【WHO】ワールド・ハイド・オンライン

霧ヶ峰

第8話


 エヴァディン・パトリットと別れてから、3人は時々遭遇するモンスターを倒しながら森の中を散策していた。






「それにしても、ミレはよく気付いたね。私は全然気付かなかったよ」
 エスピオナがミレニアムのはたき落としたフォレストオウルに向かって魔法を放ちながら言う。途中、後ろから飛び込んできたホーンラビットを杖で往なし、クリミナルの方へパスする。
  
「私もです。ミレさんリアルヴァーチャル共に人をやめてる気がしますよ」
 エスピオナとミレニアムに[歌唱]を使ってバフを施したクリミナルは、そう言いながらメイスで近づいてきたホーンラビットを打ち上げ、落ちて来たところをミレニアムに目がけて打つ。

「人をやめてるってのは言い得て妙だけど、2人も僕のこと言えた義理じゃないでしょ」
 ミレニアムはミレニアムで十文字槍を巧みに操い、HPの削れたフォレストオウルを一突きしてとどめを刺した後、飛んで来たホーンラビットに合わせて槍を引き寄せることで、こちらにもとどめを刺す。

「おー!いいもの落ちたよ」
 ドロップを確認していたミレニアムが声を上げて、ドロップアイテムの写っている画面を公開表示にする。

「[兎の尻尾]ですか?装備品じゃないですけどどんな効果が?」
「これを使ってアクセサリーを作ると、[レアドロップ確率上昇:中]が付くんだ。モンスターによって上昇度が変わるけど、かなり有のーーー」
 ミレニアムがテンション高めに説明している最中、急に声が響いてミレニアムの話が中断される。

「そこの3人!貴様らは完全に包囲されている!PKされたく無ければ、所持金と持っているアイテム全てをその場にドロップさせてすぐに立ち去れ!」
 と言うアニメや漫画に出てくるいかにもなセリフによって。

「ねぇエスピオナ。このゲームってさ、KPしても対してペナルティーなかったよね?」
「うーん・・・識別アイコンが一定時間赤くなるだけだと思うけど」
「そっかぁ・・・じゃあ、僕は一旦パーティーから抜けるからさ、2人は攻撃されたら反撃してね。その場合やったらアイコンが変わらなかったはずだから」
「いいんですか?こっちから攻撃したらミレニアムさんがレッドプレイヤーになっちゃいますよ?」
「いいよいいよ。なった後でGMコールするから。じゃ、行ってくる!」

 何人いるかは分からないが、絶対に包囲はされていないので、ミレニアムは声がした方向に向かって[隠密lv3]を使いながら駆ける。
 ジョブの[暗殺者]による補正とスキルレベルが上がって[敏捷度上昇lv3]になったことのダブル効果で、そこそこの速度が出せるようになり、さらに[暗殺者]の効果で[隠密lv3]が強化されている。




[コマンダー]の効果で上がっている器用度で木の上に登り、ヒール気取りの大バカ者を見据える。

『人数はたった4人?そんな少数で完全に包囲したとか言ってるのか?嘘だろ?いや、嘘なんだろうけど』
 2パーティーくらい居るのかと思っていたミレニアムは、相手のザルさ加減に驚いて目を見張る。
 さらにその4人を観察すると、前衛が2人後衛2人のヒーラー無しだと言うことがわかった。
 そのことに驚きを通り越して、なんだか哀れに思えてくるミレニアムだったが、一度敵対意思を示したのだ。この大バカ者たちには、大人しく経験値になってもらうことにした。


『[投擲]っと!』
 [暗殺者]や[盗賊]などのジョブでしか使えない武技アーツの[投擲]を使って、メインウェポンの十文字槍を前衛の盾を持っている方に投げる。
 投げられた槍はミレニアムの狙い通りに頭へと突き刺さり、前衛の1人を光のエフェクトへ変化させる。

