前世の恋

柊翔

衝撃告白

僕の生活スケジュールは、ざっくり言うと

5:30→起床
7:30→出勤(自前の白いエスティマで)
8:20→会社到着
9:00→朝礼・業務開始
12:30→昼休憩(いつも手作り弁当)
13:30→昼休憩終了
20:00→定時・施錠
21:00→帰宅
23:00→睡眠

こんな感じ。



二人で住むことになってもそんなに変わらないな、というのが本音だった。
学生が一緒に住むとなると少なからず生活バランスは崩れる、という堅い覚悟は全く意味を持たなかった。
あった変化といえば、作る弁当が二人分に増えたくらい。
ほんとによかった。
このまま平凡に過ごしていきたかった。
それが、彩華ちゃんのある一言を聞くまでは。

上田さんが出発し、はや1ヶ月が経とうとしていた頃、ふと気づいたことがある。正確に言えば、かなり前から薄々思っていたことを明確に気づいたのが、つい最近だ。
彩華ちゃんが、やたらと俺を観察しているのだ。
最初は、俺の自意識過剰かなとか、慣れてないせいで変な思い込みをしているのだろう、などと言い聞かせ、気にしないようにしていたが、そんな事はなく、明らかに俺に注目し、俺という人間を探っている様子だった。
「まあ、そりゃ、知らん人なんだから当たり前だよな」というのが自分の中で生まれた答えだが、時間が経つにつれ、それもどんどん薄れていく。
そして、それに反して、小さかったモヤモヤがますます膨らんで、いつしか得体の知れない大きなものになるんじゃないかと不安に変わりつつある。
そんな、正体の不明なモヤモヤを解消すべく、とある行動に出た。

いつも通り、19時過ぎに汗をタオルで拭いながら「ただいま帰りましたー」とまだまだ礼儀正しく挨拶しながら、玄関をくぐる少女を確認した僕は、おかえりー、とリビングから一声かけ玄関へ向かう。
「んー、汗かいてるみたいだし、今日も先に風呂に入る?」
「はい、そうします」
「了解。……って、まあ、そのつもりで準備は整えてあるんだけどね」
「いつもいつもすみません、ありがとうございます」
「いえいえ。あ、部活お疲れ様」
「ありがとうございます、それじゃ、お先にお風呂いただきます」
「ごゆっくり〜」
彩華ちゃんの入浴見送ったあと、夕飯を用意するため、キッチンへと向き直る。
30分ほどかけ、スパゲッティとポテトサラダを作り終え、テレビをつけてニュースと向き合う。
そして、現在の社会情勢について一通り把握したあと、皿やスプーンなど食卓に並べ始める。
「お風呂ありがとうございました」
ちょうどいいタイミングで、いつもの様に可愛らしいパジャマで濡れた髪を拭きながら、ダイニングへ向かってくる。
「ご飯できたよ」
「ありがとうございます、じゃあ、ドライヤーしてきますね」
「はい、行ってらっしゃい」
それから5分ほど、現在の政治での問題をちょこっと復習したあと、彩華ちゃんが戻ってくるのに合わせて、テレビを消して食卓へ向かう。
「いただきます」
二つの声が重なり、フォークが皿に触れる音が部屋に響く。
「ん〜、おいひいです、これ!」
「それはよかった」
「ナポリタンですよね」
「好きでしょ?」
「はい!」
そんな、いつもと変わらない会話をし、微笑み合う。
ここまでは、いつもと何も変わりない。
だが、彩華は何の前触れもなくら突然手に持っていたスプーンを置く。
そして、今までにないほどの真剣な表情で宏太をまじまじと見つめる。
あまりにも急な行動に戸惑うが、どうしたのか、と聞くのも愚問なので、彩華と同じようにフォークを置き、水を口に含み緊張をほぐし向き合う。
だが、彩華は口こそは開いているが、緊張したように声が出ていなかった。なので、「どうしたの?」と話をするように促しながら、自分の緊張もほぐす。
「あ、あの、し、志水凪紗って子覚えてますか?」
「…!?」
なんで、なんでこの子の口から凪紗の名前が出るんだ。そもそも、もう17年半も前の話だ。どうして彼女が知っているんだ。
とても困惑したが、一人で考えていても結論は出ない。聞かない限り。
「どうして?」
「い、いや、どうしてって言うか、その、お、覚えているか覚えていないかで、こ、答えてください」
宏太はさらに返事に困惑した。
正直に覚えていると言うべきか、様子を見るために覚えていないと言うべきか。
「いやー、そんな女の子な知らないなぁ。なんかあったの?」
さすがに、凪紗の話題はおかしい。
何かあるのか?
「そうですか……」
とても悲しそうな顔で落ち込む様子を見せる彩華を見ると、どうしても嘘をついた自分が後ろめたくなってしまう。
「嘘だよ、忘れるはずがない。多分来世になってもね。俺の、生涯を通して愛している人だから」
「ほんとですか!!!」 
とても喜びに満ち溢れたかのような、パッと咲いた笑顔を見せ、にこやかに微笑む。
「あの、なんでそんなこと聞くの?」
「いや、あの、信じてもらえないかもしれないんですけど…」
そう言い、口ごもってしまった。
「言って。信じるか信じないかは俺次第だけど、聞かない限り分かんないもん」
「ですよね…」
「うん」
そう言うと、彩華は勇気を振り絞ったように、もう一度座り直し、深い呼吸をする。
「私、志水凪紗なんです!!!」
「…ん?」
「え?聞こえませんでした?」
「い、いや、今なんて?」
「あ、だから、私、志水凪紗なんです!」
「えーーーーーー????!!!!」

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