座る。
「早速ですが、榊原さん。書類にサインをお願いします」
「あぁ、分かった」
机の上には10センチほどの書類の山があった。
(これでも少ない方か…)
「西田、桜木はどうした?」
「それが…」
珍しく歯切れの悪い返事に手を止める。
「ん?」
「先程どなたかに呼び出されたようで出ていかれました」
「なんで言い渋った?」
「桜木さんからすぐに戻るから榊原さんには言うなと言われまして…」
「へぇ……」
(まだ僕に隠し事をするのか)
後で徹底的に問い詰めてやろうと心に決めた。榊原から危険を感じた西田は心の中で桜木に謝るのだった。


私はベンチに座って木陰にいる人物と話をしていた。
「…こちらの仕事を忘れて遊び呆けるとはいい度胸だな」
「忘れてるわけじやないです」
「なら、警察庁にアコナイトを連れて行ったのは?あいつが警察のネズミなんだろ?」
「違います。探偵業で警察の協力が必要なことがあったんです。警察庁には、私の知り合いがいますから」
「…ふん。今はそういう事にしておいてやろう。それから、コイツを知っているか?」
レッドバットから一枚の写真を渡された。
「奥田…!」
「あぁ。死んだぞ」
「え?」
「お前がレッド・バタフライとやり合ってたのは知ってたからな」
「それを知らせにわざわざ?」
「お前を殺すのは俺だ。くれぐれもレッド・バタフライなんかに殺されるな、という事だ」
「…」
レッドバットは瞬時に気配を消していなくなってしまった。
(奥田が死んだ…)
レッド・バタフライの仲間はまだ日本にいる。私は警察庁へ向けて歩き出した。
(あ…)
移動販売のたこ焼き屋さんを見つけた。

「…ふぅ。もうこんな時間か」
書類の山を片付け終わると、西田が机にコーヒーを置き、代わりに書類を引き取った。
「ありがとう」
「いえ、お疲れ様です」
「桜木、どこまで行ったんだ…」
「さぁ…。私は失礼します」
「あぁ」
西田が出て行くと、ほのかに電話を掛けたのだが。
ーーーブブッブブッ…
「…」
すぐ近くのソファからバイブの音がした。見てみるとほのかの鞄だった。
「携帯置いて行ったのか…」
探しに行こうかと思っていると、部屋がノックされた。
「どうぞ」
「失礼します」
なぜか出て行ったばかりの西田だった。
「どうし…」
「すみません、遅くなってしまって!」
西田が開けたドアの向こうから大量の飲み物やお菓子を抱えたほのかが入ってきた。
「西田さん、ありがとうございました!助かりました」
「いえ…」
「どうしたんだ、それは…」
「ここに来るまでに色んな方から頂いて…」
すると、西田が言った。
「榊原さんが入院されている間、色々とやってくださったので関わった部署では有名人なんですよ、桜木さんは。では、私はこれで」
早口にそう言って西田は出て行った。
(なるほど…)
自分が入院したことを後悔した。
「これ、どうしましょう?西田さんにも分けてあげたら良かったでしょうか?」
二人になった部屋で、ほのかがソファに持っていた物を置いた瞬間、後ろから抱きしめた。

抱きしめる力が強くて愁さんが怒っているのだと気づく。
「…どこ行ってた?」
「えっと……」
「うん?」
「…レッドバットに会ってました…」
「……………へぇ」
明らかに怒っている。でも、会いに行くと言えば絶対ついてくると言うと思うし、一緒に行ったら殺し合いになりかねない。
「大丈夫です。任務を遂行しろと警告されただけなので…」
「……………そうか」
「…すみません、黙って会いに行って…」
「はは、許さないよ?」
「ぇ…んっ!?」
榊原さんは私の首を吸い上げた。
「家に帰ったら…お仕置きだ」
「お仕置き…ですか…」
私は背後からただならぬ気配を感じるのだった。

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