初めての恋
解き明かされる過去29
「おらおら、どうしたどうした? こんなんじゃリハビリにもなりゃしないぜ! お前サッカー部の為に体張る気ホントにあんの? 女の前だからって調子乗っただけだろ!」
感嘆符と共に打ち込まれるのは暴力的な言葉と強烈な低弾道弾である。痣が残ってもバレ難くなおかつ痛みを伴う場所に的確に打ちこんできやがる。確かに、技術は凄いのかも知れない。
「お前ができないんじゃ、あの気の強そうな奈緒って女を的にするのもいいかもな! お前なんかよりよっぽどタフそうだし。何だったら気弱そうな春香――」「黙れ! 僕が相手してやるって言ってんだろ! ササッと打って来いよ、拓哉が居なくちゃ何もできないもう一人のフォワード!」
売り言葉に買い言葉とはこのことを言う。大切な子達の名前を出されては黙ってはいられない。歯を食いしばり次弾に備えて構えを取る。
「どこまでその威勢が持つか見物だな!」「ぐっ、まだまだ!」
真っ向からのミドルシュート。距離がある分少しはマシだが、慣れない人間には臓器が潰れてしまいそうな衝撃が腹部を襲う。持つ分には軽いのに、脚力が加わるとこんなにも重たいのかこのモノクロのボール。気を抜くと意識が飛びそうだ。
「ふが、くそ、まだ構えてないだろ」「お遊びに付き合ってる暇はないんだよ。ササッと構えろ」
連続で打ち込まれる弾丸の数々。こちとら一球だけでも手一杯だと言うのに、容赦なく寺嶋は次弾を足早に填装しては、もたもたする的めがけて容赦ない一撃を放つのだ。
ボディーブローが一番効くとどこかのボクサーが言っていたが、確かに吐きそうだ。今すぐにでも横になりたいけど、次から次へと球は飛んできて寝ることも出来ない。
「弱音吐くなら元からここに来なければよかったんだよ! 拓哉なんかほっとけばいいんだ! 俺たちを裏切った拓哉なんかに幸せは訪れない!」
カゴ一杯に入っていたボールが全て無くなるころには、さすがの寺嶋も汗をかいていた。ケガをしているのは本当らしく、左足を引きずるようにベンチまで歩き用意されていたスポーツドリンクに口を付け自分で左膝にアイシングを始めた。
「五分時間をやる。それまでに全部集めろ」
要は休憩するってことだ。
こりゃ、明日は筋肉痛って言うよりは内出血で動けないだろな。試合までもう少しだってのに、体がもつか分かったものじゃない。けども、結局奈緒と春香まで巻き込んでしまった手前、後には引けない。あいつなら奈緒を的にすることもためらわないだろう。
寺嶋とは違う意味で足を引きずりグランド内に点在するボールを拾い集めること十回。ようやく僕は解放された。と言うのも、他の部員たちが外での練習を終えて室内練習場に戻ってきたからである。
「お~寺嶋、リハビリはどうだ?」「なに、そいつで遊んでたの?」「えぐいね~キーパーなんて絶対素人じゃ無理ってしってるくせに~」
にやけ面が本当に似合う三バカがほくそ笑んでいる。
やっと四人が揃った。因縁の相手が疲弊しきって地面に座り込む僕を囲んでいる。悪いことをした訳でもないのに、どうしてこんなにも惨めな思いがこみ上げてくんだ。心の無しか周囲のその他部員も僕を中傷しているようにも思えてくる。
「ほら、いつものお願いするわ、クリーニング屋さん」
ガサガサと音がするのと同時に、汗臭いユニフォームに視界を塞がれる。三バカのどれかが洗濯籠を僕の頭上でひっくり返したに違いない。強烈な臭いで頭がクラクラする。
「ほら、さっさといけ、邪魔なんだよ」「三人ともこんなことやらせてたのかよ。ウケるんだけど、明日はもっとしごいてやろぜ」
お姉さま方に貶されるシンデラレの気持ちとはこんなものだろうか。とても血の通った人間がすることではない。怒りで手が震えてしまう。拓哉のことをこんな奴らが苦しめていると思うと、怒りで我を忘れそうになる。
「よ~し、全員ならべ! ほら、寺嶋達もこっちへ早くこい! ミーティングをするぞ」
天の助けか。何も事情を知らない田中監督の号令と共に部員たちが軍隊ありの如く勢いで一か所に集まる。その際、寺嶋が「明日も楽しみだな」って呟いたのを聞き逃さなかった。
「雅君、邪魔だから早くそれを片してくれ!」「あ、はい!」
勿論、誰かに告げ口する気なんてない。ここで僕が田中監督にすべてを密告したらきっとすべてが水の泡と帰す。だから、僕はおとなしく散らかったユニホームを拾い集めて、不自然な姿勢で室内練習場を後にしたのであった。
