ザ・ファイター ――我、異世界ニテ強者ヲ求メル――

ふぁいぶ

第十二話 金の価値と文字習得


 儂はグライブ達と別行動をする事にした。
 夕方になったら、指定された宿屋に来るようにと言われたから、それまでしっかりと無駄なく行動をするつもりじゃ。
 まずは一つ目。金の価値を見定める事。

 これは非常に大事な事で、金の価値がわからなければ、金が絡む話では圧倒的に不利な状況となってしまう。
 儂の頭の中では日本円でしか価値は測れぬから、地球と同じ物があったらそれなりに価格は把握している。きっと日本円と価値のずれはあるじゃろうが、大事なのは儂がある程度の価値の基準を持つ事にある。

 儂は大通りを直進する。
 かなり活気に溢れていて、良い町だと思う。
 露店を見ながら歩いていると、ついに見覚えのある物を見つけられた。
 じゃがいもだった。

 じゃがいもは確か日本円で二十から三十円程だった。ここでは三十円としておこうかの。
 さらにその露店の商品を見ると、商品の隙間に立て札が置いてあった。それらは各商品に置かれている為、恐らく価格表なのだろうと判断。
 となると、適当な値段を吹っ掛けられる確率は非常に少ないと判断した。
 儂はポケットの中に入っている金貨を一枚握りしめて、その露店に向かった。

「いらっしゃい! 何が欲しいんだい?」

 初老の男性である店主が、気持ちの良い笑顔で話し掛けてきた。
 ふむ、この人物は優しそうだから、今からする事も怒られそうにないな。
 恐らく金貨は相当な価値だ。
 儂が今から試そうとしているのは、このじゃがいも一個を金貨で買った場合、いくらお釣りが来るかだ。
 そうする事で、金貨の価値がわかるし、自動的に日本円で金の価値もある程度わかる。

「店主、このじゃがいもを一つくれんかね?」

「一個でいいのかい? なら、鉄貨三枚だ」

「ふむ。おっと、すまんの。今の持ち合わせはこれしかなかったわい」

 店主の手に金貨を握らせる。すると、店主の目玉が飛び出そうな程、目を見開いた。

「き、金貨だぁ!? ちょ、ちょっと待ってくれ! 計算するから!!」

 店主が必死になって、指を折って数えている。
 ちょっと時間が掛かりそうじゃな。必死に頭を抱えながら計算をしている。
 そして、やっと答えが出たようじゃった。

「えっと、お釣りは銀貨九枚に、銅貨九枚、鉄貨九枚、石貨七枚のお釣りだ。確か細かいのはあったはずだから用意するよ。待っててくれ」

「すまないな。お手数お掛けする」

「本当だぜ、全く……」

 すまぬな、店主。
 これも価格調査の為じゃ、許しておくれ。
 しかし、おかげで金の価値がわかった。
 じゃがいもを三十円と仮定すると石貨は十円玉、鉄貨は百円玉、銅貨は千円札、銀貨は一万円札と同価値。
 となると、金貨の価値は十万円という訳か……。
 一円玉に相当する金はないのかの?

 まぁよい、細かい金が手に入ったし、金の調査も出来たし、充分の収穫じゃ。
 じゃがいも一個で相当な情報を仕入れられたぞ。

「ありがとう、店主」

「今度来る時は細かい金を用意してくれよ!」

「すまなかった」

 店主が金を皮袋に入れて渡してくれた。
 おお、サービスで皮袋も付いてくるのか。それはお得じゃな。
 さて次は図書館等があればいいのだが……。
 店主に聞いてみるか。

「店主、もし知っていたら教えて欲しいのじゃが、この町に図書館みたいな所はあるか?」

「図書館はあるよ! この先を真っ直ぐ行くと、白を基調にしたデカい建物が見える筈だ。それが図書館だぜ」

「有り難う。これは迷惑料に情報料じゃ。受け取ってくれ」

 皮袋の中から銀貨を一枚渡す。
 店主は「ありがたく貰うぜ」と笑顔で受け取ってくれた。
 暫くはこの皮袋が財布代わりになりそうじゃの。
 儂は店主に会釈をした後、ポケットに金が入った皮袋を突っ込んで図書館に向かう。

 先程店主の口の動きを確認したが、聞こえる言葉と口の動きが完全に一致していた。
 つまり、音声言語は日本語と全く同じという事じゃ。
 音声言語が同じとなると、使われている文字に関しても意外に習得は容易なのではなかろうか。
 そんな淡い期待を胸にしまい、儂は図書館へ向かった。

 先程の露店から五分程歩いたところで、白い大きな建物が視界に入った。
 これが図書館なのじゃろう。
 儂は扉を開けて入った。
 すると、独特の紙の香りが建物全体を漂っていた。
 儂は本がかなり好きじゃ。知識とは時に最強の武器となる。そんな武器をくれる知識が凝縮された本からする紙の香りも好きで、とても心地好い空間だと思った。

