『ダンジョンの守護者「オーガさんちのオーガニック料理だ!!」』
復讐の魔物
走る―― 走る――
外来種は振り返る事なく走り抜けた。
目的もない、ただ逃げるだけの敗走――――ではない。
走りぬいた外来種は目的地に飛び込んだ。
そこは水場。ダンジョン内に流れる小川。
体の深部まで焼きついた熱傷は、無視しても黒い靄が癒してくれる。
だが、外来種は、それすら我慢できない。
今も体内に流れる血液は100℃を超えている。
それを急激に冷やした事で、新たな苦痛に襲われる。
――――苦痛ならいくらでも我慢できる。
我慢できないのは復讐を果せず死ぬ事だ。
全身の痛みと敗北は、嬉しい。
なぜ、なら――――まだ、強くなれるからだ。
がさ…… がさ……
音の方向に外来種は手を伸ばした。
掴んだのは昆虫? いや、ただの昆虫ではない。
昆虫にはあるまじき大きさと凶悪な牙。
間違いなく魔物だ。
外来種は昆虫型魔物の背後、羽と羽の隙間に指を入れ――――
ぐちゃ…… ぐちゃ……
魔石を取り出し、それを捕食した。
外来種。
2メートルを超える巨体。
その体を覆う黒い靄には超回復と高い防御力がある。
だが、その外来種も、かつては1匹のゴブリンに過ぎなかった。
ダンジョンで普通に暮らし、人を襲い、冒険者に襲われ、やがて死ぬ定めだった。
それが巨悪な魔物に変貌した理由は――――
他の魔物を殺し、体内から引きづり出した魔石を食べたからだ。
外来種は体を癒しながら思い出す。
最初に食べた魔石は、友の体から抜け落ちた石。
それを泣きながら食べた。
全ての始まりは、数年前の出来事。
外来種が住んでいたダンジョンに厄災が現れた。 人の形をした厄災だった。
全身が黒い何かで覆われていた。 暗闇の中で妖気を秘めた赤い瞳だけが輝いていた。
他には黒い太刀から時折漏れる白刃の光のみ――――
あれは人でも魔物でもない。
あれは――――
魔人だった。
魔人が立ち去るまで、普通のゴブリンだった外来種は隠れる事しかできなかった。
隠れるゴブリンに魔人も気づいていただろう。 立ち去る時、確かにこちらを見て――――
ニタァ
そう笑っていたのだ。
魔人が立ち去った後にダンジョンに残ったのは魔石だけだった。
自身を除いて全ての魔物が殺された。
それを理解した外来種は復讐を誓う。
例え、どんな事をしてでも――――
アレに復讐を遂げると――――
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
外来種は自身が寝ていた事に気づいた。
目を覚まして、最初に思ったことは――――
(やはり、このダンジョンは優しい)
様々なダンジョンを渡り歩いた外来種は知っている。
ダンジョンにも意識があると――――
魔物に優しいダンジョンもあれば、人に優しいダンジョンもあった。
なら、このダンジョンは?
(このダンジョンは力を欲するものに、力を与える)
外来種の周囲には黒い昆虫型の魔物がいた。
それも生まれたばかりと思える幼体。それも100体以上の数だ。
まるで、ダンジョンが外来種に餌を与えているようにすら見える。
その光景に外来種は――――
ニタァと笑った。
一方、その頃――――
「流石です亮さま。単身で外来種を追い返すとは感服いたしました」
ゴブリンの集落で英雄のような扱いを受けていた。
――――と言うよりも、木製で出来た椅子に座らせられ、ゴブリンたちが頭を下げている風景は、英雄よりも王様の扱いだ。
亮は居心地が悪かった。
「いや、もう良いから、こういう扱いはやめてくれよ」
「はぁ……何か我々に至らぬ所がございましたら……」
「いやいや」とゴブリンAの言葉を遮る。
「何とか外来種を撃退する事はできたけど、俺がこの集落を守り続けるわけにはいかないんだ。 あいつ、体が回復したら、また来るぞ?」
お祭り騒ぎが一瞬で静まり返った。
自分たちだけで外来種と戦わなければならない現実を突きつけられ、全ゴブリンの顔が青くなる。
「では、亮さまがおられない時、また外来種が来たらどうすれば……」
そんな言葉に亮は平然と答える。
「そもそも俺がここに来た理由は、君たちがアイツと戦うための料理を作るため……ためだろ?」
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