感嘆符と共に打ち込まれるのは暴力的な言葉と強烈な低弾道弾である。痣が残ってもバレ難くなおかつ痛みを伴う場所に的確に打ちこんできやがる。確かに、技術は凄いのかも知れない。
「お前ができないんじゃ、あの気の強そうな奈緒って女を的にするのもいいかもな! お前なんかよりよっぽどタフそうだし。何だったら気弱そうな春香――」「黙れ! 僕が相手してやるって言ってんだろ! ササッと打って来いよ、拓哉が居なくちゃ何もできないもう一人のフォワード!」
売り言葉に買い言葉とはこのことを言う。大切な子達の名前を出されては黙ってはいられない。歯を食いしばり次弾に備えて構えを取る。
「どこまでその威勢が持つか見物だな!」「ぐっ、まだまだ!」
真っ向からのミドルシュート。距離がある分少しはマシだが、慣れない人間には臓器が潰れてしまいそうな衝撃が腹部を襲う。持つ分には軽いのに、脚力が加わるとこんなにも重たいのかこのモノクロのボール。気を抜くと意識が飛びそうだ。
「ふが、くそ、まだ構えてないだろ」「お遊びに付き合ってる暇はないんだよ。ササッと構えろ」
連続で打ち込まれる弾丸の数々。こちとら一球だけでも手一杯だと言うのに、容赦なく寺嶋は次弾を足早に填装しては、もたもたする的めがけて容赦ない一撃を放つのだ。
ボディーブローが一番効くとどこかのボクサーが言っていたが、確かに吐きそうだ。今すぐにでも横になりたいけど、次から次へと球は飛んできて寝ることも出来ない。
「弱音吐くなら元からここに来なければよかったんだよ! 拓哉なんかほっとけばいいんだ! 俺たちを裏切った拓哉なんかに幸せは訪れない!」
カゴ一杯に入っていたボールが全て無くなるころには、さすがの寺嶋も汗をかいていた。ケガをしているのは本当らしく、左足を引きずるようにベンチまで歩き用意されていたスポーツドリンクに口を付け自分で左膝にアイシングを始めた。
「五分時間をやる。それまでに全部集めろ」
要は休憩するってことだ。
こりゃ、明日は筋肉痛って言うよりは内出血で動けないだろな。試合までもう少しだってのに、体がもつか分かったものじゃない。けども、結局奈緒と春香まで巻き込んでしまった手前、後には引けない。あいつなら奈緒を的にすることもためらわないだろう。
寺嶋とは違う意味で足を引きずりグランド内に点在するボールを拾い集めること十回。ようやく僕は解放された。と言うのも、他の部員たちが外での練習を終えて室内練習場に戻ってきたからである。
「お~寺嶋、リハビリはどうだ?」「なに、そいつで遊んでたの?」「えぐいね~キーパーなんて絶対素人じゃ無理ってしってるくせに~」
にやけ面が本当に似合う三バカがほくそ笑んでいる。
やっと四人が揃った。因縁の相手が疲弊しきって地面に座り込む僕を囲んでいる。悪いことをした訳でもないのに、どうしてこんなにも惨めな思いがこみ上げてくんだ。心の無しか周囲のその他部員も僕を中傷しているようにも思えてくる。
「ほら、いつものお願いするわ、クリーニング屋さん」
ガサガサと音がするのと同時に、汗臭いユニフォームに視界を塞がれる。三バカのどれかが洗濯籠を僕の頭上でひっくり返したに違いない。強烈な臭いで頭がクラクラする。
「ほら、さっさといけ、邪魔なんだよ」「三人ともこんなことやらせてたのかよ。ウケるんだけど、明日はもっとしごいてやろぜ」
お姉さま方に貶されるシンデラレの気持ちとはこんなものだろうか。とても血の通った人間がすることではない。怒りで手が震えてしまう。拓哉のことをこんな奴らが苦しめていると思うと、怒りで我を忘れそうになる。
「よ~し、全員ならべ! ほら、寺嶋達もこっちへ早くこい! ミーティングをするぞ」
天の助けか。何も事情を知らない田中監督の号令と共に部員たちが軍隊ありの如く勢いで一か所に集まる。その際、寺嶋が「明日も楽しみだな」って呟いたのを聞き逃さなかった。
「雅君、邪魔だから早くそれを片してくれ!」「あ、はい!」
勿論、誰かに告げ口する気なんてない。ここで僕が田中監督にすべてを密告したらきっとすべてが水の泡と帰す。だから、僕はおとなしく散らかったユニホームを拾い集めて、不自然な姿勢で室内練習場を後にしたのであった。
コメント