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竜王は魔女の弟子

エルトベーレ

第26x話 準決勝 第二試合 前編

そのまま控え室に引き上げ、何とも言えない空気になる。
「ひとまずはこれで、準決勝行きは果たしたな」
「……そうね」
千条は素っ気なく答えた。様子を見ると、心ここにあらずといった感じだ。


「……どうした?」
「……え? いや、なんでもないわ」
「何でもなくはないだろ。……疲れたか?」
連戦の末に、さっきの試合も負担をかけてしまったし、精神的な疲れもあるのかもしれないと思ったのだが。
「ううん、疲れてないわ。……ちょっと、考え事」
「それならいいんだが……。明日もあるんだし、無理はするなよ?」
俺のその言葉に返事をしないどころか、目も合わせようとしない。俺はいい加減、その態度に腹が立ち、少し強い口調で言う。
「おい、人の話を……」
「ねぇ、冰波」
が、しかし、彼女に遮られてしまう。いつになく真面目な顔つきで、実際、彼女が俺を、おい、とか、ねぇ、とか呼ばずに、名で呼ぶのは珍しかった。


「……何だ?」
「……この大会が終わったら、私たちはどうなるの?」
どうなる……? どうなるって、どういうことだ?
「どうにもならないだろ。何が言いたいんだ?」
「今は、パートナーだからこうして接してくれるの? そしたら、この大会が終わって、パートナーじゃなくなったら……?」
「なんだ、そんなことを心配してたのか……」
……もしかしてこいつ、友達いないんじゃ……。


「そんなことって……!」
「大会が終わったら、……友達、じゃないのか?」
「友達……?」
「っていうか、むしろなってくれ。友達に」
さっきまで目を合わせてくれなかった千条は、その言葉にこちらを向いた。
今にも泣き出しそうなその眼は、見るに堪えない哀しさに満ちていて、心の奥深くを抉られるようだった。


「……嫌か?」
「……ううん、嫌じゃないよ。友達……。……友達に、なってください」
「もちろん、よろこんで」
「……ありがとう」
彼女は満面の笑みとともに、堪えきれなかったのか、涙を流した。その静かな涙は俺を衝き動かし、気が付けば彼女の頭をそっと撫でていた。


「……何で泣くんだよ?」
「……ふふっ、わかんない」
「……牧野の試合、観に行くか?」
「そうね、行きましょ」
落ち着いた千条と共に控室を後にし、観客席へ向かう。俺の手には、彼女の小さくてか弱い手がしっかりと握られていた。
……あれ、友達ってこんなんだっけ?……まぁいいか。



準々決勝の最後の試合。絶望的な状況に追い込まれながらも、一瞬にして牧野のペアが逆転勝利した。
あいつは劣勢でも、どうにか付け入る隙を見つけて、ほんの一瞬で戦況をひっくり返して見せる。……やっぱり、あいつはすごい。
最近になって、俺が牧野に抱いているのは、対抗意識よりも憧れの方が強いんじゃないかと思うようになった。


「牧野たちも、準決勝行きね。これで半分は一年生ペアかぁ……」
「どうしたんだよ?」
「なんか、こんなところまで来れると思ってなかったよ。ホントはさ」
言われてみれば、ベスト4確定だもんな。牧野の背中を追いかけて来たはいいものの、少し場違いな気もしてならないな。
「……俺もだよ。思ったより相性が良かったのかもな」
「っ……!」
急に千条は顔を赤くして、何か言葉を探すように、口元を震わせている。
「どうした?」
「な、なんでもないわよっ」
そうぼやきながら、表情を見せないようにして、千条は歩調を早めた。
「あ、おい、待てよっ」
俺は置いて行かれないようにすぐさま駆け寄り、彼女の少し前に出る。


「この後、まだ少し時間あるか?」
「別に……、大丈夫だけど?」
「明日の対策、考えようと思ってさ」
「あぁ、そのことね……」
千条はなぜか少しがっかりした様子だったが、俺は構わず瞬間移動で自室に連れていく。
少し前までは、瞬間移動の度に文句を言っていたが、最近になって、ようやく慣れてきたらしい。


