それは秋の風のように
旅行
あっという間に旅行の日となった。5日間の船旅で1日だけ上陸する時間があるらしい。
「ようこそお越しくださいました。招待状を拝見致します」
招待状を見せるとボーイさんが深々と頭を下げた。
「中村様、美咲様でございますね。由希子様から伺っております。どうぞご乗船くださいませ」
ボーイさんはもう一人のボーイさんを呼んだ。
「一等室の中村様と美咲様だ。ご案内して」
「かしこまりました。お荷物お持ちいたします。お部屋にご案内致します」
荷物を持ったボーイさんについて行くと、船とは思えない広さと豪華さに驚く。レッドカーペットの階段を上って行くと、エレベーターまであった。エレベーターに乗るとボーイさんが言った。
「中村様と美咲様のお部屋は5階でございます」
「僕達の他に5階の部屋は誰が?」
「はい、オーナーのご友人が三組泊まられます」
「そうですか」
「中村様と美咲様のお部屋は、初めて当船をご利用とのことで、由希子様のご配慮で、窓の広い角部屋に取らせていただきました。テラス付きのお部屋となっております」
私たちは二人で顔を見合わせた。私はボーイさんに言った。
「えっと…私たち、二人で一部屋なんですか?」
「はい。由希子様からはそうするようにと指示をいただいておりますが…」
皆は私たちが本当に恋人関係にあると思っているから仕方ないのだが。
「何かご都合が悪いでしょうか?」
すると榊原さんが言った。
「いえ、問題ありませんよ」
「!」
「かしこまりました」
エレベーターを降りると、一番奥の部屋に案内された。
「お荷物はこちらでよろしいでしょうか?」
「はい、ありがとうございます」
「何かご用の際は内線1番でお呼び出しくださいませ。今夜は18時から1階パーティー会場でセレモニーが行われますので、ぜひご参加ください。この階のエレベーター横に衣装室がございますので、パーティー用のお好きなお召し物をお選び下さいませ。パーティーが終わりましたらこちらのクリーニングボックスにお入れください。パーティーでは食事も出させていただきます。個室での食事をご希望でしたら内線でお知らせください。…何か質問等ございますでしょうか?」
「「いえ」」
「それでは、出航までもうしばらくお待ちくださいませ。失礼致します」
深くお辞儀をしたボーイさんは笑顔で部屋を出て行った。部屋を見回す。
「広い部屋ですね…」
「そうですね」
そう言いながら榊原さんがテラスに続くドアを開ける。
「朝はここで食事をしたら気持ち良さそうですね」
榊原さんについてテラスに出ると、テーブルと椅子が設置されていた。
「素敵ですね」
榊原さんがこちらを見て何か言いたそうだったが、それを飲み込んだように見えた。
「さて、パーティー用の衣装を選びに行きましょうか」
「はい」
部屋を出た時、ちょうど加賀島光秀さんと咲さん、蓮君に会った。
「中村さん、美咲さん!こんにちは。もう来てたんですね」
「こんにちは」
「おや、美希さんはご一緒じゃないんですね?」
榊原さんの質問に加賀島さんが答えた。
「美希は仕事が休めなくてね」
「そうだったんですか」
「俺はパーティーでヴァイオリンを弾く予定なんですよ」
蓮君はヴァイオリンケースを見せた。
「それは楽しみにしてますね」
すると、由希子さんが来た。
「咲ー!」
「由希子!」
「あら、皆さんお揃いですね」
私は、由希子さんに言った。
「お招きありがとうございます」
「来てくれて嬉しいです。あ、もしかして今からドレス選びに行くんですか?」
「はい」
「あ、じゃあ私たちも一緒に行ってもいいですか?一緒に選びませんか?」
すると、榊原さんに肩を抱き寄せられた。
「申し訳ありませんが、圭さんのドレスは僕が選ぶ予定なので。お先に失礼します」
「「………(/////////)」」
そのまま歩き出す榊原さんにドキドキしながら、後ろからの視線を感じていた。
「独占欲もあそこまでいくと呆れるわね」
「由希子…。でも、あんなに好きになれるなんて素敵じゃない?」
「まぁね…」
「いらっしゃいませ」
衣装部屋に行くと、女性スタッフがこちらに来た。
「中村様と美咲様でございますね」
「「はい」」
「パーティーのドレスは、こちらから男女対のドレスをご用意しております」
部屋の中は衣装で埋め尽くされていた。通路の左側には男物が、右側には女物が並べられていた。
「さて、美咲さんどれにしますか?」
「…はぁ…正直自分に何が合うのか全く分からなくて…」
桜木は呆然とドレスを見回した。
「では、僕が選んでも?」
