それは秋の風のように
情報
ホテルのワンフロアを貸し切ったパーティー会場に着くと、華やかな雰囲気に懐かしさを覚える。
「美咲さん」
着替えに行った榊原さんが戻ってきた。
「お待たせしました」
「いえ…」
高級スーツを着た榊原さんを見て、普段の雰囲気より大人っぽく、それにドキドキしている自分に驚いた。
「それでは、エスコートします。お手をどうぞ」
「はい。お願いします」
会場に入るとワルツが流れていて、何組かがダンスをしていた。そして、すぐに加賀島さん達に会った。
「加賀島さん、今日はご無理を言ってすみませんでした」
「いや、気にしないでくれ。美咲さん、今日は一段とお美しい…」
「ありがとうございます」
すると、威厳のある長身のとても綺麗な女性が加賀島さんの隣に並んだ。
「あら、お知り合い?紹介してくださるかしら?」
「あ、あぁ。俺の助手の中村翔君と美咲圭さんだ。二人とも、これは俺の家内だ」
「初めまして。妻の美希です。主人がいつもお世話になっております」
「いえいえ、お世話になっているのは僕達の方です」
すると、咲さんともう一人彼女と同い年くらいの男の子がこちらに来た。
「中村さん!…わぁ!美咲さん、素敵です!!」
「ありがとうございます」
一瞬、なぜ学生が平日の昼に…と思ったが、今日は祝日で休みの日だ。すると、隣にいた男の子が私の手を取った。
「ようこそ、お越し下さってありがとうございます。こんなにお美しい方にお会いできるとは、パーティーを開いた甲斐があるというものです。俺、五十嵐蓮と申します」
「美咲圭です。お招きありがとうございます」
榊原さんが蓮君から私の手を取るのと、咲さんが蓮君の脇腹に肘鉄を入れるのはほぼ同時だった。
「痛っ!!」
「君が、五十嵐財閥のご子息でしたか。中村翔です」
「バカ蓮!」
「ど、どうぞ、楽しんでいってください」
一通り挨拶が済むと、改めて会場を見回す。政治家に医者、警察官僚それから芸能人のような人まで招待されている。
「ちなみに、今日は何のパーティーなんですか?」
こっそり榊原さんに聞いてみる。
「五十嵐グループが経営しているこのホテルの創業10周年記念パーティーだそうです」
「なるほど…。スポンサーとお忍びで来る人達が招待されているんですね」
「そのようですね」
しばらく二人で情報収集に、何組かに声を掛ける。
「!」
人混みの中にレッドバットとハイドランジア(紫陽花)、本名水無月アリスの姿を見た気がして立ち止まる。ハイドランジアは、何かと私を目の敵にしてくる女だ。狙撃の腕はブラックホールの中でも一位二位を争う実力者だ。
(どうしてあの二人がここに…?)
「美咲さん、どうしました?」
「あ、いえ。なんでもありません」
それからまた色んな人に声を掛けて回った。
「少し休みましょう」
榊原さんに着いて、会場から出ると日が沈みかけていた。
「良い眺めですね」
「最上階のデラックススイートルームからは、もっと綺麗だと思いますよ」
このホテルは35階建で会場は25階。30階から34階はスイートルームで、最上階はデラックススイートルームだ。5階の大浴場を除いて、3階から24階が客室、25階から29階は会議室やパーティー会場になっているそうだ。
「それは見てみたいですね」
そうして再び二人で窓の外を見た時だった。
「「!!」」
窓の外、上から何かが落ちて来た。
「中村さん、今のは…」
「えぇ」
そうして、二人で身を乗り出して下を見る。
「「やっぱり!」」
落ちて行ったのは人だった。
「上に行きましょう!」
「はい!」
榊原さんについて上に向かう。26階から階段を使って見て行くと、29階の廊下の奥の窓が開いていた。
「恐らくここから落ちたのでしょうね」
あの二人がやったんじゃないのだろうか。
「美咲さん、落ちたのが誰か確認しましょう」
「はい」
エレベーターで下に降りると、救急車が来ていたが、恐らく即死だったのだろう、警察を待っている状態だった。
亡くなったのは「剣持渡」だった。私たちは目撃したので事情聴取されたが、29階から彼以外他に何も痕跡が出なかったのと、携帯電話に遺書があったことから自殺として処理されるそうだ。
(自殺…本当に?)
