竜王は魔女の弟子
第22x話 出力調整
空が浅葱色に変わっていき、鳥たちがもうすぐ日が昇ることを教えてくれる。
ここのところ莉奈さんと朝練していたからか、かなり早い時間に目が覚めるようになってしまった。
トレーニングの場所は、いつも莉奈さんと朝練している空き地でいいだろう。少し早いが、迎えに行くか。
俺は座標を合わせ、千条の部屋に飛ぶ。
カーテンは閉め切られていて、まだ眠っているようだ。俺はそのカーテンを開け放つが、起きる気配はない。
そのまま千条の寝顔を眺めていたら、変なことを考えついてしまう。俺はちょっとした出来心から、眠っている千条の首筋に顔を近づけた。
この部屋は前に訪れた時と同じ、柑橘系のような、少し甘酸っぱい匂いがするが、この部屋の主は違った。
風呂上がりでもないのに、湯煙に包まれているような、そんな匂いだ。甘いとか酸っぱいとか、味覚的表現では表せない、不思議な匂い。だが、悪くない。むしろ、気高さや上品ささえ感じる。
「ん……ぅ……」
千条が声を漏らしたのに反応して、音をたてないように素早く距離を取る。が、起きたわけではないようだ。
鼓動が落ち着かない。まるで、いけないことをしているんだと自覚させるようだ。
恐る恐る、再び歩み寄るが、そう何度もうまくはいかなかった。
「ん……ふわぁ~……んぅ……?」
伸びをして、目をこする千条と目が合う。
「……おはよう」
「っ……?! ……っ!?」
一瞬固まって、そのまま怒りと羞恥に目を見開き、口元を震わせて、言葉にならない声を発している。
「場所は決めてあるから、準備できたら行くぞ」
なんて白々しく言うも、問答無用で部屋から追い出されてしまった。殴られたり、悲鳴を上げられなかっただけマシか……。
「そんな邪見にしなくてもいいだろ? パートナーなんだし」
「ちょっ、あんた、どこから?!」
「時空の彼方から」
師匠の受け売りだ。……実は、一度言ってみたかった。
「ふざけないで……っ!」
「寝顔見たのは謝るからさ。あと部屋に勝手に入ったのも。だから、怒らないでくれないか?」
「いいから出てって! き、着替える、から……っ」
「あ……、ごめん……」
なぜだかそこには気が回らなかった。それから、匂いを嗅いだことは黙っていよう。さすがにそれを言うと、殺される気がする。
しばらくして、着替えて身だしなみも整えた千条がドアを開けた。
「……それで、場所はどこなの?」
……怒らないんだろうか?
俺は千条の肩に手を乗せ、いつもの場所に飛ぶ。
「ここだ。開けてて、使えそうだろ?」
「驚いたわ……。瞬間移動って、こんな感じなのね……」
「千条の術式にはそういうのないのか?」
霊術に通じていると思っていただけに、その物珍しそうな反応は意外だった。
「自分が移動するものは……ないわね。私の知る限りだと」
千条式霊術も、他の"五条"の家柄と同じく、対人・対竜用のもので、日常的なものではないのだろう。
「さて……」
「え?」
空気が変わり、千条が再び怒りの色を露わにする。
「まさか、そのまま済むと思ってないでしょうね……?」
あぁ、やっぱり怒ってますよね……。
「悪かったって。ちょっとした出来心というか……、まぁ、たしかに少し寝顔に見惚れてたのは事実だけど……」
「なっ!? ふ、ふざけたこと言わないでっ! この怒り、思いっきりぶつけてやるんだから!」
「……わかった」
俺は莉奈さんの言葉を思い出す。攻撃に繋げる回避、ね……。やってみるか。
「もちろん竜の力は禁止よ」
「いいぜ。ただ、俺も一方的にやられるんでは面白くない。反撃できるならさせてもらうからな?」
「……できるなら、すればいいわ」
相変わらずの上から目線だ。だが、それは自信の裏返しとも取れる。
事実、彼女の霊術の腕は確かで、それを封じられないとなると、かなり厳しいだろう。しかし、こういう圧倒的逆境に対処できなくては、牧野とはやりあえない。
……色々と、試させてもらうぜ。
俺が短刀を構えると、千条は相も変わらず結界を展開した。
結界内の気温が急激に上昇し、灼熱の大地から龍の形をとった炎が吹き上がる。
「牧野との試合で使ってたやつか」
「えぇ。私は"熱"属性の術式を気に入ってるの」
属性とかあったのか。"火"でなく"熱"ということは、牧野の氷の術式は"冷"の属性なんだろうか。