「ようこそ、イデュリア図書館へ」

 左手の方向から女性の声がした。
 すると可愛らしい笑みを浮かべた女性が立っていた。あそこが受付なのだろうか。
 儂は女性に近づいて話し掛けた。

「ここの本は館内で読むのは無料かな?」

「いえ、館内は入場料を頂きまして、一時間鉄貨一枚になります」

 ふむ、となると貸出はやっているのじゃろうか?
 そのまま受付嬢に質問をすると、答えが返ってきた。

「はい、行っております。一冊につき鉄貨五枚を頂いておりまして、次の日に返却をして頂きます。もし返却されないと、一日につき延滞金が鉄貨一枚ずつ追加されていきますのでご注意下さい」

 一日のみ貸出可能という訳じゃな。
 よしよし、十分じゃ。
 さて、このお嬢さんにも無茶なお願いをしようかな。

「実は儂はな、世捨て人でな。見聞を広める為に旅をしているのじゃが、いかんせん文字がわからん」

「そうなのですね、ご苦労されているようですね」

 お嬢さんから哀れみの視線を向けられている。
 世捨て人って、哀れみの対象なのかの?

「そこでじゃ、これで文字の読み方だけを教えて貰えんかの?」

 儂は皮袋から銀貨二枚を取り出した。
 受付嬢は目の色が変わり、「喜んで!」と満面の笑みを儂に向けた。
 現金なお嬢さんじゃの。ま、正直で宜しい。
 
 生憎館内には利用者は誰もいなかった為、入場料を支払って、適当に席に座って講義を受けた。
 儂の予想通り、音声言語が一致している為文字もそこまで難しくはなかった。
 この世界の文字は、形は全く違うが平仮名と同様に五十音の記号で表現している。数字に関しては別の記号を使っている。
 儂は彼女に五十音の表を書いて貰った後、その記号の隣に平仮名を記入していく。
 儂の文字に彼女が「これが世捨て人独自に使われている文字ですかぁ」と関心があるように見つめていた。
 これで問題ないな。

「助かった。これで儂も心置きなく読書が出来る」

「いえいえ、こちらこそ銀貨を二枚も頂けて嬉しいです!」

「文字が読めるようになったのじゃ、二枚でも少ない方じゃ」

「では銀貨をもう一枚頂けたら、見聞が広められる本をお薦めしますよ?」

 ほう、なかなかこのお嬢さんは出来るな。
 欲に目が眩んでいるが、こちらが欲しい情報を的確に引き出して交渉してきおった。
 まぁ儂はこの世界に来てまだ何も知らない。授業料だと思ってその話に乗る事にした。
 ただではないがな。

「くれてもいいが、条件があるの」

「条件ですか?」

「うむ、支払うのは明日じゃ。その本の中身を見て、儂を騙していないかを確認してからになるの」

「それで構いません。大丈夫です、詐欺はしませんから」

「口ではいくらでも言えるじゃろう、行動で示して欲しいの」

「わかりました。ではこちらへ」

 儂は受付嬢の後に付いていき、館内を歩く。
 無数の本が本棚にぎっしり収納されている。
 儂の本好きの虫が騒ぎ始めており、早く本を読みたいと頭の中で騒いでいた。
 館内の奥へ進んでいると、受付嬢が足を止めた。

「こちらが、お薦めの本ですよ」

 儂は受付嬢に差し出された本を手に取って表紙を見た。
 先程彼女から頂いた五十音表を見ながら本のタイトルを読んだ。

「えっと、世界創生録?」

「はい。こちらは最近刊行された本でして、現状有力な仮説や明らかになっているものを纏めあげた、最有力の世界創生を綴った本です。この本を読めばこの世界の歴史や現在の地図等がわかりますよ。簡単にですが、各地方の都市の特徴も書いてあります」

 ふむ、創生録か。
 意外とこういう本は馬鹿に出来ない。
 何故なら、そういった仮説が常識となっている事が多いからじゃ。
 地球で言うところの《進化論》。あれは否定的な意見がかなり多いのに、世間一般では常識且つ正しいようにメディアでも使われている。
 日本では全く否定的な部分を取り上げないせいか、一般人は進化論が正しいと思っている。
 ここで知らなかったり反論すると、バッシングの対象になって面倒な事が起きてしまう。
 故にこういう創生録も知っておいて損がないのじゃ。自分の身を守る為にな。

 しっかし、なかなか分厚い本じゃなぁ……。
 これ、明日までに読み終わるかのぉ。
 そこは文字を完全に覚える為にも、頑張らねばいかんな。
 とりあえずはこんなものかの。
 まだ時間はたっぷりあるし、町をぶらぶらして買い食いでもして楽しもうか。
 儂は本の貸出料金を支払い、図書館を出た。

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