「明日の相手って言っても、組み直しになるんでしょ?」
「そうらしいな。だから、全ペアの分を考えておかないといけない。どこと当たってもいいように」
「個人的に、一番やりたくないのは天宮さんのところかなぁ」
確かに俺も当たりたくはないな……。莉奈さんのパートナーは、序列5位の六条だっていうし……。
「ちなみに、どうしてなんだ? 近接が苦手だからか?」
「それもあるけど、六条さんの術式は、うちのとは違って応用範囲が広いから、あんまり相手にしたくないのよねぇ」
霊術に関してこいつが弱気になるとは、珍しい。ということは、よっぽどの相手なんだろう。


「冰波はどうなの?」
一番当たりたくないところの話だろうか。こいつは主語とか述語をバッサリ省いてくるから、こうして推測しながら話す癖がついてしまう。
「俺はなんだかんだ言って、牧野のところだな。恥ずかしい話だが、未だに勝つビジョンが見えない」
「へぇ、じゃあ天宮さんのところは、勝つビジョンが見えるの?」
それを言われると辛いところだが……。


「一応毎日鍛錬に付き合ってもらったんだ。多少なりとも攻めの方向性は掴んでるさ」
「あれはどう見ても本気じゃなかったけどね……」
「それを言うなよ……」
そんな話をした後は、二人とも夜更けまで相手の分析に没頭していた。



『準決勝第二試合まもなく開始です! 東ゲートからは、二年生、二条逢衣子&同じく二年生、石川いしかわ隆久たかひさーッ!!』
向かいのゲートから、二人の剣豪が姿を現した。
……やはり、歓声がすごい。それだけで気圧されてしまいそうだ。


『続いて西ゲート! 一年生、千条絢郁&同じく一年生、冰波凌太ー!!』
それに比べれば、俺たちに対する歓声なんて、虫の羽音のようなものだ。それほどまでに、彼らの人気は高い。


この二条、石川ペアは、二人とも九条流の門下生で、霊術を圧倒するほどの剣の腕前をもつという。現にこうして、数々の霊術使いを打ち破ってここにいる。


『試合開始ッ!!』


まずは相手の開幕速攻。このペアはの攻めはどの試合も、どちらか一方を二人がかりで潰しにくる。今回の狙いは……千条だ!
千条は霊術をメインとする遠距離タイプだから、当然と言えばそうだ。


『さぁ、早速始まりました! 二条・石川ペアの"二重奏"!』


これまでの試合を見る限り、"二重奏"の名の通り、この二人が交互に剣撃を連ねていくことで、着実に相手を追い詰めてきていた。


今回は、まずは石川から斬り込んでくる。狙われた千条は、石川の逆袈裟の一撃、"壱ノ太刀"をなんとかかわしたが、大きく体勢を崩されてしまっている。
その勢いのまま石川が後ろに跳躍し、そこから追い詰めるように続く二条の"弐ノ太刀"は、あの体勢では避けきれないだろう。


そう判断した俺は、彼女が間合いを詰められる前に、瞬間移動で千条と二条の間に割って入り、千条を後ろに押し飛ばした。そして二条の水平斬りは、短刀で受けようとするが、受けきれるはずもなく、俺も吹っ飛ばされてしまった。


『おーっと?! これは冰波選手! 千条選手を庇ったぁ!』
『こういうのは、タッグバトルの面白いところよねぇ』


思ったより衝撃が大きく、体中が痛むが、休んでもいられない。向こうは再び千条に迫り、今度は二条が斬り込んできた。俺も負けじと瞬間移動し、その剣撃を受ける。
今度は姿勢も安定しているし、問題なく受けきれた。
だが、なんて重い一撃だ。その速さも凄まじいもので、目で追っていたら間に合わないかもしれない。


俺は簡単なエネルギー操作の霊術で二条を突き飛ばし、相手と距離を取った。そして向き直らずに、背後の千条に声をかける。
「……千条、俺が盾になる。だから、お前は霊術に専念しろ」
「冰波、あんた……」
「いけるか……?」
「……わかった。やるよ」

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