『ダンジョンの守護者「オーガさんちのオーガニック料理だ!!」』

チョーカー

外来種は仲間になりました(?)


 「まず、俺の目的はゴブリンを殺す事ではない。実際に誰も殺してないだろ?」



 外来種の言葉に亮はゴブリンたちに目配せをする。

 ゴブリンたちは互いに顔を見渡せる。

 どうやら、彼らも気づいていなかったみたいだ。



 自分たちの仲間が誰1人として死んでいなかったことを……



 「目的は修行さ」と外来種は言う。



 「修行?」

 「そうさ。俺は、俺の一族を殺した男に復讐をするために生きている。だが――――今はただ自身を鍛え強くなる。そのために数々のダンジョンを渡り歩いてきた」



 外来種の瞳に強い意志が宿っていた。赤く光る瞳は、どうやら彼の意志と連動しているらしい。

 だが、それを亮は――――



 「それは随分と迷惑な話だ」と一刀両断したの。



 「ここにいるゴブリンたちは、お前の我侭わがままで生活を乱されたんだぞ。それは、どう考える?」

 「あぁ、迷惑をかけたのはわかってるさ。だから、こうして投了した」



  外来種は両手を挙げて、無抵抗を表した。



 「復讐するため、強くなるためと言いながら、すぐに投了するんだな。ここで殺されるとは思わないのか?」

 「ここで俺を殺すほどの無能がトップなら、俺が殺すよ」



 その一言で周囲の空気が凍り付く。

 護衛のゴブリンたちが強い殺意を生み出した。



 「いい殺気だ。頭のやつが慕われている証拠だ。どうやった?」

 「……どう?……とは?」

 「どうやって、こいつ等を手懐けて鍛えた? こいつ等は、今まで相手をしてきたゴブリンとは別物だ」



 外来種は楽しそうに言う。 



 「まず集団戦の練度が違う。ゴブリンってのは俺みたいに自我エゴが強い生物のはずだ。それに通常のゴブリンより個々の戦闘力も高い。こいつ等が、どうやって強くなったのかを知りたいから投了した」



 「俺も強くなりたいからな」と付け加える事を忘れずに……



 外来種をどうするのか、亮はゴブリンたちに任せる事にした。

 どんなに持ち上げられても自分は部外者である。その一線を守る事にしたのだ。

 しかし、疑問が残る。 なぜ、ゴブリンだった彼が人間のような姿になったのか?

 憶測として外来種は、こう説明した。



 「どうやら、ダンジョンで魔石を食べて暮らしていたら、神とか悪魔の分類に近づいたみたいだ」



 「……はぁ?」と亮には理解できない答えだった。



 「ほらよ。お前らの世界じゃ、神様ってのは自分に似せて人間を作ったって信じられているのだろう?」

 「……ん、まぁ、そういう人もいるけど……」

 「だから、これは強くなりすぎて先祖帰りみたいな現象が起きたんだろ」

 「いや、それじゃ魔物は強くなると神様や悪魔みたいに変身するって事かい?」



 「さぁ、わかんねぇ」と答え、それからこう続けた。



 「だが、俺が探している仇も同じだったぜ」

 「同じ?」

 「全身が黒い影で覆われて瞳が赤く光っていた。俺以外にそんな奴が現れたら教えてくれ。必ず殺すからな」



 そう言うと外来種の瞳は赤く光、表情に狂気の笑みが張り付いていた。





 亮たちは場所を移動した。

 さすがに投了した捕虜を全裸のままにしておくのは忍びないという亮の提案だ。 

 ゴブリンが使うボロ布を腰に巻かせてた。 これでも全裸よりはマシだと思ってほしい。

 場所は集落内部。作戦会議などに使っていた部屋だ。

 亮と外来種の2人(?)きり。護衛には無理を言って外に待機させた。



 「ところで名前は?」

 「名前? あぁ、こんだけ戦って自己紹介はしてなかったな」

 「俺は神崎かんざき亮りょう」

 「俺の名前は……忘れた。 アンタが適当につけてくれ」

 「おいおい、自分の名前を忘れるのか?」



 亮は茶化すように言ったが、外来種は違った。



 「あぁ、どうやら存在の本質が別物に代わると記憶も潰されていくみたいだ」



 外来種は自分の頭部を指でコツコツと叩いた。



 「だから、アンタが名前を付けてくれ」



 外来種の言葉に亮は少し考える。

 考える。 考える。 考える。



 「それじゃ……ガイなんてどうだ?」



 外来種の頭から取った単純な名前。

 しかし、外来種――――いや、ガイは、何度か「ガイ……ガイか……」と確かめるように繰り返し――――



 「こっちが頼んで貰った名前だ。大切にするさ」



 名前をどう大切にするのか? 亮は疑問に思ったが、空気を読んで言葉にしなかった。



 「それで強くなる秘密ってのは、この食べ物なのか?」



 チラチラとガイはできたばかりのから揚げに視線を送っていた。



 「あぁ、どうも『こちら側』で俺が作った料理には他者の能力を底上げする力があるみたいだ」



 「なるほど、たまに聞く人間のチート能力ってやつか?」とガイは唐揚げを一つまみ。



 「……うまいな。 表面には甘味。それに肉の内部から少量の汁が旨味を――――こ、これは!」



 ガイは体に黒い靄を身に纏った。

 赤く光る瞳が、今までになかったくらい爛々とした光に変わる。



 (いきなり臨戦状態? 一体、何が?) 



 亮は警戒を強める。それと同時に、外で待機していた護衛ゴブリンたちが室内へ飛び込んでくる。

 それに対してガイは――――



 「いや、大丈夫だ。どうやら、俺の体内で貯蔵されている魔石が反応したらしい」



 そう言うと、靄を霧散させた。



 「凄いなぁ。これならアイツに勝てる!」



 激しく興奮しているようだ。内部から湧き出てくる力を抑えているようにも見えた。

 それから、ガイは勢いよく亮との間合いを詰めると、その両手を握りしめた。



 「頼む! 俺のために料理を作って……」



 どこかで聞いたようなフレーズを言いかける。

 だが――――



 「待ちな!」



 それを阻止する声がした。



 「ソレは、ソイツは私のだ。誰にもやらない。頭から足の先まで私のだ!」



 いつの間にか、オーガさんがいた。

 怒りによるものか? 髪の毛が浮き上がっている。

 たぶん、これが怒髪天という状態なのだろう。



 「……このダンジョンのボスか。面白い。強化された俺と亮の力がどれくらいか試させてもらうぞ!」



 そのまま、ガイはオーガさんに飛び込んでいった。



 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・



 オーガさんの住処への帰り道。

 5日間も集落で寝泊まりしていた亮には、わずかだけど懐かしさを感じていた。

 「なぁ……」とオーガさん。



 「お前が言っていたように野菜の世話は……大丈夫だと思う。 作り置きしてくれた料理もおいしかった」



 オーガさんは顔を赤くしながら言った。それを見ながら亮は――――



 「最後のあの時、オーガさんはいつの間にか室内にいたけど……」

 「なっなんだよ。べ、別に隠れて様子を毎日見に行っていたわけじゃないぞ! たまたま、そう! たまたま、あの部屋に忍び込んでいただけなんだからな!」



 亮はオーガさんに微笑みながら「はいはい、わかってますよ」と言った。  




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