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竜王は魔女の弟子

エルトベーレ

第23x話 手料理

倒れた千条を介抱するが、彼女は目を覚ますと、俺から飛び退くように離れた。


「詰めの甘い攻めだったな」
「……うるさい。冷静さを欠いてただけよ」
「そうかい。少し休んだら続きな。……次は、竜の力も使う」
「えぇ……」
露骨に嫌そうな顔をされる。あの時のことを思い出したのか、少し恐怖すら浮かんでいるようにも見える。


「べつにやり合うわけじゃねぇよ。調整しようと思ってな」
「調整? 何の?」
「俺の竜の力は、このままだと千条の霊術も打ち消しちまうだろ? それを何とか打ち消さないように、出力を調整すんだよ」
俺の言葉を聞いて、心底安心したように無い胸を撫で下ろした。
莉奈さんの絶壁っぷりには敵わないが、普通以下であることは間違いない。
「……何?」
「何も言ってないぞ?」
「いや、何か言いたそうだったから」
「気のせいだ。始めるぞ」
強引に誤魔化し、再開する。


「それで、どうすればいいの?」
「まずは適当に結界を張ってくれ。それを壊さないように調整する」
「わかったわ」
答えるなり、千条は再び結界を展開した。さっきと同じ、"熱"属性のやつだ。


俺は竜脈を刺激して、力を引き出す。
まずはレベル1。これで壊れるようなら使い物にならないと思ったが、……ひとまず一瞬で壊れはしない。
「千条、どうだ? 何か違和感はあるか?」
「違和感、ありまくりよ……っ! 霊脈の流れがめちゃくちゃ……。なんとか調律して維持してるけど、こっちに集中してないとすぐ壊れるわ」
俺にはさっぱりだが、彼女も彼女で高度なことをやっているようだ。


「霊脈の乱れは整えられそうか?」
「今やってる。……うん、なんとかいけそうね」
だが、彼女の額からは大粒の汗が滴り落ちていっている。千条の術式は術者に影響を与えないはずだから、この熱のせいではない。恐らく、相当な集中力を要しているのだろう。


「その状態で敵に襲われたら、迎撃できそうか?」
「無理。"火彩龍"はこの結界とリンクしてるから別だけど、他にもう一つ式を展開なんて、とても無理よ」
"火彩龍"っていうのは、このさっきから暴れまわっている炎の龍のことだろう。


「敵の攻撃は避けられるか?」
「速いのは無理ね。遠距離とか、着弾点が予測できるものなら、できるかも」
つまり、パートナーとしての、俺の協力が必須というわけか……。
協調性はある方じゃないが、それを言うなら千条も同じだろう。だが、協力なしでは初戦敗退だってあり得るかもしれない。嫌でもやるしかない。
「わかった。……少し休もうか」


「……ふぅ」
千条は結界を解き、張り詰めた気を抜くように、大きく息を吐いた。
「大丈夫か? すごい汗だぞ?」
「あんなめちゃくちゃな状況、初めてよ……」
そうは言いながらも、どこか狂気じみた笑みを浮かべている。
「……それにしては、楽しそうだな」
「そうね。楽しかったわ。……なんていうか、あんなにめちゃくちゃな作業でも、不可能じゃない気がしたのよね」
こいつも大概、霊脈に干渉するのが好きなんだな。困難に直面しても、それを打破したい、自分の力でどうにかしたいって欲求の方が強いんだろう。


「次はもっとハードにやるか?」
「望むところね」
とは言ったものの、太陽の昇り具合からからして、そろそろ昼か……。
「その前に、昼飯にするぞ」
「はーい。って、ちょっ!?」
俺は瞬間移動で千条ごと部屋に戻る。


「瞬間移動するなら言ってよ……。なんか変な感じするんだもん、これ……」
「ほれ、これで汗拭いとけ」
と、俺は洗面所からタオルを持ってきて、千条に投げ渡す。
「どうも。……お昼は?」
「これから作る」
「あんたが作んの?」
不安げな視線を向けられる。
確かに得意とは言わないが、全くできないわけでもないのだが。
「……嫌ならお前がやれ」
「いいわよ。……食べられないもの作られても困るしね」
「……そうかよ」
全然信用されてないんだな……。
少なくとも千条の方が、俺より料理できると判断されたようだ。


