初めての恋

神寺雅文

解き明かされる過去10

 去年の秋と言ったら全国高校サッカー選手権の予選真っ只中である。
 すでに一軍入りを果たしていた二人は、切磋琢磨して互いの技術を磨いていた。地元が同じで幼馴染でもある上に二人のポジションはサッカーの花形――フォワードである。友であり、ライバルである二人の競り合いは一種の見物であった。
 でも、決勝進出を目前に控えた紅白戦。白熱するあまりに寺嶋のスライディングが相手方のフォワードである拓哉の右ひざにもろに入ってしまったのだ。もちろん、事故である。
 拓哉が膝を抱え蹲る姿に号泣を通り越し我を忘れパニックに陥りそれでも駆け寄り医務室までに運んだのは、まぎれもなくケガを負わせた張本人の寺嶋だった。
「もちろん、たーくんは笑顔で寺嶋君を許してリハビリに入りました。病院の先生も経過は良好だって言ってたのを本人から聞きました私たちも」
 だが、エースを欠いて浮足立つチームは準決勝に駒を進めたもののあっさり敗退してしまった。歴代で最低の成績だと知った時の部員たちの顔は二度と思い出したくないモノだと、俯く優香さんは言う。
「それから少ししてからです。たーくんが部活を辞めました。しかも四月から普通科に転籍だって監督が言ったときは、みんな言葉もありませんでした」「寺嶋も、優香さんも何も聞いてないの?」「はい」「監督は?」「……、個人情報だからって」
 個人情報だからってチームメイトの退部理由くらい聞いてもいいだろ。僕が憤りを感じたのが分かったのか、優香さんが言葉を続けた。
「でも、たーくん自身がみんなに言えばこんなのことにはならなかったはずです。俺たちは仲間なんだから、隠し事なしだぜ? ってスランプに陥るチームメイトに言ってたのはたーくんなのに」「そうだったんだ。じゃあ、尚更、ここは僕に任せてくれない?」「何をするんですか?」
 室内練習場から田中監督の怒号とレギュラー陣の雄たけびが聞こえている。
「拓哉に少なからず非がある以上、僕が直接本人に問いただす。君らはいま大事な時期なんでしょ? ここは、臨時マネージャーに任せてよ」「いいんですか? きっと、損をするのは雅君ですよ?」「あ、やっと名前呼んでくれた」
 僕のその言葉と同時に優香さんの頬が赤くなる。
「た、たーくんの友達なら私の友達ですから……」
 新しい情報を入手ししかも協力者まで得られた。少しだけ距離が縮まった僕らはまずは目先の問題――山積みの洗濯物を協力して片付けた。
 その帰り、本来ならば明るいうちに帰路に就くことを義務付けれている女子を一人で帰すのも気が引けるので、自宅まで送り届けると拓哉の家の情報もゲットした。
「そこなんですけどね」
 月明りに照らされる山を見つめると、それは山ではなく電気が点いていないバカデカい家であった。優香さんが指す方角を目で追い、その視界に収まる範囲が全て真田家の敷地だと言うのだから、僕は言葉もなくし立ち尽くしてしまった。

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