有るものの気持ち

ゆき

日常

「おい!優希ちょっと来い!」
夜ご飯の準備中ドアが開き直樹さんと志帆さんが入ってくる。
はぁ―また来た。
薄々と言うより分かっていた。来ることは。
だって、箸を持っていこうとするとお母さんが5つ渡してきたからだ。
いつもは赤と緑と青だけの箸なのに今日は黒とピンクの箸もある。
嫌だ。来てほしくない。また殴られる。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
案の定「おい!見ろ!」と首元を掴み下を向かせる。
「なんか言ったらわかんねん!靴!靴を脱いだら並べろや!」
目がくすむ。
「ごめんなさい。」
「ちょっと直樹!何やってんの!離し!」
志帆はいつも通り碧の所に行き、碧と一緒にこちらを見ている。
俺は首から手を離され靴をきれいに並べ壁の端に並べる。
「ごめんなさい。」
俺は謝る。
しかし直樹さんは台所で手を洗っている。
俺は目を合わせないように、直樹さんの視界に入らないように走って椅子に座る。
「走るな!」
「ごめんなさい。」
「ほら!あんたも早く来て!食べるで。」
直樹さんがお母さんの隣に座る。
俺はお誕生日席だ。
碧と志帆は隣同士で座る。
ここが一番直樹さんと遠いのだ。
「いただきます。」
ご飯中も怒られる。
肘をつくな!クチャクチャ言わすな!口開けて食べるな!茶碗を持て!均等に食べろ!
今思えば全て正しいことだと思う。
直樹さんは理不尽に怒ったりもしないし手も挙げない。
けどやり過ぎる。
そんなに直樹さんが嫌いだ。


朝起き学校に行く準備をする。
朝も怒られる。
おはよう、行ってきますを言えと。
全ての準備を済ませ志帆と学校に行く。
「行ってきます!」
志帆と俺は走ってみんなが居るところに行く。
志帆が後ろに居ないがそんなことは知らない。
早く友達と会いたい!
早く学校に行きたい。
早く遊びたい!
早く!早く!


今日は碧とお留守番。
夜ご飯はレンジに入っていると冷蔵庫に紙が貼ってあった。
テレビを見ながら碧とご飯を食べる。
基本的にはご飯を食べながらテレビは観れない。
お母さんは観るのだが直樹さんが観ないので俺たちも観ない。
「お兄ちゃん。今日保育園にヤドカニが来た。」
「ヤドカニって大きくなると殻を交換するねんで。」
と、碧とそんな話をしながら食べる。
直樹さんがいる食卓は無言。
喋ったら怒られる。殴られる。
どうしてもそう思ってしまう。
この時間がずっと続けば良いのに。


「何やってんね!お前何したか分かったんのか!!」
と直樹さんに怒られる。
昨日、お母さんが家に居なかったのは小学校に行っていたからだ。
俺の担任の先生から俺の話を聞いていたのだそうだ。
藤本くんが落ち着きがなくて。
藤本くんが女の子を傷つけて。
藤本くんが藤本くんが藤本くんが藤本くんがと。
お母さんは直樹さんに毎回相談する。
その度に家に来て怒られ、ひどい日には手を挙げる。
その日は鼻血が出た。
泣くしか出来ない。怖くて怖くて。
声もでない。ただ怖くて怖くて。
この家には味方が居ない。
お母さんは直樹さんに俺のことを言う。敵だ。
碧は全部が終わってから俺の元に出来抱きついて泣く。
志帆は涙を流しながら見ている。
したくて暴れているのではない。
したくて傷付けるのではない。
したくてしているのではない。
学校に行くと‥‥違う。
外に出るとテンションが上がるのだ!
ブレーキが利かなくなる。
したい!という本能のままに行動してします。
結果的に毎回人を傷つけてる。
そして、怒られる。
何でこんな人と結婚したんだ。意味が分からない。

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