【WHO】ワールド・ハイド・オンライン

霧ヶ峰

第11話


「あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"〜………帰ってきたー!!!」
「ゔゔぅ"〜………長かった。ついについに…!」

 現実時間で5日、ゲーム内時間ではなんと15日ぶりの復帰となるミレニアムこと岳斗と、ロジディスこと雫。
 2週間も時間が経ったWHOの世界は、様々な変化が見られた。

「うわ、こんなにPC店が出るようになったのか」
「ミレ!この人たちNPCだよ!?こんなことが出来るようになったんだ………」
「あっ!ねぇロジ。今掲示板見てたんだけど、この人たちをNPCって呼んだらダメだって書いてあったよ」
「そうなの?じゃあなんてよ「アクターだよ。お嬢」あ!エヴァディン!それにクリミナルとエスピオナ、パトリットも!」
 知らない事が多くて興奮しているロジディスに、少し笑いを含んだ声が掛けられる。

「早かったね。待ってたの?」とハイタッチをするミレニアムに「いや、ちょうどポーション切れで帰ってきてん」とパトリットか笑う。
 その横で「あ"ぁ"〜!オジョニウムを補給だ〜」とロジディスにエスピオナがしがみ付いており、それをクリミナルが引き剥がそうと苦戦していた。



 その後、情報交換の為に前に行った喫茶店へと足を運ぶ。喫茶店に着く頃にはオジョニウムとやらの補給が終わったのかエスピオナがロジディスから離れ、何事もなかったかのように席に座った。
 心なしかその顔がテカテカとしているように感じるミレニアムであったが、気にしないことにしたのだった。

「さて…と。僕たちが居ない間にイベントとか色々あったみたいだけど、掲示板で書いてあったくらいのことしか知らないし、皆んなは参加したんでしょ?」
「あぁ。イベントって言っても今回はお試しみたいな感じだったな。街の外にレアモンスターがポップして、それを討伐する事でポイントが貰える。ポイントはモンスターによってバラバラだからランダム要素が強く感じたがな」
「まぁ横取りやら狩場の占領やら、草原は大変やったみたいやけど。森ん中はだーれも居らんで楽やったわ」
 やれやれと言った風に肩を竦めるパトリットにうんうんと頷く他3名。

「いいなぁ………レベルも上がってるんでしょ?」
「入賞もできたし儲けもんやったで〜。それにお嬢もレアモンスの素材とか興味あるやろ?」
「入賞特典とかあったの?」
「そこそこのお金と第2の街レベルの武具だな。そんなに強くはないが第3の街まではサブで使えるくらいのやつだ」
「ふーん………メインの報酬はレア素材と経験値か。そんなに惜しくないのが救いかな。あ、それから気になってたんだけど、なんでこんなにプレイヤーが減ってるの?まさか第2の街が見つかった?」
 喫茶店の窓から見える始まりの街。その中央広場には、5日前に見たのプレイヤーの数の半分程度の人しかいなかった。

「惜しいかな。どうやらこの街を中心に東西南北にボスが配置されたらしく、それを倒したら次の街に行けるんじゃないかって戦闘職の奴らが躍起になってんだ」
「そのせいでポーションの値上がりとか、転売屋が増えてね。賞金がどんどん減ってくのよね〜。ねぇお嬢、身内価格で武器作ってくれない?」
「あ、私からもお願いします」
「今度あっちで何か奢ってくれるならいいよ。条件はミレの手料理より美味しいことね」
 エスピオナとクリミナルはロジディスの言葉の前半部分で顔を明るくし、後半部分で「無理だ〜!」と天を仰ぐ。
 久々に集まった6人はそのように和気藹々と会話をして時間を過ごすのだった。

「さてと……これからの予定なんだけど」
「どうした。急に改まって?」
「いや、この6人の中で僕が1番レベルが低いじゃん?このままレベル上げるんだったら少しソロでやりたくてさ」
「珍しいね。俺はミレは集団戦で強さを発揮すると思ってたんだけど」
「間違いではないよ。でも、コマンダーの特殊効果で[パーティー戦での所得経験値の低下]っていうのがあるんだ。しかも、暗殺者の特殊効果に[単独戦闘での所得経験値の上昇]があって………ね?」
「まじか!でも前パーティー組んだ時そんなにレベルの上がり方変わんなかったよな?」
「うん。この効果の発動条件が[自分よりレベルの高い者がパーティーの半数を占めている時]だからね。今みたいに画面にデバフマーク出てなかったし前は気づいてなかったんだ。あと、あの剣の性能も試してみたいしね。今回はソロで行かせてもらっていいかな?」
 申し訳なさそうに頭を下げているミレニアムにロジディスを除いた5人は、フッと微笑むと「それじゃ仕方ない」と次々に了承してくれた。

「それにしてもコマンダーにそんな特殊効果つけるとはね。ここの運営はコマンダーに具体的な元ネタがあるのかね?」
「さぁね。でも私が思い当たるのはF○teの買物……いや、征服王の人かな。人を率いるならば常に頂点であれ!みたいな感じなのかな?」
「あー…イスカンダル様か。でも結構合ってるかもね。じゃあ他にも色々とオマージュしてんのかな」
「ま、それはそれとして……お嬢。今回は俺たちと来てもらっていいか?」
 パクパクとかなりの大きさのパフェをその小さな口に運び続けていたロジディスがエヴァディンの言葉に顔を上げる。

「んぐ……良いけど、どうして?」
「お嬢なら出先でもそれなりのポーションが作れるだろ?森で狩りと採取をして、ボスエリア前で調合しながら売れば確実に儲かるし、物々交換でお嬢の知らない素材が出てくるかもしれない。な?良い事づくしだろ?」
「もう一声欲しいところだけど今回は特別だよー?」
「うっしゃ!これでしばらく金には困らなくて済むぞ」
 ガッツポーズをして本心を溢したエヴァディン。
 その額にスプーンが突き刺さったのは言うまでもないだろう。

「ま、まぁまぁ。6時間後にここ集合って事でいい?」
「俺はそれでいいぜ。みんなもいいよな?」
「そ、それじゃ。お先に」
 スプーンが突き刺さったままの状態で普通にしているエヴァディンに若干引きつつも、先に席を立つミレニアム。
 店を出て北門へ向かって行くその背中をロジディスがじっと見つめていたのだが、ミレニアムは振り返る事なく人の波に消えて行くのだった。

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