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ヘンリエッテは野心家である。

エルトベーレ

第1話 待ちわびたこの日

ついにこの日がやってきた。
入学者選抜試験の結果が届いてから、いや、もっとずっと前からこの日を夢に見ていたんだもん。なんだか震えちゃう。


十二歳になれば、リューネブルク魔法学校への入学資格が与えられる。そしてこの学校では、成績上位者の希望を叶えてくれる。わたしの望みも、叶えられる。
今日からわたしは、ここの生徒になったんだ!


お母様から言われたことも、ちゃんと忘れてない。
わたしに備わった特別な力。その力はできるだけ隠しておくように、ということ。


わたしは期待に胸を弾ませながら、大きな門をくぐり、第一歩を踏み出した。



教室に入ってみると、前は大きな舞台になっていて、席は段々になって広がっている。
席は……どこでもいいのかな。とりあえず適当な席に着いた。


すると、長くて綺麗な茶髪を揺らしながら、わたしの隣に一人の少女が座った。
綺麗な人……。本当にわたしと同い年?


「私はアンネローゼ・コルン・カレンベルク。よろしくね」
隣の彼女が自己紹介してくれたので、わたしも名乗る。
「わたしはユリア・ヘンリエッテ・フォン・エッフェンベルク。ヘンリエッテって呼んでよ」
「へぇ……。エッフェンベルクの……」
彼女はそれだけ呟いて、前を向いてしまった。
あれ、わたし、何かマズいこと言ったかな……。


仕方ないのでわたしも前を向くと、先生と思しき女性が教室に入ってくるところだった。
「私はクラリッサ・ビルクナー。この十四期生の担当になった。これから四年間、よろしく頼む」


それから、この学校の施設や校則を説明され、今日は解散となる。
授業自体は明日から早速始まるらしい。今から楽しみでたまらない!


今日はこの後 寮に移り、部屋の整理をするように、とのことだった。
この学校は全寮制で、それだけじゃなく、在学中に学校の外との接触の一切を禁じられている。
わたしの部屋は、えーっと、二十二号室ね。もらったカギをドアの鍵穴に差し込み、魔力を流し込む。と、カチッと音がして、錠が外れた。
中に入ると、既に荷物は運び込まれていた。わたしはそれを一つずつ整理していく。と言っても、大して量もないので、すぐに終わっちゃったけど。


あーあ、暇になっちゃったな。家と違って抑えなきゃいけないから、魔法の練習もおおっぴらにはできないし……。うーん……。
しょうがないので、わたしは部屋を出て適当に出歩くことにした。
わたしが部屋のドアを開けるとほぼ同時に、隣の部屋のドアが開いた。そこから現れたのは、あの綺麗な茶髪の少女。えっと、名前は……。
「アンネローゼ、さん」
「……ヘンリエッテ、だったかしら?」
覚えててくれた……!
「ヘンリエッテ、これから暇?」
「あ、うん。アンネローゼさんも?」
暇なのはわたしだけじゃなかったんだ。
「そう。運動に付き合ってほしいんだけど、いい? それから、私のことはアンネでいいわよ」
「うん、わかったよ、アンネ」


運動ということで、動きやすい服装に着替えて、寮のトレーニングルームへと場所を移す。ここは一応、魔法を使ってもいい場所になっている。許可されていない場所で魔法を使うと、処罰されるらしい。
「運動って、何するの?」
「あなた、体術はできる?」
「うーん……人並みには、ってところかな」
「十分よ」
それだけ言うと、アンネはわたしの鳩尾に向けて蹴りを入れてきた。わたしは咄嗟に飛び退いて、それを避けた。
もう、いきなりなんてズルいじゃない。


今度はわたしから拳を突き出してみるけど、ことごとく避けられてしまう。
しかし、わたしも彼女のカウンターの蹴りをすべてかわしきった。


「謙遜はよくないわ。全然人並みじゃないじゃない」
「あはは……、わりと本気出してたから」
「そう……。じゃあ私も本気出してみようかしら」
アンネの纏う雰囲気が変わったのがわかった。魔法を使ったんだ。
「ちょっと、ズルくないっ?!」
「そう思うなら、ヘンリエッテも使ったらいいじゃない」
無茶を言う……。わたしは抑えながら使わなきゃいけないのに。


さっきとは比べものにならない速さで、拳が打ち出される。
これ……かわせないっ。わたしは障壁を張ってそれを受け止めた。
「そう、それでいいのよ」
この人、もしかして……わたしを試してる?


物凄いスピードで、拳やら蹴りが打ち込まれるが、なんとか障壁を使って全て防ぐ。防戦一方とはいえ、こちらにダメージはない。
すると、しびれを切らしたのか、アンネは拳に魔力をぐっと込めて、強く打ち込んできた。
あ、これ……防ぎきれない……っ。もっと魔力を……!
わたしは思わず魔力を多く引き出して、その一撃を防ぎきった。
アンネは驚いたように目を見開き、拳を放して距離を取った。
「……ありがとう。もういいわ」
「あ、こちらこそ、ありがとう」
アンネはそれだけ言って、去っていってしまった。


アンネの目が少し怖かった気がしたけど、もしかして、バレちゃったかな……。魔力使い過ぎちゃったかも。今度から気をつけなきゃ。
それでも、負けるのはどうしてもイヤだったんだもん。

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