剣持警部は倉谷の上司だった。二人の会話から、剣持警部もブラックホールの事を知っていたに違いない。
(消されたんだ…あの二人に)
あの二人をパーティー会場で見たのは見間違いなんかじゃなかった。
「美咲さん、大丈夫ですか?」
「え?あ、大丈夫です」
私たちはあれから再びパーティー会場に戻ったのだった。パーティー出席者は事件の事を何も知らなかった。
「美咲さん、今日はもう失礼しましょうか」
「え?」
「お疲れみたいですし」
すると咲さんが言った。
「それなら帰った方が良いですよ。顔色も良くないみたい…」
「そうね、貧血気味かしら?休んだ方がいいわね」
美希さんにもそう言われていると、榊原さんが私の耳元で言った。
『少しお話したいことがあります』
「それじゃ、お言葉に甘えて失礼します」
「お大事にしてください」
「ありがとうございます」
会場を出ると車に乗り込んだ。榊原さんは無造作にネクタイを緩め、車を走らせた。そして、近くの公園の駐車場に車を止めた。
「お話、というのは…?」
「美咲さんは剣持さんの死が自殺だと思いますか?」
「…そう、ですね…」
榊原さんが携帯電話を取り出す。
「先ほどから彼の部下に電話をしているのですが、繋がらないんですよ。正確には昨日の夜からですが」
「お知り合いなんですか?」
「えぇ。ちょっと立て込んだ用を頼みましてね」
榊原さんが私をジッと見る。
「何か知りませんか?」
「…さぁ、私は日本に来たばかりですし、剣持さんの部下なんて知らないです」
「倉谷、義之…というんですが」
「倉谷さん、ですか…。知らないです。すみません」
「…そうですか」
まさか榊原さんから倉谷の名前が出てくるとは思わなかった。偶然ではないだろう。榊原さんはアコナイトというコードネームを持つブラックホールの一員、その彼が倉谷に頼む用といえば…。ブラックホールの情報を盗ませたのは榊原さんかもしれない。でもなぜ倉谷は榊原さんではなく剣持警部に情報を渡そうとしたのだろうか。
「美咲さん」
「はい」
「僕に何か隠してますよね?」
鋭い目で射抜かれ、全部話したくなるような衝動に駆られる。ICPOのことならいずれ話すつもりだ。
「………」
その時、駐車場に他の車が入ってきて、気がそらされる。
「…まぁ、いいでしょう。今日のところは引き下がります」
そう言って、榊原さんは車を走らせた。
「美咲さん」
着替えに行った榊原さんが戻ってきた。
「お待たせしました」
「いえ…」
高級スーツを着た榊原さんを見て、普段の雰囲気より大人っぽく、それにドキドキしている自分に驚いた。
「それでは、エスコートします。お手をどうぞ」
「はい。お願いします」
会場に入るとワルツが流れていて、何組かがダンスをしていた。そして、すぐに加賀島さん達に会った。
「加賀島さん、今日はご無理を言ってすみませんでした」
「いや、気にしないでくれ。美咲さん、今日は一段とお美しい…」
「ありがとうございます」
すると、威厳のある長身のとても綺麗な女性が加賀島さんの隣に並んだ。
「あら、お知り合い?紹介してくださるかしら?」
「あ、あぁ。俺の助手の中村翔君と美咲圭さんだ。二人とも、これは俺の家内だ」
「初めまして。妻の美希です。主人がいつもお世話になっております」
「いえいえ、お世話になっているのは僕達の方です」
すると、咲さんともう一人彼女と同い年くらいの男の子がこちらに来た。
「中村さん!…わぁ!美咲さん、素敵です!!」
「ありがとうございます」
一瞬、なぜ学生が平日の昼に…と思ったが、今日は祝日で休みの日だ。すると、隣にいた男の子が私の手を取った。
「ようこそ、お越し下さってありがとうございます。こんなにお美しい方にお会いできるとは、パーティーを開いた甲斐があるというものです。俺、五十嵐蓮と申します」
「美咲圭です。お招きありがとうございます」
榊原さんが蓮君から私の手を取るのと、咲さんが蓮君の脇腹に肘鉄を入れるのはほぼ同時だった。
「痛っ!!」
「君が、五十嵐財閥のご子息でしたか。中村翔です」
「バカ蓮!」
「ど、どうぞ、楽しんでいってください」
一通り挨拶が済むと、改めて会場を見回す。政治家に医者、警察官僚それから芸能人のような人まで招待されている。
「ちなみに、今日は何のパーティーなんですか?」
こっそり榊原さんに聞いてみる。
「五十嵐グループが経営しているこのホテルの創業10周年記念パーティーだそうです」
「なるほど…。スポンサーとお忍びで来る人達が招待されているんですね」
「そのようですね」
しばらく二人で情報収集に、何組かに声を掛ける。
「!」
人混みの中にレッドバットとハイドランジア(紫陽花)、本名水無月アリスの姿を見た気がして立ち止まる。ハイドランジアは、何かと私を目の敵にしてくる女だ。狙撃の腕はブラックホールの中でも一位二位を争う実力者だ。
(どうしてあの二人がここに…?)
