初めての恋
告白の先に見えたあの日の約束99
「で、どうなんだ? どっちがやりたい?」
「えっと、その」
「もちろんドラムっしょ?」
先輩である二人に詰め寄られて返答に悩む。別に楽器をやりにここに来たわけじゃないので、どっちを選ぶこともできない。
「ちょっと待った! 今日の本題はこっちだ!」
僕が返答に悩んでいるとスピーカーからそんな声が聞こえてきて、ステージ上部に取り付けられていたスクリーンが降りてきて、先ほどステージ上でしどろもどろになっていた僕の姿が今度は映像になって映し出された。どうやら、先ほどのパフォーマンスを誰かがカメラで撮影していたようで、どうやったのか分からないがこの短時間で編集して上映するようだ。
「うちの親父だ」
「朋希の?」
「ああ、ほんと撮るの好きなんだよ。昔本職だったみたいでくそ高いカメラとパソコンで、いつもこうやって撮影しては編集して上演してんだ」
初めて見る自分の歌う姿。三台くらいのカメラで撮られていたのだろうか? 曲のテンポに合わせて激しくアングルが切り替わる。演奏が終わってから三十分も経過していないのに、出来上がった動画の、このクオリティーときたら。自分の姿にも関わらず目が離せなくなってしまった。
「どうだね、興味でた?」
「――はい! ぜひ、僕にもこんな素晴らしい動画が撮れるように教えてください」
余韻に浸っていて薄暗いホールにもう一つの影が加わったことに気が付けなかった。音もなく背後に立っていた男性――一眼レフカメラを片手にシケモクを口に咥えた革ジャンを羽織った初老の男性に僕は反射的に頭を下げた。
「喜んで。この間の二人の動画を拝見させてもらった。磨けば必ずダイヤになる。放っておくわけがないさ。今日から師匠と呼んでくれたまえ」
「はい師匠!」
自分自身がプロの手によってあんなにも素晴らしい映像作品になったのだ。簡単に朋希の父親に酔心するのも無理はない。自分も奈緒、春香、朋希をあんなふうにカッコよく撮影してみたい。そう思ってしまったのだ。
「よし、なら決まりだ。朋希、春香ちゃんのこともお手柄だが、雅君もきっと化けるぞ。こうやって若い子を集めてワイワイやることが好きな俺にとって、こんなにも嬉しいことはない」
「雅、俺の親父もこんなんだから緊張することはないぜ? 気になることがあればどんどん質問してたくさん色んなものを撮影しろよ」
「うん、僕もなんだかわくわくしてきた」
「じゃあ、折角だし今から朋希達のバンドのミュージックビデオでも撮るか!」
「おお、おやっさんいいっすね! ぜひやりましょう」
「こうしちゃいられない! 髪型セットするわ」
「雅こっちこい、ライブハウスの楽屋に案内してやるよ!」
「機材準備するからちょっと待ってて」
「春香、奈緒さんと少し待っててくれ」
「は~い」
バンドマンとは全員こうも行動力があるのだろうか。急展開で物事が進んでいく。その流れにうまく乗れない僕を朋希が肩を組んで先導してくれる。ステージ袖に消える間際、明らかに戸惑い周囲の動きについていけず困惑する奈緒と目が合うも、奈緒は奈緒で春香に導かれてホール隅に設置されたソファーまで歩いていく。
――その日、僕はそうやって映像マンとしての第一歩を踏み出したわけだが、それは同時に僕自身を苦しめる第一歩にもなった。
同じ女性を好きになり、同じ時間を過ごすことが多くなったのだ。当然である。友人として朋希がどんどん好きになれば、今まで以上に恋焦がれ、嫉妬し今までに感じたこともない気持ちに戸惑うことになるのである。
「えっと、その」
「もちろんドラムっしょ?」
先輩である二人に詰め寄られて返答に悩む。別に楽器をやりにここに来たわけじゃないので、どっちを選ぶこともできない。
「ちょっと待った! 今日の本題はこっちだ!」
僕が返答に悩んでいるとスピーカーからそんな声が聞こえてきて、ステージ上部に取り付けられていたスクリーンが降りてきて、先ほどステージ上でしどろもどろになっていた僕の姿が今度は映像になって映し出された。どうやら、先ほどのパフォーマンスを誰かがカメラで撮影していたようで、どうやったのか分からないがこの短時間で編集して上映するようだ。
「うちの親父だ」
「朋希の?」
「ああ、ほんと撮るの好きなんだよ。昔本職だったみたいでくそ高いカメラとパソコンで、いつもこうやって撮影しては編集して上演してんだ」
初めて見る自分の歌う姿。三台くらいのカメラで撮られていたのだろうか? 曲のテンポに合わせて激しくアングルが切り替わる。演奏が終わってから三十分も経過していないのに、出来上がった動画の、このクオリティーときたら。自分の姿にも関わらず目が離せなくなってしまった。
「どうだね、興味でた?」
「――はい! ぜひ、僕にもこんな素晴らしい動画が撮れるように教えてください」
余韻に浸っていて薄暗いホールにもう一つの影が加わったことに気が付けなかった。音もなく背後に立っていた男性――一眼レフカメラを片手にシケモクを口に咥えた革ジャンを羽織った初老の男性に僕は反射的に頭を下げた。
「喜んで。この間の二人の動画を拝見させてもらった。磨けば必ずダイヤになる。放っておくわけがないさ。今日から師匠と呼んでくれたまえ」
「はい師匠!」
自分自身がプロの手によってあんなにも素晴らしい映像作品になったのだ。簡単に朋希の父親に酔心するのも無理はない。自分も奈緒、春香、朋希をあんなふうにカッコよく撮影してみたい。そう思ってしまったのだ。
「よし、なら決まりだ。朋希、春香ちゃんのこともお手柄だが、雅君もきっと化けるぞ。こうやって若い子を集めてワイワイやることが好きな俺にとって、こんなにも嬉しいことはない」
「雅、俺の親父もこんなんだから緊張することはないぜ? 気になることがあればどんどん質問してたくさん色んなものを撮影しろよ」
「うん、僕もなんだかわくわくしてきた」
「じゃあ、折角だし今から朋希達のバンドのミュージックビデオでも撮るか!」
「おお、おやっさんいいっすね! ぜひやりましょう」
「こうしちゃいられない! 髪型セットするわ」
「雅こっちこい、ライブハウスの楽屋に案内してやるよ!」
「機材準備するからちょっと待ってて」
「春香、奈緒さんと少し待っててくれ」
「は~い」
バンドマンとは全員こうも行動力があるのだろうか。急展開で物事が進んでいく。その流れにうまく乗れない僕を朋希が肩を組んで先導してくれる。ステージ袖に消える間際、明らかに戸惑い周囲の動きについていけず困惑する奈緒と目が合うも、奈緒は奈緒で春香に導かれてホール隅に設置されたソファーまで歩いていく。
――その日、僕はそうやって映像マンとしての第一歩を踏み出したわけだが、それは同時に僕自身を苦しめる第一歩にもなった。
同じ女性を好きになり、同じ時間を過ごすことが多くなったのだ。当然である。友人として朋希がどんどん好きになれば、今まで以上に恋焦がれ、嫉妬し今までに感じたこともない気持ちに戸惑うことになるのである。
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