初めての恋
告白の先に見えたあの日の約束91
「なになに? なにみてるのみやちゃん?」
「おお、良い感じに撮れてるじゃん。さすが雅」
何がさすがなのかわからないが、梅先生と僕の間に飛び込んできた春香が僕の携帯をのぞき込むと朋希もそれに続いてきてそんなことを言っている。
「なんか撮るの楽しくてさ、ついつい色んな角度から撮りたくなっちゃって」
「へえ、雅ってそういうのに興味あんの?」
「興味ってほどではないけど、もっと撮ってみたいかな」
「ふ~ん」
意味ありげに相槌を打つ朋希。何か気になることを言ったか僕。
「後でこの動画私にも送ってよ! 奈緒に自慢しよ」
春香が喜んでくれている。なら、撮ったかいがあるってもんだ。次はもっといろんな構図で撮りたい。そんで春香にもっと喜んでもらいたい。
「なら、春香もライブに出るか? 雅も興味あるなら親父に頼んでみるぞカメラのこと?」
「え、ライブに出れるの?」
「お、おい、まさか、昨日話したあのことか?」
春香に聞こえない様に朋希にそう耳打ちする。
「ああ、善は急げだ。それに、雅も映像に興味あるなら親父の経営してるライブハウスのカメラマンの手伝いしてくれよ? 人手不足でさ困ってんだわ」
「話が急すぎないか? 撮影って言ってもこの程度だぞ」
「雅、誰だって最初は素人さ。ビビることはないさ、なんてったって俺の親父が師匠だからさ」
「ねえねえ、ライブってホント? 私も出ていいの?」
「――、いいに決まってるだろ? むしろ俺と出てくれよ春香!」
春香に肩をつままれた朋希が振り返る間際に僕へウインクしやがったのを見ると、きっとこれはもう決定事項なんだろう。春香も春香でライブに出る気満々であるから、これはもう覆ることはないだろう。
そう察してテンションが上がる春香と動画の中で歌う春香を見比べ、誰に言うわけでもなく「よし、やってみるか」って僕は呟くのである。夕暮れ時のなんとも言えない哀愁の中で、いよいよ僕の恋も加速していく。遠くの方で鳴る帰宅を促す町内無線が園庭から僕らを洗い流し、僕らは来る日のライブに向け想像を膨らませながら岐路に着くのである。
そんなこんなで職場体験学習を終えた日の夜。訪問回数を数えるのも億劫なくらいの頻度で奈緒が僕の部屋に屋根つたいでやってきた。
「春香から聞いたわよ? 朋希って子と仲良くなったんだって?」
「ああ、もうそれはそれは大の仲良しさ」
「宝物のCDまであげるってことは相当なんだね。春香のことはもういいの?」
舞台のメイクだろうか。アイシャドウがいつもより濃く引かれた双眸を、奈緒は怪訝な色に染める。
「別に諦めたわけじゃないよ。ただ、朋希からはいろいろ春香のことを聞いたし、ハルコ先生のことも教えてくれた。それに、朋希がいなかったら春香は今の春香じゃなかった。だから、朋希の気持ちを無視して告白はできない」
「ハルコ先生のことって? ……なに聞いたの?」
今度は眉に不機嫌さがにじみ出ている。どうも、今日の奈緒は機嫌が悪いらしい。だから、少しだけ言葉を選んで発言したつもりだった。
「離婚してるって知らなかったよ。奈緒も知ってるならこそっと教えてくれればよかったのに。危うく春香に聞くところだったよ」
それにも関わらず、奈緒は黙り込んだ。しかも、肩を震わせている。立ったままうつむくその様はどう見ても泣いているようだった。
「なお? どうした?」
「え、なんでもないなんでもない! そう、そうなんだよ! ごめんね、あんまり家庭の事情とか人に言うもんじゃないと思って言わなかった。そう、離婚してるんだよ春香の両親」
普段よりも濃いメイクのせいだろうか、それとも演劇を体験してきた奈緒だからだろうか。違和感を感じずにはいられなかった。
「そうだ、なんで奈緒は保育園に行ったんだ? 母さんが見かけたって言ってたけど?」
「え、ああ、見られてた? あたし頻繁に遊びに行ってるけど? 梅先生のこと今でも好きだし」
「そっか。先生が僕らのこと今でも覚えているのは奈緒が遊びにいくからか」
「そう、家も近いしね。それに、一時期は保育園の先生にもなりたかったから子供たちと遊ばせもらってた」
機嫌が直ったのか奈緒はベッドに勢いよくダイブすると当たり前の様に演劇の雑誌を読みだす。週刊誌ってことは毎週買っているのか。でも、表紙はやっぱり竜人であった。