「美咲さん、どうしました?」
「あ、いえ。なんでもありません」
それからまた色んな人に声を掛けて回った。
「少し休みましょう」
榊原さんに着いて、会場から出ると日が沈みかけていた。
「良い眺めですね」
「最上階のデラックススイートルームからは、もっと綺麗だと思いますよ」
このホテルは35階建で会場は25階。30階から34階はスイートルームで、最上階はデラックススイートルームだ。5階の大浴場を除いて、3階から24階が客室、25階から29階は会議室やパーティー会場になっているそうだ。
「それは見てみたいですね」
そうして再び二人で窓の外を見た時だった。
「「!!」」
窓の外、上から何かが落ちて来た。
「中村さん、今のは…」
「えぇ」
そうして、二人で身を乗り出して下を見る。
「「やっぱり!」」
落ちて行ったのは人だった。
「上に行きましょう!」
「はい!」
榊原さんについて上に向かう。26階から階段を使って見て行くと、29階の廊下の奥の窓が開いていた。
「恐らくここから落ちたのでしょうね」
あの二人がやったんじゃないのだろうか。
「美咲さん、落ちたのが誰か確認しましょう」
「はい」
エレベーターで下に降りると、救急車が来ていたが、恐らく即死だったのだろう、警察を待っている状態だった。
亡くなったのは「剣持渡」だった。私たちは目撃したので事情聴取されたが、29階から彼以外他に何も痕跡が出なかったのと、携帯電話に遺書があったことから自殺として処理されるそうだ。
(自殺…本当に?)
剣持警部は倉谷の上司だった。二人の会話から、剣持警部もブラックホールの事を知っていたに違いない。
(消されたんだ…あの二人に)
あの二人をパーティー会場で見たのは見間違いなんかじゃなかった。
「美咲さん、大丈夫ですか?」
「え?あ、大丈夫です」
私たちはあれから再びパーティー会場に戻ったのだった。パーティー出席者は事件の事を何も知らなかった。
「美咲さん、今日はもう失礼しましょうか」
「え?」
「お疲れみたいですし」
すると咲さんが言った。
「それなら帰った方が良いですよ。顔色も良くないみたい…」
「そうね、貧血気味かしら?休んだ方がいいわね」
美希さんにもそう言われていると、榊原さんが私の耳元で言った。
『少しお話したいことがあります』
「それじゃ、お言葉に甘えて失礼します」
「お大事にしてください」
「ありがとうございます」
会場を出ると車に乗り込んだ。榊原さんは無造作にネクタイを緩め、車を走らせた。そして、近くの公園の駐車場に車を止めた。
「お話、というのは…?」
「美咲さんは剣持さんの死が自殺だと思いますか?」
「…そう、ですね…」
榊原さんが携帯電話を取り出す。
「先ほどから彼の部下に電話をしているのですが、繋がらないんですよ。正確には昨日の夜からですが」
「お知り合いなんですか?」
「えぇ。ちょっと立て込んだ用を頼みましてね」
榊原さんが私をジッと見る。
「何か知りませんか?」
「…さぁ、私は日本に来たばかりですし、剣持さんの部下なんて知らないです」
「倉谷、義之…というんですが」
「倉谷さん、ですか…。知らないです。すみません」
「…そうですか」
まさか榊原さんから倉谷の名前が出てくるとは思わなかった。偶然ではないだろう。榊原さんはアコナイトというコードネームを持つブラックホールの一員、その彼が倉谷に頼む用といえば…。ブラックホールの情報を盗ませたのは榊原さんかもしれない。でもなぜ倉谷は榊原さんではなく剣持警部に情報を渡そうとしたのだろうか。
「美咲さん」
「はい」
「僕に何か隠してますよね?」
鋭い目で射抜かれ、全部話したくなるような衝動に駆られる。ICPOのことならいずれ話すつもりだ。
「………」
その時、駐車場に他の車が入ってきて、気がそらされる。
「…まぁ、いいでしょう。今日のところは引き下がります」
そう言って、榊原さんは車を走らせた。
コメント