「はい。お願いします」
端からドレスを見て行くと、ウエディングドレスまで置いてあった。
「ウエディングドレスもあるんですね」
するとスタッフが言った。
「当船で挙式をされるお客様もいらっしゃるのですが、こうしたパーティーを利用して下見に来られる方が多いのでウエディングドレスも置いてあります。よろしければご試着なさいますか?」
「え?いえ、挙式の予定はないので大丈夫です」
桜木がそう言うと、スタッフが不思議そうな顔でこちらを見た。
「美咲さん、着てみませんか?」
「え?」
「ウエディングドレス姿、見たいので」
そう言って、十数着あるドレスの中から桜木に似合いそうな一着を選んだ。
「じゃ、これで」
「ほ、本当に着るんですか?」
「もちろんです」
「男性用はこちらになります」
スタッフから白いタキシードを受け取る。
「こちらへとうぞ」
桜木にドレスを渡すとスタッフについて二人で更衣室へ向かった。
(僕は欲張りだな…本当に)
更衣室から出ると、しばらくして桜木も出てきた。
「!」
白いウエディングドレスに身を包んだ桜木は本当に綺麗で、一瞬ドレスを着せたことを後悔した。
「中村さん、白が良くお似合いですね。素敵です」
笑顔で言う桜木を抱きしめたい衝動を抑える。
「ありがとうございます。美咲さん、綺麗ですよ。とても」
「あ…ありがとうございます…」
「こちらがベールと手袋でございます。失礼致します」
スタッフが桜木の頭にベールとティアラをつける。
「せっかくですし、お写真はいかがですか?」
「え!?いいです!写真なんて…」
「お願いします」
「え?」
「では、こちらへどうぞ」
写真スタジオも併設していた。
「僕の我儘ですみません」
「い、いえ…」
「美咲様、笑顔でお願いします」
「は、はい…」
スタッフの表情から桜木が緊張しているのが分かる。
「ちょっとすみません」
スタッフを止めると桜木に言った。
「美咲さん」
「は、はい」
あまりの固さに笑ってしまった。
「わ、笑わないでください…写真なんて久しぶりすぎてどうしたらいいのか…」
「それなら、ほら。面白いことを考えればいいんですよ。例えば…僕と公園の池で会った時の事とか」
「公園で…あ、私が自殺しようとしたと思って助けてくださった時ですね?」
桜木が笑顔になった時、カメラのシャッターが切られた。
「!」
「申し訳ありません、とても良い雰囲気でしたので」
「じゃあ、お願いします」
何枚か写真を撮ると、データを見せてくれた。
「…!」
出来上がった写真を見ると、1枚目の、榊原さんと向かい合って話している写真に目がいった。
(榊原さんと話す時、私こんな顔してるの…?)
自分で想像していた顔とは全く違うリラックスした表情に驚くと同時にドキドキしてきた。
再び本来の目的であるドレスを榊原さんに選んでもらうと、更衣室の中でスタッフさんに着替えを手伝ってもらっていた。
「あの…」
「はい。どこか気になるところがございますか?」
「あ、いえ…あの…」
私は意を決して聞いてみた。
「その人といると、なぜかドキドキして…一緒にいるとリラックスできて、気になる人がいると言われて応援したいのに、なぜかモヤモヤするのは…どうしてでしょうか?」
スタッフさんは瞬きをすると、パッと優しい笑顔で言った。
「お好きなんですね、その方の事が」
「そうですね、尊敬してます」
「ふふ、そういうことではなく…一人の男性として、恋愛感情の好き、ということです」
「…!」
そう言われて私の心にストンと何かが落ちた。
「中村様と美咲様、とてもお似合いですよ」
「え!?」
なぜ榊原さんだと分かったのだろうか。
「非力ながら応援しております。それでは、ヘアメイク致しますね」
「は、はい。お願いします」
更衣室を出ると、すでに榊原さんがタキシードを着ていた。
「!」
(まさか、さっきの会話…)
更衣室を出ると会話が聞こえてきた。
『お好きなんですね、その方の事が』
『そうですね、尊敬してます』
『いえ、そういうことではなく…一人の男性として、恋愛感情の好き、ということです』
「!」
桜木に好きな人がいるのか。そう思って内心焦った。
『中村様と美咲様、とてもお似合いですよ』
『え!?』
桜木の反応も気になる。僕なのか僕じゃないのか。
『非力ながら応援しております。それでは、ヘアメイク致しますね』
更衣室から出てきた桜木と目が覚め合うと、彼女は不自然に目をそらして鏡台の前に座った。
(まぁ、今は…)
僕が選んだドレスを素直に着ているだけで満足することにした。
