『ダンジョンの守護者「オーガさんちのオーガニック料理だ!!」』

チョーカー

外来種との激闘

 「そろそろ、時間です」



 ゴブリンAの声で他のゴブリンたちも緊張があふれ出す。

 そして、見張りから叫ぶような伝令が入る。



 「奴が現れました!」



 集落の前、外来種が姿を現した。それに対して亮は悪態をつく。 



 「毎日、時間通りに出現しやがってソシャゲのイベントボスかっての!」



 最初に外来種を撃退して5日が経過した。

 しかし、それ以降の5日間、奴は決まった時間に現れ攻撃を開始した。



 「亮さま、また奴の姿が……」

 「あぁ、変化しているな」



 「徐々に人間の姿に近づいている」と言いかけ亮は言葉を止める。

 最初は巨大なゴブリンだった外来種。

 何度も攻め、そのたびに敗走をしている。

 だが、負けて戻ってくるたびに奴は強化されている。

 その姿が獣じみた外見から、真っ直ぐな二足歩行に変化している。

 気にならないといえば嘘になる。



 そんな敵は、現在――――



 門の上に立っている亮を見ると、何かを数え始める。

 最初は、何を数えているのかわからなかった。

 今は理解できる。

 何歩で、亮がいる場所まで駆け上れるのか、歩数を数えているのだ。



 ニタァと笑みを見せたかと思うと――――



 外来種は弾かれたかのような勢いで走り出した。



 速い。

 強化された肉体は、一瞬で門の上部まで到達する。

 だが――――



 「放て!」



 強化されているのは外来種だけではない。

 毎日の連戦はゴブリンたちも強化されていた。

 ギリギリまで引き付けて、放たれた弓。 それは、まるでレーザービーム。

 軽々と肉体を貫通した。 

 対して外来種は急所のみをガードしていた。

 致命傷はなし。しかし、それでも空中姿勢は大きく乱れ、落下を――――いや、しない。

 体を覆う靄が変化。 巨大な翼になる。

 巨体に対して体重が極端に軽いのか? あるいは魔法による効果か?

 そのまま、外来種は飛翔。 

 ついに、門を越え、ゴブリンの集落への到達を成し遂げ――――



 「今です!」 



 ゴブリンAの合図。

 それは、門に陣取る弓兵の背後。

 しゃがみこんで姿を隠していた部隊がいた。



 弓兵の背後には槍兵。



 真上を通過しようとする敵。そうはさせまいと、立ち上がると同時に槍で貫いたのだ。

 いや、よくよく見ると槍兵たちが持っている武器は槍ではなかった。

 丸太だ。

 まるで鉛筆のように先端が削られた丸太。

 破損した門の修理や柵の設置に用意されていた木材だ。

 槍兵たちは丸太ごと、門の外へと投げ捨てる。



 しかし、誰も勝利を確信していない。



 ここ数日の戦いで、皆が外来種が回復力、生命力の高さ。そして靄の防御力を熟知している。



 (これだけでは致命傷にならない)



 皆の共通認識だ。

 弓兵は身を投げ出し、倒れた外来種に矢の追撃を開始。

 槍兵たちは槍代わりの丸太を捨て、事前に用意していた石礫で投石と開始する。

 すぐに背中がハリネズミのように矢が突き刺さっていく。

 それでも外来種は勢い良く顔を上げる。 そうかと思ったら、すぐに逃走を開始した。



 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・



 「疲れただろう?」と亮は大量の唐揚げを持って現れた。

 それを見たゴブリンたちは――――



 「亮様、あの戦いの最中に作られていたのですか?」



 「ん? 俺は、戦えないからね。 少し、不謹慎だったかい?」

 「いえ、そのような事は全くありません。我々のために申し訳なく思います」



 ゴブリンたちは、一斉に片膝を地面につけて頭を垂れた。

 亮は忠誠心が高すぎてやりにくさを感じていた。 



 「さぁ、さぁ、食べてよ」と誤魔化すように唐揚げを進める亮であった。



 「食べると体が温まって行く感覚がすごいです」



 生姜の効果だろうか?



 「食べるだけで、体の奥底から活力に満たされていきます」



 ニンニクの効果だろうか?



 亮が団結力を強める料理として唐揚げを選択した理由は、単純な食べやすさ。

 作戦会議や休憩時間の間。

 僅かな時間でも食べる事ができる。 それに、皆が皿の周りに輪になって食すれば、自然と団結力が強まるのではないかと考えたのだが――――



 どうも、それがうまくいっている様子だ。



 兵站は万全。

 この様子なら、まだまだ戦える。

 亮は手ごたえを感じる。 しかし――――



 戦いは唐突に終わりを告げた。



 「り、亮さま! アレを見てください」



 誰かが叫んだ。叫んだゴブリンの指差す方向に 目を向ける。

 ついさっき、逃走したはずの外来種が戻ってきていた。

 今までにないパターンに緊張感が走り抜ける。



 どこで手に入れたのだろうか?



 外来種は白い布を広げた。

 それが何を意味しているのか、理解できなかった。

 ようやく、白旗を振って敗北を知らせていると気づいたのは、数十分が経過してからだった。


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