それは秋の風のように
嫉妬
「美咲さん、誰かに追われる心当たりはありますか?」
唐突に聞かれ、苦笑いしながら答える。
「心当たりがありすぎて…」
そこまで言ってからサイドミラーで追われているのだと気づく。
「公園の駐車場を出た時からずっとついてきているんですよ」
私は振り返ってよく見てみる。
「お知り合いですか?」
「いえ…よく見えませんが、知り合いではなさそうです」
「僕もです」
しつこく付いてくる為、榊原さんは峠道に入った。
峠道に入ったところで、桜木は後部座席にある自分の荷物を探り出した。
「あった…」
手に持っていたのは拳銃だった。
「何をするんです…?」
「ちょっと足止めします」
そう言って、彼女はシートベルトを最大限に引っ張って腕と脚に巻くと、後ろ向きにシートに膝を突いて窓を開けた。
「中村さんはそのまま運転お願いします!」
風でスカートがめくれても動じない彼女は刑事の顔になっていた。
ーーーバンバン!バン!
ーーーキキーッ
ーーードンッ!ガシャンガシャン!
「完了です」
座り直した彼女に言った。
「そういえば、射撃の腕を買われてSATに入ったんでしたね」
「私の腕は大したことはないです。中村さんの運転が良かったんですよ」
そんなことをサラッと言う彼女を一瞬憎らしく思った。
そして、しばらく走るとまた追っ手が来た。
「しつこいな…」
(そうだ…)
古前埠頭なら積荷の貨物がかなり置いてある。
埠頭に着くと、入り組んだ貨物の間を縫って車を止め、拳銃を持って降りた。追跡の車も何台か来て止まった。
『桜木ほのか!』
「「!」」
『いるんでしょう!出て来なさい!』
「どうして桜木の名を…」
「本当に知らないのか?」
首を振る桜木を見てから、そっと貨物の陰から向こうを見る。
(外車…?)
『私たちはFBI!イギリスでアメリカ人が殺された事件を追ってるわ。その犯人が最近日本に入ったICPOだと分かったの』
「ICPO…?」
インターポールのことだ。
『そして、新たに現場から桜木ほのかのICカードが見つかった』
「まさか…」
その時だった。
ーーーバンバン!
「「!」」
後ろから銃撃され、車の陰に隠れる。
(一体何なの…?)
どうして私がICPOだと分かったのだろうか。当然私のICPOのICカードは手元にある。
「!」
その時、コンテナの上に人影を見つけ、そちらに銃を向けた時だった。
「そこまでよ!」
夜でも分かるブロンドの髪の女性が私たちに拳銃を向けた。榊原さんも彼女に銃を向ける。
「銃を下ろして」
しかし、彼女達とコンテナの上にいる人物の気配が違う。恐らくこっちはFBIじゃない。
「!」
その時、コンテナの上にいる人影の気配が変わった。
「中村さん、銃借ります!」
「え?」
ーーーバンバンバンバン!!
私は左手で中村さんの腕ごと抱え込むと、自分の銃を持っている右手で女性の方に威嚇射撃をし、中村さんの拳銃でコンテナの上の人影を撃った。
「美咲さん!」
私は手応えのあった人影を追った。
「待ちなさい!」
行き止まりのところで、桜木が一人の人物を追い詰めていた。互いに銃を構えている。僕も隣に並んだ。
「…何?誰なの?」
後ろの戸惑いの声からFBIではなさそうだ。
「美咲さんの知り合いですか?」
「顔が見えないのでなんとも…」
その時、一瞬人影の正体が照らされた。
「ジル…!?」
どうやら桜木の知り合いだったようだ。
「誰です?」
「ジル・ブライトン。イギリスにいた時組んでいた人です」
「じゃあ、彼は刑事ですか」
「そうです」
桜木は流暢な英語で話しかける。
「ジル、なぜあなたが日本に?」
「聞くな。何も聞かず死んでくれ!」
「…何を言ってるの?」
「許せ…」
ーーーバンッ!
