初めての恋

神寺雅文

告白の先に見えたあの日の約束87

「とまあ、出会いとしてはこんな感じだな」
「そ、そっか。いろいろ聞きたいけどいろいろあり過ぎて質問しようがない」

 落語家が物語を紡ぐかのように思い出話を聞かせてくれた朋希には、本当に感謝している。引っ越した後に春香が泣いていたことを知れたから、春先から見るあの夢の真意が少しわかった気もする。 

 でも、それよりもだ。離婚していたのか春香の両親。そりゃ、職場体験中に会えないのも理解出来る。大人の事情ってやつで誰かしらの力で二人を合わせない様にしているんだろう。

「俺も、そんな気がしてたんだよ。普通なら、どこかで会える様に時間作るはず。いくら離婚しているからって会えないわけ無いだろ。親父さんは今でもきっと愛していると思うし」
「じゃあ、ハルコ先生が春香を避けてるってこと?」
「ん〜、その可能性のが高いと思うけど――」
「「春香の母親がそんな人間だとは思えない」」

 さすが春香の幼馴染である。分かってらっしゃる。お互い言葉がかぶったことに対して、変な友情を感じた事は間違いない。朋希も「お前もそう思うだろ」って続けて笑っている。

「ってことはさ、朋希ですら未だに会えてないんだ」
「写真だって見てないぜ。一種の暗黙の了解ってやつか? 友達だって多分誰もこの話を春香にしたことあるやついないはず」
「そっか。まあ、たしかにさ、運動会とか、授業参観とか、母親いなかったり父親だけとか結構目立って変に気を使ったことあるな僕も」

 父子家庭ってのは人口密度が首都なみにある桜ノ宮市でも珍しい。特に専業主婦が参加しやすい授業参観の日に、スーツを着た男性が一人でもいたら、あれは誰のお父さんだろって詮索したもんだ。きっと春香ん家の家庭事情は歴代のクラスメイトからしたら特殊に見えただろう。

「でも、春香はあれ以来元気を取り戻してすぐにクラスに馴染んだよ。あれだけ気立てが良いんだ。打ち解けるの早かったぜ。俺が守る必要もなかったくらい」

 そう言い朋希は少し寂しそうに笑った。

 いや、絶対にそんな事はないはずだ。春香がどれだけ朋希に助けられたのかなんて、他人の僕ですら分かる。絶対に春香は朋希に感謝しているし、絶対に好意を抱いている。

 そう思えてならなく怖かったけど、あえて朋希にこれだけは質問するしかなかった。

「こ、告白しなかったの?」
「ぶぶ、おま、それを聞くか?」
「だって、どう考えても両思いだろ!」
「あのな、俺からしたら雅と春香の方がお似合いなの!」

 どこがどうなったらそうなる。僕が春香と遊んでいたのはせいぜい保育園の数年と小学一年生の頃くらいだ。それに対して、朋希と春香は約九年は一緒にいたんだ。過去の男よりも現実で一緒にいる男の方が良いだろ。

「俺だってそう思いたい。でもな、時に必要以上に美化されることもあるだろよいろいろ。特に過去の思い出はな。現に、小学生の頃は頻繁に雅の話しを楽しそうにしてた。それを簡単に纏めるとな『みやちゃんってのは春香からしてみたら初めて対等に遊んでくれた男の子。誰よりも自分を大事に扱ってくれた男の子、初めて好きになった男の子』だ。それらがすべて美化されてみろよ、俺なんか相手にならねーよ」
「いや、いくらなんでもそれはないだろ」
「だったら、なんで俺の元から離れたんだよ! 好かれなくても嫌われるようなことは一つもしてない……」

 苦虫を奥歯で噛みしめるような顔をする朋希。そうか、確かに春香のこれまでの言動からして二人はここ最近ろくに会話をしていなかった。なんだったら、朋希が遠い存在になってしまったとでも言いたそうだった。

 でも、朋希のこの言い方だと春香に原因があるように聞こえる。

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