「ようこそお越しくださいました。招待状を拝見致します」
招待状を見せるとボーイさんが深々と頭を下げた。
「中村様、美咲様でございますね。由希子様から伺っております。どうぞご乗船くださいませ」
ボーイさんはもう一人のボーイさんを呼んだ。
「一等室の中村様と美咲様だ。ご案内して」
「かしこまりました。お荷物お持ちいたします。お部屋にご案内致します」
荷物を持ったボーイさんについて行くと、船とは思えない広さと豪華さに驚く。レッドカーペットの階段を上って行くと、エレベーターまであった。エレベーターに乗るとボーイさんが言った。
「中村様と美咲様のお部屋は5階でございます」
「僕達の他に5階の部屋は誰が?」
「はい、オーナーのご友人が三組泊まられます」
「そうですか」
「中村様と美咲様のお部屋は、初めて当船をご利用とのことで、由希子様のご配慮で、窓の広い角部屋に取らせていただきました。テラス付きのお部屋となっております」
私たちは二人で顔を見合わせた。私はボーイさんに言った。
「えっと…私たち、二人で一部屋なんですか?」
「はい。由希子様からはそうするようにと指示をいただいておりますが…」
皆は私たちが本当に恋人関係にあると思っているから仕方ないのだが。
「何かご都合が悪いでしょうか?」
すると榊原さんが言った。
「いえ、問題ありませんよ」
「!」
「かしこまりました」
エレベーターを降りると、一番奥の部屋に案内された。
「お荷物はこちらでよろしいでしょうか?」
「はい、ありがとうございます」
「何かご用の際は内線1番でお呼び出しくださいませ。今夜は18時から1階パーティー会場でセレモニーが行われますので、ぜひご参加ください。この階のエレベーター横に衣装室がございますので、パーティー用のお好きなお召し物をお選び下さいませ。パーティーが終わりましたらこちらのクリーニングボックスにお入れください。パーティーでは食事も出させていただきます。個室での食事をご希望でしたら内線でお知らせください。…何か質問等ございますでしょうか?」
「「いえ」」
「それでは、出航までもうしばらくお待ちくださいませ。失礼致します」
深くお辞儀をしたボーイさんは笑顔で部屋を出て行った。部屋を見回す。
「広い部屋ですね…」
「そうですね」
そう言いながら榊原さんがテラスに続くドアを開ける。
「朝はここで食事をしたら気持ち良さそうですね」
榊原さんについてテラスに出ると、テーブルと椅子が設置されていた。
「素敵ですね」
榊原さんがこちらを見て何か言いたそうだったが、それを飲み込んだように見えた。
「さて、パーティー用の衣装を選びに行きましょうか」
「はい」
部屋を出た時、ちょうど加賀島光秀さんと咲さん、蓮君に会った。
「中村さん、美咲さん!こんにちは。もう来てたんですね」
「こんにちは」
「おや、美希さんはご一緒じゃないんですね?」
榊原さんの質問に加賀島さんが答えた。
「美希は仕事が休めなくてね」
「そうだったんですか」
「俺はパーティーでヴァイオリンを弾く予定なんですよ」
蓮君はヴァイオリンケースを見せた。
「それは楽しみにしてますね」
すると、由希子さんが来た。
「咲ー!」
「由希子!」
「あら、皆さんお揃いですね」
私は、由希子さんに言った。
「お招きありがとうございます」
「来てくれて嬉しいです。あ、もしかして今からドレス選びに行くんですか?」
「はい」
「あ、じゃあ私たちも一緒に行ってもいいですか?一緒に選びませんか?」
すると、榊原さんに肩を抱き寄せられた。
「申し訳ありませんが、圭さんのドレスは僕が選ぶ予定なので。お先に失礼します」
「「………(/////////)」」
そのまま歩き出す榊原さんにドキドキしながら、後ろからの視線を感じていた。
「独占欲もあそこまでいくと呆れるわね」
「由希子…。でも、あんなに好きになれるなんて素敵じゃない?」
「まぁね…」
「いらっしゃいませ」
衣装部屋に行くと、女性スタッフがこちらに来た。
「中村様と美咲様でございますね」
「「はい」」
「パーティーのドレスは、こちらから男女対のドレスをご用意しております」
部屋の中は衣装で埋め尽くされていた。通路の左側には男物が、右側には女物が並べられていた。
「さて、美咲さんどれにしますか?」
「…はぁ…正直自分に何が合うのか全く分からなくて…」
桜木は呆然とドレスを見回した。
「では、僕が選んでも?」
「はい。お願いします」
端からドレスを見て行くと、ウエディングドレスまで置いてあった。
