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竜王は魔女の弟子

エルトベーレ

第29x話 主人

理事長は私達を理事長室まで瞬間移動で飛ばし、ソファに腰掛けるよう促した。


「竜の力については、そいつから聞いているんだろう?」
理事長の指さす先には、意識を失いながらも私にしっかりとくっついて離れない冰波の姿がある。その安心しきったような穏やかな顔は、ちょっと可愛く思えた。


「はい。どの程度の知識かはわかりませんが」
「なら、少し手短に話す。竜の力が危険なのは目に見えてわかると思うが、我々はその危険度を段階的に指標化している」
「それがレベルですか? 冰波にレベル2までは許可していたというのは、レベル2はまだ安全ってことなんですか?」
「そうだな。比較的、だが」
確かに、レベル2でも充分意識を保てていたが、時々危ない時もあった。それに対して、大橋と呼ばれた襲撃者は、意識のある状態で暴走した冰波とやりあっていた。慣れもあるのだろうか。


「我々の見解では、レベル3を超えると自我を保てなくなると判断している。レベルの判断方法は様々だが、一番簡単なのは、竜脈の彩度が高くなるごとに、危険度が増すというものだな」
「……自我を保てないと、駆除されてしまうんですか?」
今回の冰波はレベル4相当だと言っていた。それに、あの状態からは自力で戻れないとも……。


「世界保安機構の取り決めではそうなっているな。ただ、この国の竜における権限は我々"五条"に委ねられている。そこで我々は、もう一つ駆除に関する基準を設けた」
"五条"――。千条の名を負う私もその一員だ。母様が、卒業したら大事な話があると言っていたけれど、もしかしたらこの話だったのかもしれない。
「それが、"主人テイマー"の有無だ」
「"主人"……?」
「暴走したり、自我を保てなくなった竜を手懐けられる者のことだ。"主人"をもつ竜は、原則として我々は駆除しないことにした。そいつを手懐けた時点で、お前はそいつに"主人"として認められたんだよ」
私が、冰波の"主人"……。
不思議な気持ちだ。特別な感情なんてない。友達だとは思っていた。だけど、私がいるかいないかで、彼が殺されるかどうかが決まってしまう。私は彼にとって、それほどまでに重要な存在になったのだ。その実感が、なんだかむず痒い。
「とはいえ、無用な殺生を行ったり、過度に他人の生活を脅かすなど、こちらで危険だと判断した場合は、当然駆除させてもらうからな?」
「わかりました」
彼のその衝動を抑えるのも、私の役目なのだろう。


「さて、そろそろ私は奴を駆除しに向かう。何かあれば、そいつ自身がよく知っているだろう」
「ありがとうございました」
私は、まだ意識の戻らない冰波を背負って自室に戻った。



駆除……か。
なんだか複雑だ。自分たちの行いを正当化する言葉にも聞こえる。でも、いつかは私も、"五条"の一員としてその責を負うのだ。哀しいけれど、そうも言っていられない。
彼をベッドに寝かせ、私は夕食の準備を進めた。彼が起きた時のことも考えて、少し多めに用意する。


「あれ……、千条、無事だったのか……?」
無事だったのか、じゃないってば。まったく、人の気も知らないで……。そんな思いは口には出さず、出来立ての料理をテーブルに並べていく。
「いいからまずは食べよう? お腹空いてるでしょ?」
「そうだな。ありがとう」
「いえいえ」



「なぁ……」
食べ終えて、冰波に皿洗いを任せていると、彼の方から話を振ってきた。
「……まさかお前って、洋食しか作れないのか?」
そこっ!? 昼間の話じゃないのっ?!
「だ、だから何よ……?」
「千条って、一応昔から続く伝統的な家柄だろ? 和食じゃないのか?」
「あいにくうちは"五条"の他の家柄とは違うんですぅ。だって、霊術を専門にしてるくらいだし」
ちょっと不機嫌そうに言ってみる。
……もしかして冰波は、和食の方が好きなのかな。……って、そんなの関係ないって! だったらどうだって言うのよ? 冰波の好みに合わせる必要なんてないしっ!
などと、一人で盛り上がってしまう。
「まぁ、美味いから別にいいけど」
その言葉を聞いて、妙に嬉しくなる。
彼の一言に一喜一憂するなんて、これじゃあまるで……。……いやいや、そんなわけないって。


そこで、ある人の存在が頭を過る。
「渚沙さんって、冰波の妹なの?」
……別に、嫉妬とかじゃないし。
「え……? なんでお前があいつのことを?」
当たり前だが、彼は呆気に取られていた。それに、口にしてから私もしまったと思った。……彼女はもう、この世にはいないのかもしれないのだから。


「彼女に会ったの。冰波が暴走してる時に"漆黒"の竜脈が出てきて、確かに意思を持ってるようだったよ」
「そうか……。やっぱりあの時、俺に力を託してたんだな……。何か言ってなかったか? ……恨んでる、とか。言わないか、あいつのことだし」
恨んでる。その言葉が出るということは、何か心当りがあるのだろう。
「特には言ってなかったよ。彼女が私を助けてくれたの」
「……あいつのこと、気になるか?」
「え? あ、まぁ、話してくれるなら……」
彼の瞳は私を捉えていない。私の隣、そこに誰かいるように、哀しげにじっと見つめている。


「……あいつが死んだのは、もう四年も前の、月のない夜……」

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