シャッフルワールド!!外伝──scarlet──
一章 悪の胎動(2)
午前六時 (ソーノ・レ・セイ)を針が刺す頃に俺は目を覚ました。朝日が俺とライアーの眠るベッドに射しかかり、目を覚ませと刺激を与える。
豪邸への帰宅後に自室で、見忘れていたアニメや録画していた番組の試聴で夜更かししちまって、なんかまだ眠いな。思わず欠伸が出ちまったよ。
ゲームにコミック。アニメに映画。PCにインターネット。
狼だった頃は、こんな娯楽なんて面白ぇもんがあるたぁ思いもしなかったからな。かれこれ数年経つが、未だに興味が尽きねえ。アニメは特にな。
ま、だからといってインドアに嵌まっているだけじゃねえ。スポーツにだって関心はある。プロレスやアメフトといった力のぶつかり合いが激しいやつ。俺の野性を研ぎ澄ますにちょうど良いんだ、うん──っとお、一人呑気に頷いている場合じゃねえ。傍で寝ているライアーを起こさねえと。
しっかし珍しいな。こいつがこんな時間まで寝ているなんて。
この邸には、メイドや執事といった住み込みの使用人を置いてない。ちょいと昔に殺し屋が紛れ込んだことがあって、面倒が起きたからだ。
ま、その面倒事を起こした“元”殺し屋も、今では家族の立派な一員だけどな。俺達が一緒に暮らしているのは、殺し屋稼業から足を洗った奴らと身よりのない子供共だ。
全員が訳ありで、人の生き死にを目の当たりした者ばかりの集まり。そして社会の輪に弾き出されたこいつらを保護しているライアーは、この邸ではお母さんのような存在だ。ちなみに俺様は周りから姐さんやら、何故か兄貴呼ばわりされている。姐さんはともかく、兄貴は不愉快だっつーの。
とまあ話を戻して、お母さんたるライアーはみんなの朝食の担当をしており、『ライアーの料理無くして朝は始まらない』と豪語せしめるくらい、みんなの楽しみの一つとなっている。
「おーい、起きろー」
そういう理由だから俺は、みんなの為にこいつを起こさねばならん。なので小さな形良い鼻をペロペロ舐めてみたが、まったく無反応。
「ライアー、おきろー」
ペチペチと頬を叩いても、いっこうに目を覚ます気配がない。つうか、やわらけえなこいつの肌。一見して卵肌、触れた質感は乳児の肌だぜ。本当に二十代後半かよって疑いたくなる。
実はこいつ十六歳以降、外見は全然変わってないんだ。化粧もしていないから、周りには天然の美人と称えられている。本人は顔を難色に染めるけどな。容姿に何かしらのコンプレックスを抱くのは人間にゃあつきものらしいが、ライアーの場合はもっと別のところにあるんじゃねえかなって、こいつの過去を他人より多く見て来た俺は思う。
「起きろよライアー」
むう……起きねえなこいつ。呼び掛けたり揺さぶる程度じゃあ駄目か。昨日はけっこう無理してたし、疲れが溜まってんだろうなきっと。いっそのこと、今日は起きるまで寝かせてやるか?
「ん?」
「ぅ……ん……」
そうしようと考えた矢先にライアーが呻いた。あら? もしかして起きちゃう?
少し気になって覗き込むと、目許から雫が流れて頬を伝うのが見えた。泣いている……のか?
