ヘンリエッテは野心家である。

エルトベーレ

第6話 固有魔法

「それで、固有魔法ってどんなものなんですか?」
わたしの質問には、リーゼロッテさんが答えてくれた。
「ふふふ……我がひとみが貴様を魅了したいとうずいているわ。好奇の毒に侵されたそのまなこに、奈落の闇、すなわち“深淵”をとくと焼き付けよ!」
「特別に見せてくれるって」
またもフェレーナさんが翻訳してくれた。


「闇より暗く、奈落より深き深淵よ……」
リーゼロッテさんが詠唱を始めると、辺りに暗幕が降りたように、光という光が失われていく。
「我が願いに呼応し、我が眸に映る全てをみ込み給え!」
完全に真っ暗になった闇の中に、妖しい赤い輝きが一つ。リーゼロッテさんの左目だ。
「リズの“深淵”は空間制御系魔法の一種でな、俺たちはこの空間の中では魔力制御が著しく困難になる」
「それだけじゃないわ。あのあかい眸が輝く限り、リズは三秒先を見ることができる」
それ、強すぎない……?


すると、闇が黒い炎に静かに焼かれるようにして、辺りに光が戻った。
「ふぅ……我が魂を削り、我が存在を脅かす忌々いまいましき術よ。だが、いずれ誰もがその真価を羨む刻が来るわ」
「魔力の消耗が激しくて大変なんだって」
たしかに、それだけの代償が伴うってことなのね。


「あの、リーゼロッテさんが普通に話せないのは、何か魔法的な原因があるんですか? やっぱり、どこが詠唱か気づかせないためとか!?」
わたしは目を輝かせて聞いてみた。実際、そういうのは聞いたことある。発動したのに気づくのが遅くなれば、対応できるかどうかも変わってくる。そういう意味でも、本当は思念が一番なのだ。
「むぅ……若輩者の思考は意趣深いな」
「リズ、ヘンリエッテちゃんが慣れるまでは、少し易しい言い回しにしてあげて?」
リーゼロッテさんは渋々といった様子で、それを受け入れた。


「まぁ、こんな感じさ。見たことなかっただろ?」
「はい」
そう言って、ジークリードさんは本棚から三冊の分厚い本を取り出した。
「魔法といっても、まだ本格的に魔術から発展させて年月は浅い。明確に式にできたものでもこれしかない」
これしかって、辞書三冊分もあるじゃん……。三冊はそれぞれ、初等魔法、中等魔法、高等魔法と書かれている。
「ん? ああ、まだもらってないのか。これは授業で使うから、そのうちもらえるよ。最初はこれだけだけど」
と、初等魔法の本を見せてくれた。
へぇ……これを習うんだ。


「さて、いい頃合いだし、今日はお開きにしようか」
気づけば、すっかり日も落ちていた。
「ヘンリエッテ、ここは毎日開けているから、好きな時に来なよ。もちろん、休み時間・・・・も大歓迎だ」
「ありがとうございます」
しかし、なぜかフェレーナさんは呆れたようにため息を吐いた。
「チーフ、新入生にあんまり変なこと教えないでよ?」
「善処するさ」
「まったく……」


固有魔法。わたしなら、わたしの能力・・を活かしたものにする。そしてそれは、きっと誰も見たことのないもので……。


ああ、なんだろう、この気持ち。わくわくが止まらないよ。見ていて、グレーテ様。わたしは貴方を超えて見せる!

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