初めての恋

神寺雅文

告白の先に見えたあの日の約束35

「そうか? 僕にしてみれば思い出の詰まった熊さんの方が大事だと思うけど?」
 思い出はプライスレス。逆に春香との問題は謝れば済む。だから、春香との問題のほうが簡単に許せる次元だと思うが?
「それはみやびがあたしがくま吉親分を大事にしていることを知っているから言えるのよ」「今回の喧嘩にはくま吉親分よりも大事なものが詰まっているってことか?」「そう」
 端的に言えばそうなのだとか。依然としてベッドの上でゴロゴロする奈緒であるが、声がいつもより低いと言うことは、これが至極真面目な返答だったようだ。
「もしかしてさ、約束ってやつか?」「あ、はあ? なにそれ? 知らないし」
 とは言うモノの肩がビクッとゴム毬の如く勢いで弾んだが? 知らない人間が驚いたような反応を取るとは思えいないのでベッドの脇に腰を下ろし、壁側を向いている奈緒に質問を投じ続ける。
「春香から聞いた、大事な約束をしたって。今回はそれを僕に思い出させたいから、奈緒とケンカまでして僕を第一に連れて行きたいんだって。奈緒、君からも教えてくれないか? その約束のこと――」「ダメ! 絶対にダメなんだからそんなの!」
 僕の言葉を遮り寝ころんだまま勢いよく振り返った奈緒。お陰で顔と顔が急接近。あと僅かで唇と唇が触れ合うところであった。
「す、すまん! 触れてないからな!」
 慌てて上体を起こして弁解を図る。奈緒も奈緒で驚いたのか双眸をパチクリさせてフリーズしている。
「奈緒どうした?」
 一向にアクションを起こさないのもそれはそれで怖いので恐る恐る奈緒に言葉を掛けるものの、当の奈緒はまだ惚けている様なそんな表情で微動だにしない。
 僕の散らかった顔を至近距離で見てしまいショックで動けないのだろうか? それはそれでショックではある。なんだか泣けてくる。奈緒とならキスしても……、なんて思っていた手前奈緒のその反応がとても悲しかった。
「……、思い出せない? あたしはこんなにもドキドキしているのに」「いや、さっぱり意味が分からないけど?」
 やっと言葉を発したと思ったら見当もつかないことを言いやがった。布団で口元を隠し顔だけこちらに向け、僕を見上げるように上目使いで見つめてくる双眸はとても乙女的な輝きを宿している。
 つまり、可愛いと言う事だ。幼馴染、しかも奈緒相手に僕はとても男子高校生らしい思想を抱いてしまう。そう、抱きしめたいと。なんだか、守ってあげたくなるそんな瞳をしており、他の男に奪われたくない。そう、とても肉食な男性思考を抱かずにはいられないのだ。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品