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『ダンジョンの守護者「オーガさんちのオーガニック料理だ!!」』

チョーカー

スラリンが進む道

 しかし、まぁ――――

 亮は自身が作った料理に不安があった。



 「米と野菜が足りない!」



 野菜はブロッコリーのみ。せめて、キャベツはほしい。



 「ブロッコリーとキャベツは同じ種類の野菜。なら、作るか……」



 しかし、問題は米だ。 素人が稲を育てられるのか?

 「う~ん う~ん」と亮は唸るような声を出して、今後の農業プランを考えていた。

 だから、気づくのが遅れた。

 「おい、亮」とオーガさんが呼ぶ声で正気に戻ると……



 「あれ! もう全部ない?」



 皿の上はもちろん、作り置きしていた猪の生姜焼きすらなくなっていた。

 犯人は――――



 「ごめんなさい」とスラリンが謝った。



 「僕、生まれてから一度もお腹一杯食べた事なくて……いつも食事になると無くなるまで食べるの癖になってるんです」



 「お腹一杯食べた事ない? いやいや、そんな……」

 「たぶん本当だぞ。スライムは消化液が強くて、おそろしく燃費が悪い魔物なんだ。まぁ体そのものが胃袋みたいな構造だからな」



 「へぇ~ そうなんだ」と言い、何か引っかかるものを感じた。



 「あれ? もしかして……スライムが弱い理由って……」



 栄養カロリー不足?



 その言葉が思い浮かんだ瞬間、亮は勢い良く立ち上がった。



 「オーガさん!」

 「な、なんだ? いきなり!」

 「もっと猪って狩ってこれる?」

 「お、おう、あと5匹くらいは見かけたから、すぐに」

 「それじゃ、お願い」



 亮は鍋に水を入れると火をかける。

 温度は沸騰するよりも低め。 理想は80度。

 器に薄く切った肉を並べる。 



 そう、これは猪肉のしゃぶしゃぶだ! 



 「スラリン! どんどん生姜焼きを作るから少し待ってて。それまで、生肉をお湯で色が変わるまで、軽く茹でて食べていって!」



 「は、はい」とスラリンは触手で器用に箸を操り、猪肉を鍋に入れる。

 その間に、どんどん生姜焼きを作る。 オーガさんが戻るとガンガン猪を解体していく。



 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・



 ―――数週間後―――



 ダンジョン1層に冒険者が現れた。

 3人PTパーティで全員が男。 それなりの鎧と盾で装備をしている。

 つまり、戦士系で構成されたPT。前衛や後衛といった取り決めはないみたいだ。  



 「妙だな。魔物の出現率エンカウントが低い」

 「確かにそうだが……先行しているPTがいるんじゃないか?」

 「いや、それだと戦闘の痕跡そのものがないのはおかしい」



 3人は、初心者向きのダンジョンだと聞いて、腕試しに来た新人冒険者。

 初心者向きだからと聞いて、それぞれの役割も決めず、全員が戦士系を尖とんがった構成で来たのだ。

 要するに彼等は初心者向けとダンジョンを舐めたのだ。

 しかし、魔物が出現しないという異常性に気づき始めていた。



 これは何かの前触れではないか? 



 PTの不安が広がる。

 そこに現れたのは――――



 「おい、あれ見ろよ。スライムがいるぞ」



 スライムのスラリンだった。



 「へっ! 鬼オーガが出るか、蛇ドラゴンが出るか、期待させてスライムかよ!」



 今まで感じてた不安を払拭するように声を張り上げ、1人がスラリンに向う。



 「死ねよ! ごらぁ!」



 大股で間合いを詰めた冒険者が足を上げた。

 剣を振るう必要すらないと踏み潰そうとしたのだ。

 そして、それを実行した。



 「あ、あれ?」と冒険者は動揺した。

 通常のスライムなら、踏み殺せたはずだ。

 実際に冒険者になる以前でも、そうやってスライムを殺した経験があった。

 だが、靴から感じたのは強烈な弾力。

 まるで足元に転がるボールを気づかず踏みつけたように――――

 冒険者はバランスを大きく崩す。



 その隙をスラリンは逃がさなかった。

 素早く振るわれた触手は切れ味は付加され、冒険者の足を切り裂いた。



 「いっ……痛っ!」



 そのまま、膝付近を押さえて冒険者は地面を転がる。

 他の仲間たちは何が起こったのかわからず、呆然とする。

 正気に戻ったのはスライムが逃げ出そうとしている事に気づいた時だ。



 「この! スライムの分際で! 逃がすかよ」



 冒険者の1人が剣を逆手の持ち直し、スラリンに向けて投擲。

 真っ直ぐ、勢い良く、逃げるスライムの背中に飛翔する長剣。

 しかし、それを影から飛び出した何かが空中で掴み――――



 握り潰した。





 「いいぞ、スラリン。強くなるってのは、簡単じゃない。小さくてもいい。確かめながら一歩づつ進め。戦いながら経験をつめば、いつか、必ず――――」



 「ど、どうして」

 「こんな場所にボスモンスターがいるんだよ!」



 オーガの言葉を冒険者の叫びがかき消した。

 それを「チッ」と不快そうに舌打ちをしたオーガは――――



 冒険者に向って疾走を開始した。



 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・



 「オーガさん、亮さん、ありがとうございます。これで僕も自信がつきました」



 スラリンはペコっと頭を下げる。



 「なぁに、強くなるのはこれからだろ? 腹が減ったらいつでも来い」

 「うん、オーガさんの言うとおりだ。俺はいつでもお腹一杯に食べさせてあげるよ」



 「本当にありがとうございます。御礼と言うには詰まらない物なんですが……これを亮さんへ」



 スラリンはどこに持っていたのか、一冊の本を取り出し亮へ渡した。



 「ありがとう。必ず、読むよ」

 「はい、それでは……また。今日はさようならです」

 「それじゃ! またね!」



 スラリンは、その小さな体を楽しげに弾ませて帰っていた。



 「やっぱり、強くなるのが楽しいんだね。男の子は」

 「……ん?」

 「……え?」

 「やっぱり、気づいてなかったのか。スラリンは……女の子だぞ」

 「……」



 亮は呆気に取られていた。

 そして、少しづつ思い出した。

 最初、オーガさんはスラリンに対して、少し辛辣しんらつな所……というよりも棘のある言い方をしていたけれども……

 あれは、もしかして、ひょっとして……



 嫉妬だったんじゃないかなぁ?



 亮は、そんな事を考えながら手に残った本を眺めた。

 

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