「……母……様」
ボソッと寝言を漏らすライアーの表情は、とても哀しげなものだった。俺が知る限りこいつは、人前で弱さをさらけ出した事は一度も無い。みっともなく声を張り上げて大粒の涙を流して泣いたのは、俺の前で一度だけだ。
思い返すだけで憂鬱になるぜ。あの時、ライアーの小さな背中に声を掛けることすら出来なかった。無力な自分に悔しさを覚えた。
「……うっし、いっちょやるか」
だからこそ、支えてやりてぇんだ俺は。
「そうと決まれば人間の姿に変身して、キッチンへGoだぜ」
ガキどもの朝食は、俺様が作ってやるぜ。だからぐっすり休めよライアー。
豪邸への帰宅後に自室で、見忘れていたアニメや録画していた番組の試聴で夜更かししちまって、なんかまだ眠いな。思わず欠伸が出ちまったよ。
ゲームにコミック。アニメに映画。PCにインターネット。
狼だった頃は、こんな娯楽なんて面白ぇもんがあるたぁ思いもしなかったからな。かれこれ数年経つが、未だに興味が尽きねえ。アニメは特にな。
ま、だからといってインドアに嵌まっているだけじゃねえ。スポーツにだって関心はある。プロレスやアメフトといった力のぶつかり合いが激しいやつ。俺の野性を研ぎ澄ますにちょうど良いんだ、うん──っとお、一人呑気に頷いている場合じゃねえ。傍で寝ているライアーを起こさねえと。
しっかし珍しいな。こいつがこんな時間まで寝ているなんて。
この邸には、メイドや執事といった住み込みの使用人を置いてない。ちょいと昔に殺し屋が紛れ込んだことがあって、面倒が起きたからだ。
ま、その面倒事を起こした“元”殺し屋も、今では家族の立派な一員だけどな。俺達が一緒に暮らしているのは、殺し屋稼業から足を洗った奴らと身よりのない子供共だ。
全員が訳ありで、人の生き死にを目の当たりした者ばかりの集まり。そして社会の輪に弾き出されたこいつらを保護しているライアーは、この邸ではお母さんのような存在だ。ちなみに俺様は周りから姐さんやら、何故か兄貴呼ばわりされている。姐さんはともかく、兄貴は不愉快だっつーの。
とまあ話を戻して、お母さんたるライアーはみんなの朝食の担当をしており、『ライアーの料理無くして朝は始まらない』と豪語せしめるくらい、みんなの楽しみの一つとなっている。
「おーい、起きろー」
そういう理由だから俺は、みんなの為にこいつを起こさねばならん。なので小さな形良い鼻をペロペロ舐めてみたが、まったく無反応。
「ライアー、おきろー」
ペチペチと頬を叩いても、いっこうに目を覚ます気配がない。つうか、やわらけえなこいつの肌。一見して卵肌、触れた質感は乳児の肌だぜ。本当に二十代後半かよって疑いたくなる。
実はこいつ十六歳以降、外見は全然変わってないんだ。化粧もしていないから、周りには天然の美人と称えられている。本人は顔を難色に染めるけどな。容姿に何かしらのコンプレックスを抱くのは人間にゃあつきものらしいが、ライアーの場合はもっと別のところにあるんじゃねえかなって、こいつの過去を他人より多く見て来た俺は思う。
「起きろよライアー」
むう……起きねえなこいつ。呼び掛けたり揺さぶる程度じゃあ駄目か。昨日はけっこう無理してたし、疲れが溜まってんだろうなきっと。いっそのこと、今日は起きるまで寝かせてやるか?
「ん?」
「ぅ……ん……」
そうしようと考えた矢先にライアーが呻いた。あら? もしかして起きちゃう?
少し気になって覗き込むと、目許から雫が流れて頬を伝うのが見えた。泣いている……のか?
「……母……様」
ボソッと寝言を漏らすライアーの表情は、とても哀しげなものだった。俺が知る限りこいつは、人前で弱さをさらけ出した事は一度も無い。みっともなく声を張り上げて大粒の涙を流して泣いたのは、俺の前で一度だけだ。
思い返すだけで憂鬱になるぜ。あの時、ライアーの小さな背中に声を掛けることすら出来なかった。無力な自分に悔しさを覚えた。
「……うっし、いっちょやるか」
だからこそ、支えてやりてぇんだ俺は。
「そうと決まれば人間の姿に変身して、キッチンへGoだぜ」
ガキどもの朝食は、俺様が作ってやるぜ。だからぐっすり休めよライアー。
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