ヘンリエッテは野心家である。

エルトベーレ

第3話 集団行動は基本

次の授業は教室で、『魔法師の心得』の授業だ。


時間通りに教室に入ってきたちょっと老けた男の先生が挨拶する。
「オレはフィデリオ・ハウザー。まずお前たちに言いたいことは、仲間を作れ、ということだ」
そこに、真っ先に手を上げて異を唱えたのは、アンネだった。
「先生、お言葉ですが、なぜ仲間が必要なのです? 私は馴れ合いは好まないのですが」
「誤解するなよ? オレは仲間と言ったんだ。友達じゃあない。そもそもの話だ、魔力って何だか、わかるか?」
みんなはもちろん、発言したアンネもそれには答えられない。
「何だ、誰も答えられないのか? 合ってなくてもいい。誰か意見を述べる奴はいねぇのか?」
わたしはそっと手を上げてみた。するとハウザー先生は、指先でこめかみをとんとんと叩いて、何かを思い出そうとする仕草をした。
「おう、そこの、えーっと、そう、ユリアか。言ってみろ」
「存在の力……ですよね?」
わたしの答えに、ハウザー先生は満足そうににやりと笑みをこぼした。
「その通りだ。魔力は生命エネルギーなんかじゃない、存在の力だ。魔力が尽きれば、そいつは誰からも認識されることなく、存在していないのと同じ・・・・・・・・・・・になる」
「魔力は回復しないんですか?」
ある女子生徒が質問する。
「一度空っぽになった魔力は回復しない。少しでも残っていれば、休息によって回復はするがな。だから仲間が必要なんだ。いいか、何かあった時、自分一人で解決しようとするな。自分一人の力でできると思うな。それが魔法師にとって大切で基本中の基本の心構えだ」
みんなは一様に静まり返り、誰もがその言葉を心に刻んだことだろう。
……そう、わたし以外のみんなは。


ちょうど授業終了の鐘が鳴り、ハウザー先生はわたし達にある宿題を課した。
「次回までの宿題だ。仲間を作れ。人数は問わん。次の授業は仲間同士で席に座るように。以上だ」



授業が二つ終わると、お昼休み。
わたしは食堂に向かい、一人で昼食を取ることにした。


アンネの意見もわかる。わたしだって、馴れ合いはあんまり好きじゃない。それに、わたしには絶対に成し遂げたい野望がある。その辺の人たちとは、意識が違うんだから。


「あ、あの、ヘンリエッテさん。一緒に、いいかな……?」
変わらずおどおどした言い方で、ハンスはお盆を持ってわたしの向かいにやってきた。
「いいよ」
そう言うと、彼は席に座る。
「ヘンリエッテさん、すごいね。魔力が存在の力なんて、知らなかったよ」
「あー……まぁね。お母さんから聞いてたから」
実際に、存在を失った人を、わたしは知っているから。いや、知らないんだけど、なんていうかな、うーん……。
「あの、さ。ヘンリエッテさん、僕と、その……友達になってくれない?」
友達……かぁ。どうしよう。あれ、なんで迷ってるんだろう。
「うん、いいよ」


「それ、アタシも仲間に入れてくれない?」
不意にかけられた声に振り返ってみると、明るい茶色のポニーテールの少女が立っていた。
「ユリアちゃん頭良さそうだし、友達になっとくと、勉強教えてもらえるかなーって」
それ、思っても言わない方がいいでしょ……。
「わかった。それから、わたしのことはヘンリエッテって呼んで」
「あ、僕はハンス。ハンス・シュレーゲル」
「オッケー。アタシはアニータ・クレッフェル。適当に呼んでよ」
アニータはそう言うなり、後ろからわたしに抱き付いてきた。
「ちょっと、アニータ。食べ辛いんだけど」
「じゃあアタシが食べさせてあげますよぅ、ヘンリエッテ様ぁ」
何で急にこんなムカつく態度になったんだろう。媚びへつらわれるのは好きじゃない。
「いいから、そういうの」
「まぁまぁ、それは冗談として、次の授業、準備してる?」
「次の授業ってなんだっけ?」
わたしの代わりにハンスがアニータに聞いてくれた。
「次は『魔法演習基礎』だよ。また訓練場に集合だって」
ってことは、ようやく魔法が使えるのね!

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