ヘンリエッテは野心家である。

エルトベーレ

第9話 実力を知りたい

ジークリードさんに連れられて来た草原は、まるで本物。風の心地よさ、瑞々しい草の香り、暖かい日差し。でもどうしてこんなところに?


「驚いたか? これは固有魔法じゃないが、空間系魔法の応用だ。ここなら好きなだけ暴れても問題ないからな。さ、かかってきなよ」
……そういうこと。ジークリードさんは、わたしが使えるか、テストしたいんだ。なら、わたしも遠慮なく……。


わたしは魔力を凝縮した塊を作り出し、その大きな塊から小さな塊へと無数に分裂させる。そして一斉に、ジークリードさんに向けて射出する。
「いきなり派手なの来たなぁ」
彼はのんきにそんなことを言いながら、その一つひとつを正確にかわしていた。


魔力は指紋のように、人によって違う。調べれば、誰の魔力かわかってしまうのだ。だからこそ、この塊には単一命令で充分。“自分と異なる魔力体を攻撃しなさい”。それだけ。
その命令通り、エネルギー体はたとえかわされてもジークリードさんを追尾して追い回す。
「へぇ、なかなか」


わたしは足に魔力を流し、彼とぐっと距離を詰める。そして、魔力を込めた拳を突き出した。
彼は避けなかった。わたしの拳を受け止めれば、動きが止まったそこに、無数のエネルギー弾が注ぎ込まれる。そういう算段だった。
「気を悪くしないでくれよ。こういうの使っても」
彼はそれを浴びてもなお平然としている。それどころか、わたしの拳は受け止められてすらいなかった。
彼に届く前に、何か不可視の壁のようなものによって阻まれている。
これは、障壁……? いや、違う。
「気づいたかい? そう、これは障壁じゃない。俺の固有魔法さ」
固有魔法……。なるほど。障壁なんかとは比べ物にならない強固さだわ。


「今度はこっちからいかせてもらおうかな」
その一言に、わたしはさっと距離を取るが、一瞬でまた詰められてしまう。
魔力の込められた拳や蹴りを、障壁を使いながら、かわすか受けるかしてなんとか凌いだ。
「うんうん。障壁はなかなか頑丈みたいだね。そんじゃ……」


ジークリードさんはポケットからカギを取り出し、天にかざした。
「開け、水門」
そう唱えて解錠する素振りをすると、さっきまで晴れ晴れしい青空だったのが、急に暗い雷雲に覆われる。
激しい雨の代わりに降り注ぐのは、雨粒が凍ってできた小さな矢。わたしはこれを障壁を張って、防ぎきる。と、そう上手くいくはずもない。
そこに、一閃の稲光とともに、天から雷霆が降ろされたのだ。
咄嗟に、わたしは二重障壁でこれも防いだ。


しかし、まだ終わらない。
その隙に、背後に回られていた。身体強化を施しているのか、ほとんど一瞬という時間で、ジークリードさんはわたしに向けて重く素早い一撃を打ち込んだ。
だが、これも障壁で受け止める。
「……ここまでできるのか。お前、もしかして……」
彼はそう呟いて、わたしから距離を取り、魔法を解いた。


もしかして……気づかれちゃった、かな。見放されたくなくて、うっかり本気でやっちゃったよ。だって、この人強いんだもん。それに、向こうはこれでも本気じゃない。


「ヘンリエッテ、研究室に戻ろうか」
「は、はい……」
わたし達は、元来たドアをくぐり抜けて、研究室に戻った。
ジークリードさんがカギを閉めると、そのドアは開かなくなっていた。

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