初めての恋

神寺雅文

交錯する恋心10

「拓哉君、もしかしてもうプランあるんでしょ?」「オフコース、せっかくだからさ? スカイタワーとかどう?」「いいね! あたし空街とか行ってみたかったんだ」「でしょ~、その辺調査済みだから~」「さすが拓哉く~ん」
 こんなにも楽しそうに会話をするってのに、拓哉はフられること前提で明日告白するつもりなのだ。奈緒も奈緒で、決してそんな素振りは見せていないと思うし、むしろ拓哉には特別親しみを込めて接している様に見えるんだけどな。他の級友がどうとこではなくて、拓哉にもしっかり意識を向けていると僕は踏んでいる。
「雅君は行きたいところない? なんだか、二人のお邪魔にならないか心配になっちゃうな~」「邪魔にはならないと思うけど、どうして?」「え、だって拓哉君奈緒のこと好きなんでしょ?」「どうしてそれを?」「見れば分かるよそんなの。すごく奈緒のこと大切にしてくれてるもの、雅君の次にね」
 僕の次に? いやいや、拓哉の方が大切にしていると思うんだけども。
「でも、私としては……」
 急に微笑まれる。春香が僕の目をジッと見て今までの十倍優しい微笑みをくれたんだ。
「何か顔についてる?」「ううん、何も。仕方ないか、恋って難しいもんね」
 とても哲学的な一言であった。春香は明日の計画を立てる二人を見て、そう呟き黙り込んでしまった。僕もその視線を追って普遍的な男子高校生と女子高生が見せる仲睦まじい光景を見守った。
 どうしても、拓哉が考える結末には似つかない光景だと思う。本当に奈緒は拓哉をフるのだろうか。あそこまで奈緒が打ち解けている男子を見たことがない気がする。
 まあ、大抵奈緒に近づいてくる男は奈緒に対して恋心を持っており、ああしているのがもどかしくなり告白して散っていくので男友達として奈緒の傍に残る男は僕くらいなのかもしれない。
 それはそれで、すげー悲しいことだと気が付いた。拓哉はそんな甲斐性なしじゃないと信じたい。奈緒は例え彼女じゃなくてもとてもいい子なんだ。傍にいるだけでも、とても安心する存在なんだよ。それに拓哉も気が付いてほしかった。
 あと、ここからは僕の持論になる。
 奈緒にはとても素敵な部分がたくさんある。確かに、恋人にしたいのも分かる。分かるけども、奈緒のことをもっと知ってからでもいいと思うんだ告白するのは。むしろ、付き合うことが全てじゃないと思うんだ。ゴールは全部が男女関係だとは決して思えない。
 もしかしたら、この考え事態が年齢=彼女いない歴になる男の思考回路なのかもしれない。でも、付き合うことがすべてだとはどうしても思えないのだ。確かにさ、彼氏、彼女じゃないと見えない部分はあるかも知れないけども、そこが全てじゃないと信じたい僕は。だって、じゃないと男女の友情が成立しなくなってしまう。じゃあ、一体全体、僕と奈緒の関係はなんなのさ。説明がつかなくなってしまうじゃないか。
「恋ってなんだろうね。人を好きになったら告白しないとだめなのかな?」「……、私は、してほしいかな」
 僕の突拍子もない質問に春香は小さな声で答えた。
「だって、大好きって気持ちは伝えないと相手に伝わらないもの。もちろん、今までの関係が壊れるのは怖いけど、……言わないままでも壊れる関係だってあるもん。だから、私は言いたいし言われたいな~」
 遠い目をする春香。僕を見つめるその瞳は、本当に僕を見ているのだろうか。僕には春香の言ったことの意味が全部分かったわけではないけど、春香は告白されることを望むタイプであり、自分の気持ちを言いたい女の子だってのは理解できた。
 それだけでも聞けて良かった。
「おい、雅! 服とかあるのか? 放課後買いに行こうぜ!」「え、ないなそういえば」「バカ野郎! だったら俺がしっかりコーディネートしてやるぞ」「いいね~私たちも放課後買いに行こうよ」
 拓哉と奈緒がいれば話はとんとん拍子で進む。本当に行動力のある二人で、お似合いのコンビだと思う。
「んじゃ、前哨戦と行きますか?」「いいね~賛成賛成!」「「二人は」」「もちろん、私も賛成だよ」「着る服がないんじゃ明日どこにも行けないからな、三人がいいなら僕も行くよ」
 もしかしたら、明日でこの関係が終わるかもしれない。それを知っているのは僕と拓哉だけであり、一番心に傷を負うはずの拓哉が率先して計画を管理しているんだ。信じられないことである。もしかしたら、さっきのは冗談で本当は勝算があるのではないか? 僕は次第にそう思う様になり、もしかしたら昨晩いい感じになったんじゃないかとも思っていた。
「さすがだね~拓哉君のその行動力と計画性。きっと良いパパになるよ」「そんなことないっしょ~。それなら奈緒ちゃんだっていいママになるよ絶対!」
 そんなことを僕が考えているとも知らず、拓哉と奈緒は相変わらずな感じで買い物する場所を決めにはいっている。そんな二人を前にしては、どうしても受け身になってしまう僕と春香は成り行きに身をゆだね意見を聞かれたら答えるスタンスを取るようになっていた。

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