一発の銃声の後、桜木がもう一発撃つとジルと言われた男は、肩を抑えてその場に崩折れた。
「彼に事情を聞いてはいかがです?」
桜木の今までにない冷たさに一瞬恐れを感じた。
「確保して!」
「はい!」
「あなたにも話があるわ」
「僕にも聞く権利があります。よろしいですか?」
桜木を見ると頷いた。
「分かった。来てちょうだい。話は車で聞くわ」
ブロンドの髪の彼女はFBIのキャシー・新村。日系アメリカ人らしい。
「じゃあ、あなたのICカードは?」
私はパスケースを見せる。
「持ってる、のね」
「…このICカードには偽造されないように細工がしてあるんです」
「細工?」
私はパスケースからICカードを取り出すと、携帯電話の光でかざしてみせた。
「ICPOのマークが…」
「知らなかったんですか?」
「…知らなかったわ」
「私が犯人ならまずこんなものは置いていきません」
その時、ジルの事情聴取が終わったようだった。
事の次第はこうだった。あるイギリス人がアメリカ人と口論になり、殺してしまった。それをジルが目撃。すぐに通報しようとしたが、そのイギリス人はイギリス警察の上層部の人間の息子で、ジルに隠蔽するように圧力をかけた。しかし、以前私がその息子を被疑者と疑った事件を根に持っていた上層部の人物は、私のことを徹底的に調べ上げ、ICPOだと突き止めた。そして私が殺人を犯し故郷の日本で死ぬというシナリオを作った。病気の母親がいたジルは圧力に負けて、私を犯人にする工作をして私を始末しようと追って来たという。
「あなたがこんなことすると思わなかった」
「悪かった、桜木…」
「罪を、ちゃんと償ってね」
「あぁ…」
連行されて行くジルを見送ると、最後まで残っていたキャシーが言った。
「思い込みであなたに迷惑を掛けてしまってごめんなさい」
彼女達も去って行くと、私はようやく榊原さんの存在を思い出す。
「…色々すみません…でした…」
「今日の夜は長くなりそうですね」
(笑顔が怖い…)
「とりあえず、僕の家に向かいますよ」
桜木を助手席に乗せて車を走らせる。
「ジル・ブライトンはどういう人物だったんですか?」
「真面目で家族思いの良い人でした。先程会った時とはまるで印象が違って…」
遠くを見て過去を思い出すような表情に、そこに僕がいないという事実に無性にもどかしくなった。全てを話せないことはある、でもすでに桜木の全てを知りたいと思っている。
(嫉妬か…)
僕の中にこんな感情があったことに自分でも驚く。確かに、今日のパーティーでも蓮君が桜木の手を取った時、桜木を独り占めしたい気持ちに駆られた。
「彼とはどのくらい一緒に仕事を?」
「そうですね…一年半くらいでしょうか。つい最近まで一緒だったので懐かしさはあまりないんですけど」
「そうですか…」
それからは二人とも無言だった。桜木もどう話そうか考えていたのだろう。僕もこの機会に圭一の事を話そうかと考えていた。
唐突に聞かれ、苦笑いしながら答える。
「心当たりがありすぎて…」
そこまで言ってからサイドミラーで追われているのだと気づく。
「公園の駐車場を出た時からずっとついてきているんですよ」
私は振り返ってよく見てみる。
「お知り合いですか?」
「いえ…よく見えませんが、知り合いではなさそうです」
「僕もです」
しつこく付いてくる為、榊原さんは峠道に入った。
峠道に入ったところで、桜木は後部座席にある自分の荷物を探り出した。
「あった…」
手に持っていたのは拳銃だった。
「何をするんです…?」
「ちょっと足止めします」
そう言って、彼女はシートベルトを最大限に引っ張って腕と脚に巻くと、後ろ向きにシートに膝を突いて窓を開けた。
「中村さんはそのまま運転お願いします!」
風でスカートがめくれても動じない彼女は刑事の顔になっていた。
ーーーバンバン!バン!
ーーーキキーッ
ーーードンッ!ガシャンガシャン!
「完了です」
座り直した彼女に言った。
「そういえば、射撃の腕を買われてSATに入ったんでしたね」
「私の腕は大したことはないです。中村さんの運転が良かったんですよ」
そんなことをサラッと言う彼女を一瞬憎らしく思った。
そして、しばらく走るとまた追っ手が来た。
「しつこいな…」
(そうだ…)
古前埠頭なら積荷の貨物がかなり置いてある。
埠頭に着くと、入り組んだ貨物の間を縫って車を止め、拳銃を持って降りた。追跡の車も何台か来て止まった。
『桜木ほのか!』
「「!」」
『いるんでしょう!出て来なさい!』
「どうして桜木の名を…」
「本当に知らないのか?」
首を振る桜木を見てから、そっと貨物の陰から向こうを見る。
(外車…?)
『私たちはFBI!イギリスでアメリカ人が殺された事件を追ってるわ。その犯人が最近日本に入ったICPOだと分かったの』
「ICPO…?」
インターポールのことだ。
『そして、新たに現場から桜木ほのかのICカードが見つかった』
「まさか…」
その時だった。
ーーーバンバン!
「「!」」
後ろから銃撃され、車の陰に隠れる。
(一体何なの…?)