 その瞬間、ミレニアムのアイコンが赤くなるかと思ったが、緑色から変化しなかった。
『どう言うことだ?』と首を傾げていると残りの3人、特に後衛の1人が叫び声をあげて逃げようと走り出す。
 つい「逃がさないよ」と声が出てしまったが、それが聞こえたのか残された2人も慌てて逃げて行った者の後を追いかけて行く。


 ミレニアムは木から飛び降りて槍を回収し、3人の後を追う。
 一度戦闘状態になっても[隠密lv3]の効果は継続されているため、あまり音を立てずに追跡することができた。
 しばらく追っていると、前方からきゃっ!っと言う声とドサっという転んだような音が聞こえたので一気に加速して距離を詰める。

 ミレニアムの予想通り3人の内の1人が転んでいたようで、ちょうど後の2人に助け起こされているところに鉢合わせた。
 顔はさっき覚えていたので、ミレニアムは迷いなく残っている前衛に槍を突き出す。


 今度は狙いを変えて首へ突き出し、十文字槍さクリティカルヒット時の血飛沫のような赤いエフェクトを散らす。
 首当てなんて物は付けていないため、刃はあっさりと相手の首を通過する。だが、腐っても前衛職と言うべきなのか、HPゲージは1/4ほど残っていた。

 相手は自分が生きていることに驚きつつ、ニヤッと笑って剣を振るーーー






「残念。まだまだ甘いね」

 ーーーおうとし、光のエフェクトへとその姿を変えた。相手は、ミレニアムが槍を引いた時に当たった十文字の部分で起こった二度目のクリティカルヒットでHPを削り取られたのだ。

 ミレニアムは、一瞬にして前衛が2人とも討伐キルされたことで固まっている後衛の2人に「PKするなら、される覚悟もしておけ」と言って、一太刀でその首を刎ねる。








 ドロップアイテムと経験値を確認し終わったミレニアムは、メニューを開いてGMコールする。

 初日だからなのか、GMコールをしてから1分も経たずにGM専用のローブに身を包んだキャラクターが目の前に現れた。

『この度は【ワールド・ハイド・オンライン】をご購入いただき、ありがとうございます。GMコールを受けましたが、どの様なご用件でしょうか』
 恭しくお辞儀をしながらそう言うGMにミレニアムは、PKをしたにもかかわらず自分のカーソルの色が変わっていない事を告げた。

『少々お待ちください。今ミレニアム様のログを調べさせていただきます』
 GMはそう言うと、ミレニアムには見えないウィンドーを操作し始める。

 しばらくして操作を終えたGMは顔を上げる。

『お待たせいたしました。ミレニアム様のログを確認した結果、ミレニアムが先ほど倒されたプレイヤー達はレッドプレイヤーであったようです。前作までとは異なり、今作ではプレイヤーキルが容認されている一方で、レッドプレイヤーは討伐された場合、始まりの街やそれ以外の街街に存在する[留置所]に一定時間強制収容されるなどのペナルティーが発生します。
 討伐した側にはペナルティーがなく、少々多めの経験値や換金できるドッグタグなどがドロップするなど、メリットが多く存在します。
 本来ならこの仕様は、今告知されているイベントで発表する予定だったのですが・・・これに関してのGMコールが多かったもので、もう少ししたら【WHO】ホームページに記載されると思いますので安心してください』
「分かりました。問題がないようで安心しました」
『いえ、これが我々の仕事ですので。それでは、また何かございましたらお呼びください。これからも【ワールド・ハイド・オンライン】を引き継ぎお楽しみください』
 GMは再びお辞儀をして消えていった。さっきもGMコールが多かったと言っていたのできっとまた別のGMコールを対応しに行ったのだろう。


「そっか、レッドは狩ってもいいんだ・・・」
 ミレニアムはそうボソッと呟くと、エスピオナとクリミナルと別れた場所に向かって歩き出すのだった。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品