「ウエディングドレスもあるんですね」
するとスタッフが言った。
「当船で挙式をされるお客様もいらっしゃるのですが、こうしたパーティーを利用して下見に来られる方が多いのでウエディングドレスも置いてあります。よろしければご試着なさいますか?」
「え?いえ、挙式の予定はないので大丈夫です」
桜木がそう言うと、スタッフが不思議そうな顔でこちらを見た。
「美咲さん、着てみませんか?」
「え?」
「ウエディングドレス姿、見たいので」
そう言って、十数着あるドレスの中から桜木に似合いそうな一着を選んだ。
「じゃ、これで」
「ほ、本当に着るんですか?」
「もちろんです」
「男性用はこちらになります」
スタッフから白いタキシードを受け取る。
「こちらへとうぞ」
桜木にドレスを渡すとスタッフについて二人で更衣室へ向かった。
(僕は欲張りだな…本当に)
更衣室から出ると、しばらくして桜木も出てきた。
「!」
白いウエディングドレスに身を包んだ桜木は本当に綺麗で、一瞬ドレスを着せたことを後悔した。
「中村さん、白が良くお似合いですね。素敵です」
笑顔で言う桜木を抱きしめたい衝動を抑える。
「ありがとうございます。美咲さん、綺麗ですよ。とても」
「あ…ありがとうございます…」
「こちらがベールと手袋でございます。失礼致します」
スタッフが桜木の頭にベールとティアラをつける。
「せっかくですし、お写真はいかがですか?」
「え!?いいです!写真なんて…」
「お願いします」
「え?」
「では、こちらへどうぞ」
写真スタジオも併設していた。
「僕の我儘ですみません」
「い、いえ…」
「美咲様、笑顔でお願いします」
「は、はい…」
スタッフの表情から桜木が緊張しているのが分かる。
「ちょっとすみません」
スタッフを止めると桜木に言った。
「美咲さん」
「は、はい」
あまりの固さに笑ってしまった。
「わ、笑わないでください…写真なんて久しぶりすぎてどうしたらいいのか…」
「それなら、ほら。面白いことを考えればいいんですよ。例えば…僕と公園の池で会った時の事とか」
「公園で…あ、私が自殺しようとしたと思って助けてくださった時ですね?」
桜木が笑顔になった時、カメラのシャッターが切られた。
「!」
「申し訳ありません、とても良い雰囲気でしたので」
「じゃあ、お願いします」
何枚か写真を撮ると、データを見せてくれた。
「…!」
出来上がった写真を見ると、1枚目の、榊原さんと向かい合って話している写真に目がいった。
(榊原さんと話す時、私こんな顔してるの…?)
自分で想像していた顔とは全く違うリラックスした表情に驚くと同時にドキドキしてきた。
再び本来の目的であるドレスを榊原さんに選んでもらうと、更衣室の中でスタッフさんに着替えを手伝ってもらっていた。
「あの…」
「はい。どこか気になるところがございますか?」
「あ、いえ…あの…」
私は意を決して聞いてみた。
「その人といると、なぜかドキドキして…一緒にいるとリラックスできて、気になる人がいると言われて応援したいのに、なぜかモヤモヤするのは…どうしてでしょうか?」
スタッフさんは瞬きをすると、パッと優しい笑顔で言った。
「お好きなんですね、その方の事が」
「そうですね、尊敬してます」
「ふふ、そういうことではなく…一人の男性として、恋愛感情の好き、ということです」
「…!」
そう言われて私の心にストンと何かが落ちた。
「中村様と美咲様、とてもお似合いですよ」
「え!?」
なぜ榊原さんだと分かったのだろうか。
「非力ながら応援しております。それでは、ヘアメイク致しますね」
「は、はい。お願いします」
更衣室を出ると、すでに榊原さんがタキシードを着ていた。
「!」
(まさか、さっきの会話…)
更衣室を出ると会話が聞こえてきた。
『お好きなんですね、その方の事が』
『そうですね、尊敬してます』
『いえ、そういうことではなく…一人の男性として、恋愛感情の好き、ということです』
「!」
桜木に好きな人がいるのか。そう思って内心焦った。
『中村様と美咲様、とてもお似合いですよ』
『え!?』
桜木の反応も気になる。僕なのか僕じゃないのか。
『非力ながら応援しております。それでは、ヘアメイク致しますね』
更衣室から出てきた桜木と目が覚め合うと、彼女は不自然に目をそらして鏡台の前に座った。
(まぁ、今は…)
僕が選んだドレスを素直に着ているだけで満足することにした。
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