まずは接近戦に持ち込みたいところだが、吹き上がる炎が俺に襲いかかるように向かってきて、近づけない。
さらに千条は、先日の"決闘"でも見せた、炎の大波を放ってくる。
あの時は打ち消せたからいいが、こんなの避けるのは無理だ。かといって、俺は防御術式は使えない。
仕方なく、俺は瞬間移動で一度上空に退避し、なんとか避けきった。
「瞬間移動はズルくない?」
などと不満そうに言うので、俺も負けじと返す。
「……広範囲攻撃はズルくない?」
「じゃあこれで……!」
次に千条が展開したのは、さっきとは違う炎の龍。
その龍は千条の側に侍るように漂うと、その大きな口を開き、俺に向けて炎の玉を吐き出した。
速さも大したものながら、問題なのはその数。牧野との試合を彷彿とさせるような、安全地帯がないくらいに発射してくる。
「あんまりっ、変わんねぇじゃねぇかっ」
千条式ってのは、どうしてこうも派手なのばっかなんだ……。
俺は大きく動かずにギリギリを避けていき、厳しいところは短刀で斬って受ける。
避けながら少し間合いを詰めるが、これ以上近づくと、その速さに反応できそうにない。
「これを避けるのに専念してたら、こっちはどうするの?」
気付けば、背後にはもう一体の炎の龍が迫っていた。
いつもなら、瞬間移動で後ろに大きく距離を取っただろう。だが、ここは一か八か、突攻してみることにした。
莉奈さんには悪いが、俺にはまだあんな器用な回避はできないからな。それに、一番千条がされたくないのは、強引に距離を詰められることだろうし。
俺は勢いよく前に飛び出し、避けられるものだけ避けて、千条との間合いを一気に詰める。そしてそのまま拳に霊力を込め、まずは厄介な龍を破壊する。
俺が突っ込んできたのに迎撃しようと、千条は霊力で剣を形作って構えるが、俺はその剣の間をかわして、そのまま吹っ飛ばす。
結界が消滅し、千条の様子を見に行くと、意識を失っていた。
少しやり過ぎたか……。
ここのところ莉奈さんと朝練していたからか、かなり早い時間に目が覚めるようになってしまった。
トレーニングの場所は、いつも莉奈さんと朝練している空き地でいいだろう。少し早いが、迎えに行くか。
俺は座標を合わせ、千条の部屋に飛ぶ。
カーテンは閉め切られていて、まだ眠っているようだ。俺はそのカーテンを開け放つが、起きる気配はない。
そのまま千条の寝顔を眺めていたら、変なことを考えついてしまう。俺はちょっとした出来心から、眠っている千条の首筋に顔を近づけた。
この部屋は前に訪れた時と同じ、柑橘系のような、少し甘酸っぱい匂いがするが、この部屋の主は違った。
風呂上がりでもないのに、湯煙に包まれているような、そんな匂いだ。甘いとか酸っぱいとか、味覚的表現では表せない、不思議な匂い。だが、悪くない。むしろ、気高さや上品ささえ感じる。
「ん……ぅ……」
千条が声を漏らしたのに反応して、音をたてないように素早く距離を取る。が、起きたわけではないようだ。
鼓動が落ち着かない。まるで、いけないことをしているんだと自覚させるようだ。
恐る恐る、再び歩み寄るが、そう何度もうまくはいかなかった。
「ん……ふわぁ~……んぅ……?」
伸びをして、目をこする千条と目が合う。
「……おはよう」
「っ……?! ……っ!?」
一瞬固まって、そのまま怒りと羞恥に目を見開き、口元を震わせて、言葉にならない声を発している。
「場所は決めてあるから、準備できたら行くぞ」
なんて白々しく言うも、問答無用で部屋から追い出されてしまった。殴られたり、悲鳴を上げられなかっただけマシか……。
「そんな邪見にしなくてもいいだろ? パートナーなんだし」
「ちょっ、あんた、どこから?!」
「時空の彼方から」
師匠の受け売りだ。……実は、一度言ってみたかった。
「ふざけないで……っ!」
「寝顔見たのは謝るからさ。あと部屋に勝手に入ったのも。だから、怒らないでくれないか?」
「いいから出てって! き、着替える、から……っ」
「あ……、ごめん……」
なぜだかそこには気が回らなかった。それから、匂いを嗅いだことは黙っていよう。さすがにそれを言うと、殺される気がする。
しばらくして、着替えて身だしなみも整えた千条がドアを開けた。
「……それで、場所はどこなの?」
……怒らないんだろうか?