「おお、良い感じに撮れてるじゃん。さすが雅」
何がさすがなのかわからないが、梅先生と僕の間に飛び込んできた春香が僕の携帯をのぞき込むと朋希もそれに続いてきてそんなことを言っている。
「なんか撮るの楽しくてさ、ついつい色んな角度から撮りたくなっちゃって」
「へえ、雅ってそういうのに興味あんの?」
「興味ってほどではないけど、もっと撮ってみたいかな」
「ふ~ん」
意味ありげに相槌を打つ朋希。何か気になることを言ったか僕。
「後でこの動画私にも送ってよ! 奈緒に自慢しよ」
春香が喜んでくれている。なら、撮ったかいがあるってもんだ。次はもっといろんな構図で撮りたい。そんで春香にもっと喜んでもらいたい。
「なら、春香もライブに出るか? 雅も興味あるなら親父に頼んでみるぞカメラのこと?」
「え、ライブに出れるの?」
「お、おい、まさか、昨日話したあのことか?」
春香に聞こえない様に朋希にそう耳打ちする。
「ああ、善は急げだ。それに、雅も映像に興味あるなら親父の経営してるライブハウスのカメラマンの手伝いしてくれよ? 人手不足でさ困ってんだわ」
「話が急すぎないか? 撮影って言ってもこの程度だぞ」
「雅、誰だって最初は素人さ。ビビることはないさ、なんてったって俺の親父が師匠だからさ」
「ねえねえ、ライブってホント? 私も出ていいの?」
「――、いいに決まってるだろ? むしろ俺と出てくれよ春香!」
春香に肩をつままれた朋希が振り返る間際に僕へウインクしやがったのを見ると、きっとこれはもう決定事項なんだろう。春香も春香でライブに出る気満々であるから、これはもう覆ることはないだろう。
そう察してテンションが上がる春香と動画の中で歌う春香を見比べ、誰に言うわけでもなく「よし、やってみるか」って僕は呟くのである。夕暮れ時のなんとも言えない哀愁の中で、いよいよ僕の恋も加速していく。遠くの方で鳴る帰宅を促す町内無線が園庭から僕らを洗い流し、僕らは来る日のライブに向け想像を膨らませながら岐路に着くのである。
そんなこんなで職場体験学習を終えた日の夜。訪問回数を数えるのも億劫なくらいの頻度で奈緒が僕の部屋に屋根つたいでやってきた。
「春香から聞いたわよ? 朋希って子と仲良くなったんだって?」
「ああ、もうそれはそれは大の仲良しさ」
「宝物のCDまであげるってことは相当なんだね。春香のことはもういいの?」
舞台のメイクだろうか。アイシャドウがいつもより濃く引かれた双眸を、奈緒は怪訝な色に染める。
「別に諦めたわけじゃないよ。ただ、朋希からはいろいろ春香のことを聞いたし、ハルコ先生のことも教えてくれた。それに、朋希がいなかったら春香は今の春香じゃなかった。だから、朋希の気持ちを無視して告白はできない」
「ハルコ先生のことって? ……なに聞いたの?」
今度は眉に不機嫌さがにじみ出ている。どうも、今日の奈緒は機嫌が悪いらしい。だから、少しだけ言葉を選んで発言したつもりだった。
「離婚してるって知らなかったよ。奈緒も知ってるならこそっと教えてくれればよかったのに。危うく春香に聞くところだったよ」
それにも関わらず、奈緒は黙り込んだ。しかも、肩を震わせている。立ったままうつむくその様はどう見ても泣いているようだった。
「なお? どうした?」
「え、なんでもないなんでもない! そう、そうなんだよ! ごめんね、あんまり家庭の事情とか人に言うもんじゃないと思って言わなかった。そう、離婚してるんだよ春香の両親」
普段よりも濃いメイクのせいだろうか、それとも演劇を体験してきた奈緒だからだろうか。違和感を感じずにはいられなかった。
「そうだ、なんで奈緒は保育園に行ったんだ? 母さんが見かけたって言ってたけど?」
「え、ああ、見られてた? あたし頻繁に遊びに行ってるけど? 梅先生のこと今でも好きだし」
「そっか。先生が僕らのこと今でも覚えているのは奈緒が遊びにいくからか」
「そう、家も近いしね。それに、一時期は保育園の先生にもなりたかったから子供たちと遊ばせもらってた」
機嫌が直ったのか奈緒はベッドに勢いよくダイブすると当たり前の様に演劇の雑誌を読みだす。週刊誌ってことは毎週買っているのか。でも、表紙はやっぱり竜人であった。
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