どうして私がICPOだと分かったのだろうか。当然私のICPOのICカードは手元にある。
「!」
その時、コンテナの上に人影を見つけ、そちらに銃を向けた時だった。
「そこまでよ!」
夜でも分かるブロンドの髪の女性が私たちに拳銃を向けた。榊原さんも彼女に銃を向ける。
「銃を下ろして」
しかし、彼女達とコンテナの上にいる人物の気配が違う。恐らくこっちはFBIじゃない。
「!」
その時、コンテナの上にいる人影の気配が変わった。
「中村さん、銃借ります!」
「え?」
ーーーバンバンバンバン!!
私は左手で中村さんの腕ごと抱え込むと、自分の銃を持っている右手で女性の方に威嚇射撃をし、中村さんの拳銃でコンテナの上の人影を撃った。
「美咲さん!」
私は手応えのあった人影を追った。
「待ちなさい!」
行き止まりのところで、桜木が一人の人物を追い詰めていた。互いに銃を構えている。僕も隣に並んだ。
「…何?誰なの?」
後ろの戸惑いの声からFBIではなさそうだ。
「美咲さんの知り合いですか?」
「顔が見えないのでなんとも…」
その時、一瞬人影の正体が照らされた。
「ジル…!?」
どうやら桜木の知り合いだったようだ。
「誰です?」
「ジル・ブライトン。イギリスにいた時組んでいた人です」
「じゃあ、彼は刑事ですか」
「そうです」
桜木は流暢な英語で話しかける。
「ジル、なぜあなたが日本に?」
「聞くな。何も聞かず死んでくれ!」
「…何を言ってるの?」
「許せ…」
ーーーバンッ!
一発の銃声の後、桜木がもう一発撃つとジルと言われた男は、肩を抑えてその場に崩折れた。
「彼に事情を聞いてはいかがです?」
桜木の今までにない冷たさに一瞬恐れを感じた。
「確保して!」
「はい!」
「あなたにも話があるわ」
「僕にも聞く権利があります。よろしいですか?」
桜木を見ると頷いた。
「分かった。来てちょうだい。話は車で聞くわ」
ブロンドの髪の彼女はFBIのキャシー・新村。日系アメリカ人らしい。
「じゃあ、あなたのICカードは?」
私はパスケースを見せる。
「持ってる、のね」
「…このICカードには偽造されないように細工がしてあるんです」
「細工?」
私はパスケースからICカードを取り出すと、携帯電話の光でかざしてみせた。
「ICPOのマークが…」
「知らなかったんですか?」
「…知らなかったわ」
「私が犯人ならまずこんなものは置いていきません」
その時、ジルの事情聴取が終わったようだった。
事の次第はこうだった。あるイギリス人がアメリカ人と口論になり、殺してしまった。それをジルが目撃。すぐに通報しようとしたが、そのイギリス人はイギリス警察の上層部の人間の息子で、ジルに隠蔽するように圧力をかけた。しかし、以前私がその息子を被疑者と疑った事件を根に持っていた上層部の人物は、私のことを徹底的に調べ上げ、ICPOだと突き止めた。そして私が殺人を犯し故郷の日本で死ぬというシナリオを作った。病気の母親がいたジルは圧力に負けて、私を犯人にする工作をして私を始末しようと追って来たという。
「あなたがこんなことすると思わなかった」
「悪かった、桜木…」
「罪を、ちゃんと償ってね」
「あぁ…」
連行されて行くジルを見送ると、最後まで残っていたキャシーが言った。
「思い込みであなたに迷惑を掛けてしまってごめんなさい」
彼女達も去って行くと、私はようやく榊原さんの存在を思い出す。
「…色々すみません…でした…」
「今日の夜は長くなりそうですね」
(笑顔が怖い…)
「とりあえず、僕の家に向かいますよ」
桜木を助手席に乗せて車を走らせる。
「ジル・ブライトンはどういう人物だったんですか?」
「真面目で家族思いの良い人でした。先程会った時とはまるで印象が違って…」
遠くを見て過去を思い出すような表情に、そこに僕がいないという事実に無性にもどかしくなった。全てを話せないことはある、でもすでに桜木の全てを知りたいと思っている。
(嫉妬か…)
僕の中にこんな感情があったことに自分でも驚く。確かに、今日のパーティーでも蓮君が桜木の手を取った時、桜木を独り占めしたい気持ちに駆られた。
「彼とはどのくらい一緒に仕事を?」
「そうですね…一年半くらいでしょうか。つい最近まで一緒だったので懐かしさはあまりないんですけど」
「そうですか…」
それからは二人とも無言だった。桜木もどう話そうか考えていたのだろう。僕もこの機会に圭一の事を話そうかと考えていた。
コメント