俺は千条の肩に手を乗せ、いつもの場所に飛ぶ。
「ここだ。開けてて、使えそうだろ?」
「驚いたわ……。瞬間移動って、こんな感じなのね……」
「千条の術式にはそういうのないのか?」
霊術に通じていると思っていただけに、その物珍しそうな反応は意外だった。
「自分が移動するものは……ないわね。私の知る限りだと」
千条式霊術も、他の"五条"の家柄と同じく、対人・対竜用のもので、日常的なものではないのだろう。
「さて……」
「え?」
空気が変わり、千条が再び怒りの色を露わにする。
「まさか、そのまま済むと思ってないでしょうね……?」
あぁ、やっぱり怒ってますよね……。
「悪かったって。ちょっとした出来心というか……、まぁ、たしかに少し寝顔に見惚れてたのは事実だけど……」
「なっ!? ふ、ふざけたこと言わないでっ! この怒り、思いっきりぶつけてやるんだから!」
「……わかった」
俺は莉奈さんの言葉を思い出す。攻撃に繋げる回避、ね……。やってみるか。
「もちろん竜の力は禁止よ」
「いいぜ。ただ、俺も一方的にやられるんでは面白くない。反撃できるならさせてもらうからな?」
「……できるなら、すればいいわ」
相変わらずの上から目線だ。だが、それは自信の裏返しとも取れる。
事実、彼女の霊術の腕は確かで、それを封じられないとなると、かなり厳しいだろう。しかし、こういう圧倒的逆境に対処できなくては、牧野とはやりあえない。
……色々と、試させてもらうぜ。
俺が短刀を構えると、千条は相も変わらず結界を展開した。
結界内の気温が急激に上昇し、灼熱の大地から龍の形をとった炎が吹き上がる。
「牧野との試合で使ってたやつか」
「えぇ。私は"熱"属性の術式を気に入ってるの」
属性とかあったのか。"火"でなく"熱"ということは、牧野の氷の術式は"冷"の属性なんだろうか。
まずは接近戦に持ち込みたいところだが、吹き上がる炎が俺に襲いかかるように向かってきて、近づけない。
さらに千条は、先日の"決闘"でも見せた、炎の大波を放ってくる。
あの時は打ち消せたからいいが、こんなの避けるのは無理だ。かといって、俺は防御術式は使えない。
仕方なく、俺は瞬間移動で一度上空に退避し、なんとか避けきった。
「瞬間移動はズルくない?」
などと不満そうに言うので、俺も負けじと返す。
「……広範囲攻撃はズルくない?」
「じゃあこれで……!」
次に千条が展開したのは、さっきとは違う炎の龍。
その龍は千条の側に侍るように漂うと、その大きな口を開き、俺に向けて炎の玉を吐き出した。
速さも大したものながら、問題なのはその数。牧野との試合を彷彿とさせるような、安全地帯がないくらいに発射してくる。
「あんまりっ、変わんねぇじゃねぇかっ」
千条式ってのは、どうしてこうも派手なのばっかなんだ……。
俺は大きく動かずにギリギリを避けていき、厳しいところは短刀で斬って受ける。
避けながら少し間合いを詰めるが、これ以上近づくと、その速さに反応できそうにない。
「これを避けるのに専念してたら、こっちはどうするの?」
気付けば、背後にはもう一体の炎の龍が迫っていた。
いつもなら、瞬間移動で後ろに大きく距離を取っただろう。だが、ここは一か八か、突攻してみることにした。
莉奈さんには悪いが、俺にはまだあんな器用な回避はできないからな。それに、一番千条がされたくないのは、強引に距離を詰められることだろうし。
俺は勢いよく前に飛び出し、避けられるものだけ避けて、千条との間合いを一気に詰める。そしてそのまま拳に霊力を込め、まずは厄介な龍を破壊する。
俺が突っ込んできたのに迎撃しようと、千条は霊力で剣を形作って構えるが、俺はその剣の間をかわして、そのまま吹っ飛ばす。
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