初めての恋

神寺雅文

告白の先に見えたあの日の約束24

「なんてね。お~い、春香? ご飯の途中だよ?」「……、ん、あれ、私寝てた?」
 名残惜しいが春香の肩を揺すって起こす。寝ぼけ眼で僕を見つめる春香に、手元に置いてあったタンブラーを手渡す。
「これ飲んで眠気飛ばしなよ。寝るなら食べてからの方がいいよ」「ありがとう。最近、寝るの遅かったからかな~、この天気もあるし」「春香が夜更かし? 面白い本でも見つけたの?」
 小さくあくびをしている春香は確かにいつもより眠そうだ。そう言われれば、午前の授業の時も微睡んでいたような気がする。
「うんん、体験学習のために手遊びとピアノの練習してたんだ」「手遊び? ああ、あれか」
 残っていた弁当に箸をつけながら身振り手振りをする春香を見て、水族館での一幕を思い出す。
「やっぱりやるからには園児の皆に楽しんでもらいたいから」「本当に憧れているんだね保育士に」「うん、私の大切な人がやっていた職業だし、何よりあの頃の思い出が良いことばかりで私も子供たちの生活に笑顔を与えられるようになりたい」
 さっきまで眠そうなトロンとした瞳をしていたっていうのに、保育士の話しになると目の色を変えて溌溂と熱い想いを語る春香。奈緒とケンカしてまでやりたいことだ。僕なんかが意見できることはないんだろうな。
「来週か、僕も何かやりたいな~。あ、そうだ、一緒に練習してもいい手遊びとピアノの?」「もちろんだよ! みやちゃんがやる気あるなら今日から私のお家でやろう!」「いいの? 気合い入れてやらせていただきます!」
 春香の家で二人だけのレッスン――、あれ、これってもしかしてお家デート的なヤツですか? 違うとしてもとても重要なイベントだよな? 良いのかこんな簡単に春香の家に遊びに行っても?
「みやちゃんなら大歓迎だよ! 来週まで毎日じっくりみっちり、たっぷり時間とって練習しようね」
 思いがけない展開。二人で昼食を採るだけじゃ飽き足らず、今日から放課後も春香と二人っきりでいられる。まさに幼馴染冥利に尽きる。ここは遠慮しないで春香のお言葉に甘えることにしようではないか。
 しかし、雲一つない晴天の下、浮かれる僕の期待をしり目に、春香の熱の入り様は常軌を逸脱していた。

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