「どれ使っていいの?」
「あるもの好きに使えよ。俺はそこ管理してないから知らん」
いつもは莉奈さんが作ってくれるから、俺はほとんどいじっていない。たまに食材を買い足すくらいだ。
「は? あんたの部屋でしょ? どうやって生活してんの……?」
「料理作ってくれる人がいるんだよ」
「はぁ!? なっ、何、か、かのっ、彼女、とか、い、いるのっ……?」
……焦りすぎだろ。面白いやつだな。
「いねぇよ。いつもは莉奈さんが作りに来てくれるから」
「莉奈さんって……、天宮さん?」
「そう。いいから早く作れよ」
「どういう関係……」
「早く作れ」
面倒くさくなって、千条の言葉を遮るようにして急かす。
「じゃあ、後でたくさん聞かせてもらうから」
なんて、不敵な笑みを見せながら台所に向かっていった。



千条の手料理は洋食で、あるもので作ったにしてはかなり上々の出来だった。
「ごちそうさま。美味しかったよ」
「そんなの当たり前だから、いちいち言わなくてもいいわよ」
とは言いつつも、結構嬉しそうだ。珍しく表情から不機嫌さが消えている。


「それで、天宮さんとはどういう関係なの?」
「莉奈さんは俺の師匠だよ」
「へぇ……」
「…………」
何? この沈黙……。
千条は明らかに俺の言葉の続きを待っているが、俺はこいつに話すことなんて何もない。


「……えっ、それだけ?」
「他に何が?」
「うーん……、なんか、こう……、まぁいいわ」
釈然としない様子ながら、勝手に一人で解決したようだ。何なんだ? まったく……。
「莉奈さんは俺のこと、手のかかる弟みたいなもんだって言ってたし、お互いに、好きとかそういう気持ちはねぇよ」
納得していない様子の千条にそう付け足したが、それでも納得はできていないようだった。


「そういうお前は、彼氏とかいるのか?」
「いないわよ」
「だろうな。その性格じゃなぁ……」
顔はだいぶ整っている方だが、常時不機嫌モードで気が強いところはかなりマイナスポイントと言えるだろう。おまけに胸もないしな。
「あんたに言われたくはないわ!」
「さて、トレーニングに戻るとするか」
面倒になった俺は、強引に千条を先ほどの空き地に連れ出した。


「だから、言ってって言ったじゃん……!」
……また不機嫌モードに戻ってしまった。



午前に引き続いて、霊脈が乱れた状態での演習と、レベル2での調整をしたが、千条の方はかなり参ってしまったようだ。


「大丈夫か?」
「はぁ……はぁ……、これくらい、どうってことないわ……」
そう強がってはいるものの、その場に座り込んで、肩で大きく息をしている様子から、大丈夫でないことは見て取れる。


「とりあえず、部屋まで送っていくよ」
と言っても、一瞬で済むのだが。
「明日はゆっくり休めよ」
「……明日は、練習はいいの?」
「そんな体で無茶するな。……本番、倒れられても困るしな」
「そう……だよね。ありがとう」
千条の言葉を背に立ち去ろうとして、ふと足を止める。
「……お前、今日一人で大丈夫か?」
「……は? 何で?」
「いや、疲れて動けないんじゃないかと思ってさ」
千条が強がるのをいいことに、ここまで無理させてしまったのも、俺の責任と言えばそうだ。実際千条は、まだ息も整わないほどぐったりした様子だし……。
「大丈夫よ。……心配してくれてありがとう」
そのとき見せた笑顔は、いつもの不機嫌な様子からは想像もできないほど可憐なものだった。
「それならいいんだ。……じゃあ、またな」
俺は彼女の返事を聞かぬまま、部屋を去った。気恥ずかしくて、まともに顔を見れる気がしなかったのだ。

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