雨に濡れた君と記憶の匂い

青樹 空

降り止まぬ雨

 
 僕は君の目から流れ落ちたしずくを親指でなぞり消した。

君は呼吸を整え口から4文字を発した。 
雨音でよく聞こえなかったが口の動きではっきりわかった。

僕は君の顔が見れず濡れたスニーカーを見つめる。
近くにある公園の時計の針は5分進んでいた。

その時、彼女の携帯から聞き慣れた着信音が鳴り僕に背を向ける。

気がついたら電話を切りこちらに振り返っていた。
やはりどの角度から見ても美しい。
彼女は笑顔を作り僕に言う

「じゃあ、いくね」
「うん…」

素っ気ない返事で彼女を見送った。家のある方向へ歩き始め、もう少し丁寧に返答すれば良かったと後悔し始める。

なんでだろう…
街並みがいつもより少し小さく見えた。

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