【WHO】ワールド・ハイド・オンライン

霧ヶ峰

第6話


 ドリンクを飲み終わったミレニアムは、カフェから出て噴水広場の片隅にある日陰でひっそりと佇みながら、ガチャ武器である【胎動する双翼の暗殺刀】をインベントリから引っ張り出していた。




【胎動する双翼の暗殺刀】
ATK+200 DEX+150 AGI+150 

[特殊効果]
◇プレイヤー・モンスターを倒すたびに成長していく【lv1 成長度0/100】
◇この武器を使って敵を倒した場合、自分の半径3メートル以内にいる敵キャラクターに[恐怖lv1]のバッドステータスを付与する(成長度によってバッドステータスの強さが変化する)
◇クリティカル時部位によってダメージ増加

ガチャ武具アイテムのため譲渡・破壊不可。
装備条件:ジョブスキル【暗殺者】カテゴリ




 
「おお〜、これはまた………ベータ時代の最高峰のと同じくらいの性能かな?しかも、成長すると。うーん、始まりの街周辺で使うには性能が高すぎるかな?それにしても………やっぱりカテゴリ付きか。しかも強制SANチェックとはね。使い勝手良さそう」

 ベータ時代の最高峰装備は、第三の街で手に入る素材を使うことでようやく手に入れられるのだが、やはりそこまでたどり着くにはそれなりの時間がかかるだろう。
 そんな中で、こんな武器を使っていたら要らぬ勘ぐりを受けるかもしれないし、下手をしたら嫉妬した一部のプレイヤーがPKしに来るかもしれない。

『あー………それはそれでめんどくさいな。いいや、人目に付かないところで使おう。成長っていうのも確かめたいし』

 ブンブンと顔を振って考えを晴らし、一先ず【胎動する双翼の暗殺刀】をインベントリに閉まうと、固まったように感じる肩を揉んで辺りを見回す。


 



 すると、先程まで座っていたベンチの近くに長い金髪をナチュラルロングにした上で頭の後ろで小さく髪を編んでいる小柄な少女が辺りをキョロキョロしながら佇んでいるのを見つけた。

 そんな様子に心の中でフッと笑うと、ステータス画面を開いてフレンド画面からあるプレイヤーにメールを送る。


 ミレニアムが操作し終わると同時にピクン!と体を跳ねさせた少女は指を空中で動かすと、すぐにミレニアムがいる方向を向き、その姿を見つけると小さく「タクト!」と声を上げてすぐさま駆け寄ってくる。

 そのまま手を広げて飛び付いてくる少女の頭をグリグリと撫でると、ミレニアムは
 

「ダメだろ?ゲーム内て本名出すのは」
と、軽く諌めるように頬をつついてそう言う。

「うー…だって名前長いもん」
「だってじゃない。長いなら縮めるとかすればいいのに…」
「じゃあ、ミレでいい?」
「たま二文字?」
「…だめ?」
「ううん、良いよ。好きに呼んで?ボクもロジティじゃなくてロジって呼ぶね?」
「…うん!」
ほのぼのと二人だけの空気を作っていると、突然スッっと二人に影が落ちる。

「こら!イチャイチャするんじゃない!」
「イッタ!?」
「ヒャン?!………うぅ〜」

 影が落ちるとともに背後から二人に降り注ぐチョップとお言葉。
 それを受けた二人は、頭を掻いて照れたり、不満げに叩かれたところを押さえながら半目になって後ろにいる人物を睨むなどとそれぞれ違った反応を示す。

「ごめんごめん。それにしても2人とも早かったね、街にいたの?」
「いいえ?外でモブ狩りしてたわ。やっぱりVRは良いわね。魔法を撃つのが楽しくてしょうがないわ!」

 横で不機嫌そうに頬を膨らませているロジティスの頭を撫でて落ち着けながらも、ミレニアムは初期装備で手頃な長さの杖を持っている女プレイヤーエスピオナの言葉に苦笑いを浮かべる。

「後の3人はどう?」
「そうねぇ………たしか、エヴァデインは野良パーティに入ってモブ狩りしてるみたい。パトリットは確か北の森にいるんじゃないかな?クリミナルはーー」
「あー!いたいたー!」

 エスピオナのそんな言葉に答えるように、辺りに凛とした鈴のような声音が響く。

「お待たせしました?」
「大丈夫よ。まだ2人来てないから」
「なら良かったです。それにしても2人は早いですね?私が教会からこっちにくるより早いなんて、びっくりですよ」
「んー私はちょうど帰って来てた最中に連絡きたからね。スピードマシマシマックスで来たわけよ。ま、ロジティスには負けたけどねぇ?」
「ぐ、偶然………だもん。鍛治施設が近くにあったからだもん」

 鈴のような声音の10人に聞いたら9人が美少女と言うであろう少女がタッタッタッと駆け寄って来た瞬間、そこにはミレニアムの立ち入ることのできない空間が気づき上げられた。



『あぁ…我らが男子メンバーよ。頼むから早く来てくれ………っ!』
 そんな心の叫びは中々天に届くことなく、結局数十分ほどした後に全員集合したのだった。

 遅れてきた男二人にミレニアムの拳が突き刺さったのは言うまでもないだろう。







 


