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竜王は魔女の弟子

エルトベーレ

第25x話 準決勝への切符

『冰波選手の一撃が決まり、一条選手共々倒れてしまったー! ……まるで抱き合うような体勢! 男子にとっては嬉しい展開なのでは……っ』
『ふふ、冰波くんは試合後の方にも気を付けた方がいいみたいね』
などと実況はふざけたことを言っているが、一条は倒れる際に俺の腕を引き寄せて、空振った右腕を俺の首筋にまわし、何か錐のような太い針で刺したのだ。


「仕込み針か……? 首の周りは、危ないんじゃね?」
「急所は外れていますよ、たぶん」
たぶんって、おい……。
確かに刺されたのは肩甲骨あたりのようで、左腕に力が入らない。


「……賭けをしませんか?」
「賭け、だと……?」
「桜井先輩っ!」
桜井は槍の名手――。抱き合うような状態――。賭け――。俺の脳裏に過った点と点が繋がる。
「まさか、お前……!」
それが本当だとしたら、瞬間移動を使えない今、うまく身体をズラして急所を外さないといけない……っ!


「逃がしません……っ!」
俺の魂胆に気付いたのか、俺が覆いかぶさっている、その下からがっちりと組み敷かれてしまう。
こうなれば、覚悟を決めるしかない。


次の瞬間、背から胸にかけて激痛が走る。予想していた通り、一条もろとも槍で貫かれたようだ。一条もかなり苦しそうな表情を見せている。


まったく、千条は何を……。……そうか、千条だ。
俺にはまた一つ考えが浮かんでいた。


『こ、これは……、桜井選手、容赦なく二人を貫いたっ!? しかし九条さん、相打ち狙いにしては、リスクが高すぎませんか?』
『それよりあれは……』
俺は竜脈を刺激し、レベル2まで引き上げた。ここまでくると、俺の竜としての"特性"も扱える。


「な、何ですか……?! それは……」
一条にも見えているこのオーラは、俺の身体から溢れだした竜脈そのもの。
霊脈を術として扱うことができるように、竜脈もまた、扱うことができる。ただし、どんな能力が使えるかは"きっかけ"に依存し、唯一無二の代物。それが"特性"。


俺は自分の"特性"、"束縛"の力を使って背に突き刺さった槍を固定する。
「ぬ、抜けない……?!」
桜井は諦めて距離を取り、霊力を固めて槍を形成しようとするが、できない。できるはずがない。


「千条! 得物を失っている今がチャンスだ!」
この双葉杯では、ペアのどちらか一方でも戦闘不能になれば敗北となる。俺の意識があるうちに、千条が桜井を仕留めてくれる方が、賭けとしては勝つ見込みが大きい。
「よし、任せてっ!」
千条とは、俺がレベル2でも霊術を扱える訓練をしてきた。
彼女のように霊術を専門に学んできた者ですら、それほどの時間をかけてようやくできるんだ。初見で対応できるわけがない。


『九条さん、あの力は何なんです?』
『……理事長に許可を得ないと、不用意な発言はできないなぁ、これは』
『そうなんですか……。何か、すごい力のようです!』


俺が千条の様子を気にしていると、援護に向かおうとしたのか、一条が俺をどけようとする。
「悪ぃけど、もう少しこのままいようぜ?」
俺は"束縛"の力で、一条と俺とを縛り付ける。


改めて見ると、結構近い。……でかいし、柔らかい。
「……一条みたいな可愛い子と抱き合えるってのも、悪い気はしないしさ」
「か、可愛くなんて……っ! ……私なんかより、千条さんの方が……」
一条は俺の言葉に律儀に反応した。心なしか、頬が少し赤い気がする。


「どこがっ!? いっつも不機嫌だし、胸ないし……」
「不機嫌なのではなくて、緊張しているのではないですか?」
胸ないことは否定してあげないんだな……。
「緊張……?」
あいつが緊張とかするようなタイプにも思えないけどな。……そもそも何に緊張するってんだ。
「私や千条さんのような、"五条"本家の娘ともなれば、男性経験なんて無いですから……」
「あぁ、あいつもお嬢様なんだっけか。そうか、そうなのか……」
男性経験がなくてどうしていいのかわからなくて、ついつい無愛想にしてしまう……。だとしたら……、もしかして、すごい可愛い奴なんじゃないか……?


「それにしても、また、敵いませんでしたね……」
「え……?」
「新星杯の時も、瞬間移動が使えるなんて知りませんでしたし、そして今回も……」
「……たまたまだよ」
瞬間移動の時は、もともと使えたわけじゃなくて、一条に勝つために覚えたんだ。今回はそういうわけではないけど、でも、ここで使うことになるとは思っていなかった。
「一条は強いからな。奥の手を隠し切れなかったんだよ」
「そう……ですか。……そう言ってもらえると、嬉しいですね」
戦っている時とは違う、普通の女の子のような笑顔だった。


『決着ー!!』
うるさいくらいの実況の声と、試合終了を告げる電子音が鳴り響く。
「終わったみたいですね」
「だな」
俺は"束縛"を解除して立ち上がり、彼女の手を取って起こしてやる。


『見事、明日の準決勝への切符を手にしたのは、千条、冰波ペア!!』


「…………。……おめでとうございます」
一瞬残念そうな表情を見せたが、そう微笑みかけてくれた。それが取り繕ったものだということは、さすがの俺でもわかった。
「あぁ、ありがとう」
だから俺は、そんな言葉しかかけてやれなかった。勝った者が負けた者に、なんて声をかけていいか、わからなかった……。


俺は彼女に背を向けて、千条の元へ向かった。
「ふふん、どうだった?」
なんて、ない胸を張って見せる。だが、その誇らしげな笑顔は眩しくもあった。
「見えなかったからわかんねぇよ……」
「あぁ、あの人とイチャイチャしてたんだもんね……」
途端に軽蔑するような眼差しに変わる。
千条は一条のこと、あの人、と呼ぶのか……。もしかして、知り合いなのだろうか?


「別にイチャイチャしてないだろ……。せっかく人が活躍の場を作ってやったというのに……」
「そ、それは……、確かに、あの人を押さえててくれたのは助かったけど……」
またいつもの不機嫌そうな顔になる。段々見慣れてきたせいもあるのか、はたまたさっきの会話のせいなのか、何だかこれが愛らしく見えてきた。


「でもよく頑張ってくれたよ。ありがとうな」
頭を撫でてやると、驚いたような顔を見せ、すぐに照れくさそうにしながらも、俺を拒んだりはしなかった。

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