 結局のところ、同じタイミングで連絡を入れたはずなのに全員集合したのは連絡して1時間以上後のことだった。

 男二人に至っては「今ならスタートダッシュ特典でデスペナ3回まで無しになるんやぞ!利用しない手はないだろ!」と、適正レベル外のエリアに入って死に戻りして来たのだ。


「ようやく集結したわけだが、先ずは………情報共有するか?」
「そうだなー。臨時で入ってたチームで色々試したけど、今までのシリーズで出てきたスキルのモーションとか効果とかはあんまり変更されてない…っぽいな。序盤のジョブだけしか見てないから正確に言えんけど」
「魔法は詠唱が無くなった代わりに発動まで時間がかかるみたいやね。私はジョブ効果でちょっと短縮されてるみたいだけど、バトル中だったら普通のと大差無い感じ。レベル上がったらどうなるかわかんないけどね」
「弓はあれだな、難しいけど楽しいって感じ。大体は合わせてくれるけど最後の調整は自力でって言うのかな?FPSの自動照準機能付の一人称視点で弓撃っとる気分。[鷹の目]と[集中]のコンボで今んとこは外すようなモブはいないだろうけど、ダメージの通り方からして手数よりも弱点部位を狙い撃ちした方が弓は良いな」
「え、えーっと…まだ[歌唱]とか使ってないのであまり言うこと無いんですが、街で聴いた内容だと、モブも大体おんなじみたいです。後、ヘイトの溜まり方とか変わったみたいです。あ、後NPCのおばさまがポーションの材料の薬草が心許無くなりそうだから、高く買い取ってくれるそうです」
「武具の鋳つぶしで帰ってくる素材が減少しない道具アイテム?ゲットした」

 ミレニアムが先程までいた小さいカフェのようなところに移動してテーブルを囲みながら順に今まで集めた情報を簡単にだが報告していくエヴァディン、エスピオナ、パトリット、クリミナルの4人は、ミレニアムの横にチョコンと座ってそう言うロジティスに、またかという顔をして大きく溜息を吐いた。



「これがTASの申し子、いや2代目TASの実力か………」
 天井でクルクルと廻るプロペラを見上げてそう言うエスピオナの呟きにミレニアムとロジティスを除く3人が大きく頷く。

「そういや、ロジティスもβプレイヤーだったな。と言うことはβプレイヤーに贈られた特典って結構良いもの揃いなのか?」
 エヴァディンがハッとした表情になってミレニアムの方を見てくる。

「あー・・・貰ったといえば貰ったんだけど」
「なんだよ、弱っちいのでも引いたか?」

 言葉に詰まるミレニアムに、エヴァディンが冷やかすようにそう言うが、「いや、これなんだけどね」とミレニアムがストレージから取り出した武器を見てその表情を凍りつかせる。

「オオゥ…コレはまた………」
「どれどれ?って何コレ!?成長するSANチェック!?」
 言葉に詰まるエヴァディンの横から覗き込んだエスピオナは、そう叫ぶとハッとした表情になって手で口元を押さえて辺りを見回す。

「ごめん。思わず叫んじゃった」
「いいよいいよ。どうせもう秘密チャットになってるんだし、周りには聞こえないよ」
「あ、そう………よかったー。ミレが怒るとめっちゃ怖いからヒヤッとしたよ」
「分かる、分かるぞその気持ち。マジで人が変わるからな。アレはトラウマになっても仕方ねぇよ」
 流れることのない汗を拭くように手を動かしてそう言うエスピオナに、エヴァディンが腕を組んで遠い目をしながらそう呟く。



「なんか酷い言われじゃない?ねぇ?ねぇ?」
「私はどんなミレでもいい」
「そう言ってくれるのはロジだけだよ〜」
「わっ!わっわわ!」
 真っ直ぐな瞳でそう言ってくれるロジティスをヒシッと抱きしめると、顔を真っ赤にしてバタバタと逃れようとしてくるのが愛くるしい。



「ほれほれ、そんなに抱きしめてないで、これからの予定を言ってくれよ。作戦参謀殿」
「せやな。それ以上抱きしめとったらロジっち死んでまうしな!」
「本当にありそうで怖いからやめてよねー」
「嬉死ってやつですね!」
「あ、ごめんごめん。えっと、これからの予定だよね。そうだなぁ………取り敢えず採取クエでも受けて、道草でも食べよっか」
「りょーかい。やっぱそうなるわな」
「まぁ、お決まりだからね。それじゃ、今から20分後に北門に集合かな?各自ピッケルとかの採取道具を持ってくるように」

「あ、あの!【採掘】とか【採取】とかのスキル持ってないんですけど、大丈夫なんでしょうか」
「大丈夫、大丈夫。何回かやってればスキルは勝手に生えるから。今の内に生やせそうやスキルは生やしておいた方が良いからね」
「な、なるほど?…分かりました!」
 アッサリと疑問が解消し、「スキルは生えるもの」という謎のパワーワードに若干困惑している様子のクリミナル。

「それじゃ、一旦解散!!!」
 それを特に気にすることなく、ミレニアムは各自行動に移るように言う。

「「「「「サー!イエッサ!Sir!Iessa!」」」」」
 ミレニアムの掛け声に応えるように、五人はビシッと敬礼をしながらそう声を上げ、ミレニアムとロジティスを残してバラバラに散っていった。


「さて、と。ロジに依頼したい事あるんだけど、いいかな?」
「うん。一番最初のお客さんだよ」
「そう?じゃあ、槍の作製を頼もっかな。初回特典付きのものを頼むよ?」
「任せて。種類はどんなの?始まったばっかだからあんまり種類ないけど」
「そうだなぁ…長さは2メートルくらいので、鎌槍の類いのやつが出来そうならそれお願いね。ダメそうだったら直槍型でいいから」
「わかった。北門で待っててね、すぐに作ってくるから」
 そう言うとロジティスはギルドの立ち並ぶ大通りを駆けていった。



「さて………僕も準備しますかね」
 その後ろ姿を見送りながら、ミレニアムは近くの商店に足を運ぶのだった。


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